4.6.結果報告と調査


 サレッタナ王国に帰ってくると、日はすっかり沈んでしまっていた。

 そんなに山の中にいたわけではなかったのだが……やはり道中に問題がありそうだ。


 ウチカゲと合流しないと依頼は達成できないので、待ち合わせをしていた場所に向かったところ、すでにウチカゲは待っていたようだ。


「おーい、ウチカゲー! 帰ったっすよー!」

「お帰りなさい」


 ウチカゲは手提げ袋のようなものを肩にかけており、その中に採取してきたレッドグポップが入っていると教えてくれた。

 どうやら無事に採取することができたようだ。


 しかし……レッドグポップというキノコはどういう物なのだろうか?

 個人的に非常に気になるので見せてもらうことにした。


「これです」

「「……え?」」


 ウチカゲが見せてくれたキノコに、俺と零漸は同時に声を上げた。

 何故かと言うと、そのキノコが非常に面白い物だったからだ。


 見た目は普通のキノコなので、傘に文字が書かれているというのは情報通り。

 しかし、俺たちが気になったのはそこではなく、書かれている文字の意味が問題だった。


『食べないでください!』

『僕は美味しくありません!』

『五本当たり銀貨五枚です』


 こんなの笑うに決まっている。


「あはははははははは!!」

「ふざけすぎだろこのキノコ……」


 こんな自己主張の激しいキノコがあってたまるかと、俺は心底思ったが、こいつらも生きていくのに必死なんだなと少しだけ感慨深くなった。

 しかし文字だけで見逃してもらえるとでも思っているのだろうか?

 自然界はそんなに甘くないと思うのだが……このキノコ達はどうしてこんな進化をしてしまったんだろうか。


 まあ、そんなことはさておき、ヒトロの実は鮮度が大事だと書いてあったため、さっさとギルドに依頼達成報告をしに行こうと思う。

 ついでにウチカゲと零漸のランクも俺たちと一緒のランクにあげてもらわないといけない。

 その事を二人に説明したところ、零漸は喜んでいたがウチカゲは非常に驚いていた。


「え!? ヒポ草だけでいくつの依頼を達成したんですか!?」

「何個だっけ……二十五個くらいだっけ……」

「応錬、二十八個」

「そうだったか」

「そんなに……。てなるとあと少しでE+に昇格するかもしれませんね」

「速いな!」


 大体十個の依頼を達成したら昇格する……と考えてよさそうだ。

 Dランクから昇格試験があるというし、その内容もついでに聞いておくとしよう。


 冒険者ギルドに向かった俺たちは、昼に来た時とは人の数が尋常でなく増えていることに困惑しつつも、依頼達成報告をしに行く為に低ランクカウンターに向かう。

 低ランクという事もあり、順番待ちをすることになったが、従業員はカウンターごとに三人いるためそんなに待ち時間は長くなかった。


 四人分のギルドカードと一緒に、依頼書と採取してきたものをカウンターの上に置く。


「じゃ、これを頼む」

「はい。…………はい、確認いたしました。では銀貨十五枚の報酬になります」

「それと、この二人のランクを俺と同じにしておいてくれ。パーティーメンバーなんだ」

「わかりました。確認いたしますので少々お待ちください」


 ギルド職員は手際よく報酬金と、ランクアップを済ませてくれた。

 報酬金を受け取った俺は、ギルドカードを全員に返して今日の報酬を確認する。


 ヒポ草納品で得たお金が銀貨四枚と銀銭三枚。

 ポズ草を買い取ってもらって得たお金が銀貨十一枚。

 今回の依頼で得た報酬金が銀貨十五枚……計銀貨三十枚と銀銭四枚なので、金銭三枚と銀銭四枚が今日の儲けになる。


 これならまずまずの成果なのではないだろうか?

 手間を考えてみると、一番効率が良いのがポズ草の販売だったのが少し不服ではあるが……。


 そして、ヒポ草はギルドでは売らない。

 これは他の薬屋を周りに回って相場を確認するために使うのだ。


「あ、そうだ。なあ、昇格試験ってなにするんだ?」

「はい。昇格試験ではギルドで用意した人材と模擬戦をしていただきます。それ相応の実力であれば、飛び級もあるかもしれませんよ」

「そうか……。ちょっと何処かで訓練しとかないとな」


 模擬戦か……。俺は何処まで手加減できるかどうかを確かめないといけないな。

 アレナも対人戦はしたことがないだろうし、何処かで経験は積ませておかなければならないだろう。


「心配無さそうだけどなぁ……」


 ウチカゲは言うまでもないし、零漸は気にするまでもない。

 それに、アレナは重力と言うなんともチート臭い能力を持っているので早々簡単に負けることはなさそうだ。

 こうして考えてみるに……この場合一番何とかしなければならないのは俺なのではないだろうか?


「応錬! お腹空いた!」

「そうっすね~。兄貴、何処か行きます? 初めての依頼ですし、記念としてパーッと行きましょう!」

「うむ……それもいいな。アレナが素晴らしい交渉術で稼いできてくれたお金もあるし……今日はどこかで食べて帰るか」

「でしたらローズとユリーに良い場所を聞いてみるのはいかがでしょうか?」

「おお、いい案だな。じゃ、いったん帰るか」


 話がまとまったので、とりあえず話を聞くために宿に帰ることにする。


 因みに、ちょっと思うことがあったのでAランクボードから一枚の依頼書を引きちぎって懐に仕舞っておく。

 何もなければよいのだが……念には念を入れて、だ。


 ビッグヒールスライムのことを伝え損ねたけど……討伐したから何も問題ないよね?



 ◆



 宿に帰ってみると、ローズとユリーはすでに帰ってきていたようで、ロビーで何かを話しあっていた。


「ローズ真面目だねぇ。せっかく少し遊べるだけのお金手に入ったのに依頼を受けるなんて」

「ちょっとね」


 話し合っているところ悪いが、ちょっと話に付き合ってもらうことにしよう。


 俺たちが全員で二人に近づくと、二人は俺たちの存在に気が付いたようで、ローズは手を振ってくれた。


「お疲れ様です。どうでした?」

「まあまあだなぁ。二人に聞きたいんだがどこかいい酒場はないか? 初めての依頼だったし、記念としていい所に食べに行こうと思ってね」

「ああ、なるほど。でしたら向こうの通りをまっすぐ行ったところに羽休めという酒場がありますよ。私のおすすめの場所です」

「あそこおいしーよね~。私達も行く?」

「いいかもね」


 どうやらまだ二人も夕食は取っていないらしく、二人も一緒に行く気らしい。

 それは全然かまわないのだが、零漸が嫌な顔をしている。

 その理由はなんとなくわかるが……と、そのまえにローズとユリーに聞きたいことがあるのだ。


「二人とも今日は何か依頼をこなしたのか?」

「私はやらなきゃいけないことがあったから、今日も依頼を受けましたよ」

「私はしてないわ。せっかく稼いだんだから今日はお休みした」

「何故?」

「え? 何故ってどういうことなの?」

「あっ……」


 さて、なぜユリーは間接的にとはいえ、人に手伝ってもらって何もしていないのに優雅に休日を満喫しているのだろうか。


「よし、ローズは俺たちと一緒について来い。奢ってやろう」

「なんで!? 私は!!?」

「阿保。俺たちが狩ったレッドボアの素材で依頼を達成しておきながら、その依頼金で優雅に休日を楽しんでいるというのは一体どういう了見だこら」

「うぐ!?」

「はははははは! ざまあないっすね!」

「ああん!?」

「はい、てなわけでお前これやってこい」


 そう言ってユリーに先ほどAランクボードから引きちぎった依頼を押し付ける。

 その内容は、シャドーウルフの討伐依頼である。


 シャドーウルフと言うのは、陰に潜む狼であり、夜になるとその姿は見えなくなるという厄介極まりない魔物だ。

 それに夜行性であり、索敵すら難しいため、高ランク帯の冒険者でも命を落とすことがある危険な魔物らしい。

 それがこのサレッタナ王国の付近にいるというのだからさあ大変。


 俺はもしかしたら、この二人が依頼をしてないのではないだろうかと考えて一枚依頼を引きちぎって持ってきていたというわけだ。

 もちろん二人が何かの依頼を達成していた場合はこの依頼を元のあった場所に戻そうと考えていたのだが。


「なんで!?」

「働かざる者食うべからず、という言葉が俺の国にはあってな。やってこないとお前が依頼達成で貰った金もぎ取るぞ」

「嘘でしょ!?」

「ほれ、行ってこい」

「ユリー。今回は貴方が悪い。いってらっしゃい」

「ちゃんとやって来いよ。やってなきゃすぐバレるからな。帰ってきたら飯奢ってやる」

「ぐぬぬ……」


 ユリーはとっても不満そうだったが踵を返してすぐに宿から出ていった。

 流石に自分達だけで稼いでいない依頼の金で休日を楽しむというのは些か問題だ。


 だが約束は守ろう。ちゃんと仕事をしてきたのであれば、ちゃんと飯をおごってやるのだ。

 流石にそうでないとかわいそうという物だろう。

 せっかくSランク冒険者との面識ができたのに、こんな変なことで敵対関係になるのはよろしくない。


「いつ帰ってくるかね」

「えーと、ユリーだったらテーブルに食事が並ぶ頃には帰ってくるかと」

「流石だな。ていうかユリーはてっきり突っぱねると思ってたんだけどな」

「ああみえて寂しがり屋で、友達少ないんですよ。あの性格ですから友達が……ね?」

「なるほど」


 意外とかわいい所もあるじゃないかと内心呟きつつ、ローズに店への案内役をしてもらうことにした。


 案内してもらった店は随分と繁盛しているようだったが、待つ必要はなかったため普通に中に入ることができた。


 こういった店でしっかりと食事をとることは初めてだったので、どうしたらいいか少し悩んだが、ここは通っているローズが仕切ってくれたのですぐに注文することができた。

 注文方法などは、前世でいう所のレストランとほぼほぼ変わらない様だ。

 流石にメニュー表は壁に掛けられている物だけだったようだが。


 注文したものがテーブルに届き、さあいただこうと言う所でローズの言う通り、ユリーが帰ってきたのには本当に驚いたが、これで全員そろって食事をすることができるようになった。


 やはり食事は人が多ければ多いほど良い物だ。

 今回はアレナがいるので酒は飲まないことにして、俺たちは並べられた食事に手を付け始めたのだった。

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