4.7.効率よく行きましょう
ローズに教えてもらった酒場、羽休めは非常に良い店だったように思う。
酒こそ飲まなかったが、料理はうまいし、接客は丁寧だし、乱暴な客はすぐに放り出すしで文句無しの酒場だった。
初めて店の外に放り出されるところを見たのは衝撃的だったが、それを普通にやってのける店員と、それをみて盛大に笑う客達を見て、この世界はこれが普通なのかと納得する。
だが金額は少し割高だった。一人当たり銀貨五枚くらいか。
随分注文してしまったから、それくらいだったのかもしれないが……これで酒を頼んでいたら一体どれくらいになったのだろう……。
だがまだまだ金にはゆとりがあるし、あまり気にしない方がいいだろう。
さて、俺達は宿に戻って眠り、また朝を迎えたわけだが……昨日のことを考えると三人や四人で依頼を受けていると効率が非常に悪いという事に気が付いた。
なので、今俺達は俺の当てがわれた部屋に集まってもらって会議をしている最中である。
「さて、先ほども言った通りこのままでは一日を凌ぐ程度の金しか稼ぐことはできないと言うのは明白。そこで、何か案を出してもらいたいと思うが、ウチカゲはその解決法知ってそうだから最後な」
「はい」
「てことで、まず零漸。この状況を打破するにはどうしたらいいですか?」
「はい! さっさとランクを上げて高ランクの依頼を受ける事です!」
「阿保」
「ぐっほぁ!!?」
拳の形をした水で思いっきり零漸の頭を叩く。
零漸の言っていることはあながち間違いではないが、その過程をすっ飛ばしているので答えにはならない。
今回はその過程を会議しているところなのだ。
「はい、次はアレナ」
「んー……一番報酬の高い依頼を選ぶ?」
「間違いではないな。だがそれにもう一声必要だ」
「んーー……」
「わかったっす! 一番高額な依頼はSランクなので、それを受けぐぼあ!?」
だから過程をすっ飛ばすな。
「あ。依頼をいっぱい受ける……?」
「うん。まあ正解でいいか。さっきのアレナの答えをまとめると、報酬の高い依頼を沢山受ければこの状況打破できる。俺達は四人いるし、できないことは無いはずだ」
流石に今のまま四人で一つの依頼をこなすというのは効率が悪すぎる。
恐らく低ランク帯の依頼は、一人でこなすことを目的として作られている物ばかりなのだろう。
「と、いうわけで、Dランクに上がるまで今日から各自別行動をとって個人で依頼をこなしていこうとおもうがどうだろうか?」
「俺は異論ありませんが……アレナが心配ですね」
「大丈夫だもん!」
「オークと戦った時のこと忘れたか? アレナについては受ける依頼を見てから同行するかどうかは決めような」
他の二人はともかく、子供を一人だけで行かせるわけにはいかないだろう。
どれだけ強い技能を持っていたとしても、それだけで解決していい物などほとんどないのだ。
……アレナは脳筋っ気があるので誰かが保護者になっていないと心配と言うのが本音である。
とりあえず話し合いはこれで終わりにし、早速実施していこうと思う。
だが俺は確かめたいことがあるので今日はお休みだ。
依頼は三人に任せ、アレナの受ける依頼には零漸とウチカゲの判断で同行するかどうかを決めてもらうことにする。
さて、俺はお休みだがただ何もしないというわけではない。
昨日俺達が採取したヒポ草、プラリス草、そしてレッドグポップを薬を扱うお店に売り歩いていこうと思う。
ヒトロの実も本当であれば売りたかったが、鮮度が大切だとあの依頼書に書いてあった。
なのでもぎ取ってから時間が経てば品質が落ちる可能性があったので、あれだけはそのまま採取せずに置いておいたのだ。
だがヒトロの実は非常に美味であった。
例えを言うのであればマンゴーのような甘さがあったのだが……まさかこの世界に来てマンゴーの味をもう一度堪能できるとは思ってもみなかった。
リンゴのような見た目はしていたのだがな……。
と、いうことで俺は薬草を売りに行く為、手始めに昨日ウチカゲが情報を収集していた場所に訪れることにした。
今手持ちにある薬草の数は、ヒポ草が五十本、プラリス草が二百本、そしてレッドグポップが二十個だ。
一件につきヒポ草を五本、プラリス草をニ十本、レッドグポップを二つずつ売れば、丁度ニ十件は回れるだろう。
「邪魔するぞー」
「いらっしゃい。おお、あんたかい。今日は一人かね?」
「そんなもんだ。買い取って欲しい薬草があるんだがいいか?」
「おお、ええぞええぞ。今はヒポ草が不足しとるからそれを売ってくれると非常に助かるんだが……」
「じゃあこれだ」
そう言って先ほど準備していた数をカウンターの上に置く。
老人は真っ先にヒポ草を手に取ってまじまじと観察し、次にプラリス草、そしてレッドグポップを見て大きく頷いたが、何か疑問があるようで少し首を傾げていた。
「良い……物ばかりじゃの。これだと相当森の奥に入らなければ手に入らんのだが……大丈夫だったのかえ?」
「そんなに奥には入ってないと思うけどな……。まあ駆け出しが動き回るには手に余る場所だったようには感じたが」
「というか……レッドグポップは山を一つ越えなければならん場所にしかない。一日で持って帰ってくるなんて聞いたこともないわ」
「まあまあ。深いことは気にすんなって。オークとビッグヒールスライムと戦っただけだし問題ないさ」
「何!?」
老人とは思えぬ大きな声を聴いて、俺は肩を上げて驚いてしまった。
ただでさえ静か気な店なのに、そんな大きな声を聞かされたら驚いてしまうものである。
「驚いたな……なんだよ……」
「オークってあのオークか!?」
「あ、ああ。随分デカかったけどな。この家くらいあったんじゃねぇか? 倒したけど……」
「び、ビッグヒールスライムは!?」
「あれもでかかったな。どっちも倒せたからギルドには報告してないけどな」
それを聞いて老人は、へなへなと椅子に座りこんで大きくため息を漏らした。
安堵した……というか、呆れたようなため息だったことが若干気になったが……そんなに大事なのだろうか?
なんせあの二匹は非常に弱かったように感じる。
オークは頭悪そうだったし、アレナでもそれなりに善戦できていたのがその証拠だ。
ビッグヒールスライムは……特に何も言うことは無い。
「えっと……お主名前を何と言ったか」
「応錬だ」
「応錬殿か。わしはタトムじゃ。とりあえずビッグヒールスライムとオークの件についてはギルドに知らせておいてくれ。ビッグヒールスライムは生命力が強いし、分裂していたらヒポ草を根こそぎ食べてしまうので本当に厄介なのじゃ。オークは一匹だったのだろう? という事は斥候の可能性がある。被害が出る前に巣を叩いておかんと大変なことになるからの」
「む……失念していた。わかった。後でギルドに報告しておこう」
俺は少しばかり自分勝手だったことに反省する。
考えてみたら、ビッグヒールスライムが一匹と言う可能性は何処にもない。
既に分裂している可能性があるし、もし分裂しているのであれば周囲のヒポ草は本当に根こそぎ無くなってしまう。
オークのことに関しても斥候という可能性を全く考慮していなかった。
確かにあの大きさのオークが、立派な装備を付けて一匹でこの辺りに来るというのは少しおかしいと思う。
装備を付けているという事は、装備を作り出す機関があるという事であり、何処かに仲間がいる可能性は十分にあったのだ。
倒してしまったのは少し不味かったかもしれない。
斥候が帰ってこないと、相手方は慌てているかもしれないからだ。
ぶっちゃけ俺があいつらに宣戦布告したようなもんだしな……。参ったね。
これは用事より先に報告をしておいた方がいいかもしれないな。
「頼むぞ?」
「おうよ。で、買取なんだが」
「ああ、ちょいと待ってくれよー……」
結果として、ヒポ草は銀貨十五枚、プラリス草は銅貨九枚、そしてレッドグポップは金銭二枚で売れた。
品質や大きさの問題で一本一本の金額にばらつきはあったが、それでも十分すぎる金額だ。
何より……。
「レッドグポップ高くね!? こんなふざけたキノコなのに!」
「採取場所が遠いから高額で取引されておるんじゃよ。それに薬やポーションに作り替えれば、そんな金額安い物じゃからの」
「それを売ってくれた本人の前で言うなよ……」
因みに今回売ったレッドグポップは『俺だ俺だ俺だ俺だ』と書いてある自己主張の強い物だったのだが……まさかそんなに高額だとは思ってもみなかった。
馬鹿にしたことを少し反省することにする。
因みに今のポーションの相場を聞いてみたところ、ヒールポーションは一つにつき銀貨五枚、マナポーションは少し安くて銀貨三枚と、なんとも駆け出しにはなかなか手の出ない金額であった。
これもこの店での話なので、他の場所ではもう少し安かったり高かったりと変動しているらしい。
まあ、俺達にヒールポーションは全く以て必要ないし、マナポーションは飲みたくないので買うことはしないだろう。
それに俺はMPがもう四桁あるのだ。
もうマナポーションのお世話になることは無いだろうし、なりたくもない。
とりあえず、今回貰ったお金を一つに小さな袋に包んで魔道具袋の中に放り込んでおく。
採取だけでもこれだけ儲けが出るのであれば、低ランク帯の依頼をこなす人は本当にいなくなりそうだ。
つーか待てよ?
昨日受けた依頼って、ヒポ草五つで銀貨一枚とかふざけたような内容だったよな……。
俺めちゃくちゃ損してるじゃねえか! ここで全部売ってたら金貨は確実に手に入ってるぞ!?
「……俺、今度から採取系の依頼は受けずにここに持ってくるよ……」
「それは嬉しい。できたらお客も連れてきてほしいんだがね」
「それは商人であるあんたの仕事だろ……。じゃ、俺はこれで」
「はいはい、今後ともご贔屓に~」
ギルドに騙されたような気分になりながら、俺は報告をしに行く為に一度ギルドに向かうことにした。
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