8.23.身内反転


 領民たちは水を運ぶ係と、狙撃する係で分かれていたのだが、やはり水を運ぶとなると時間を有してしまうようで、消費に対して供給が間に合わないでいた。

 二、三十発などすぐに撃ち終わってしまうのだ。

 こんなに早く水がなくなってしまうのは予想できなかったな……。


 ということで俺、走ってます。

 めっちゃ頑張って走ってるんですけど、行くところ行くところ水不足という状況ですけどね!


「応錬さん!」

「樽はどこだ!」

「ここです!」


 あらかじめ作っておいた水盾の水をその樽の中にぶち込む。

 無限水操でいちいち作っていたら時間足りなくなるからな。

 既に作っておいて、後はドボンの方が早い。


 まぁ一度に五個から十個くらい入れるので、その水盾もすぐになくなってしまうんだけどな!

 忙しくないか俺だけ!

 おかしくない!?

 いやまぁ技能の開発者なので頑張りますけども!


「応錬さ……ん、も、もう冷たくて腕が……」

「知るかそんなことぉ!! 冬だから仕方がないだろ!」

「あ、俺なんかこの水が温かく感じて」

「それはマズいやつ!!!! 今すぐ誰かと交代しやがれ!!」


 麻痺してるじゃねえか!

 運搬係が足りてないんだから、異常を感じた奴は片っ端から交代させている。

 行く所でこんなことを延々と繰り返しているわけですが、まだ敵は湧いて出んのか!


 そう思って上空を見てみると、門が消えていた。

 魔物の供給がストップしたとの報告が方々から聞こえてくる。

 それにより終わりが見えたのか、領民や兵士たちの気合がまた上がる。


 優勢であるのに変わりはなかったが、終わりが見えない戦いに領民たちは少なからず不安になっていたはずだ。

 だが門が閉じて魔物が湧かなくなった。

 それにより戦いの終止符が見え始める。


 あの悪魔はそこまで知性がない。

 なので目に付いた者から襲い掛かっているようだが、大体はそこに到着する前に撃ち落とされるか、槍で貫かれるかのどちらかである。


 空を飛ぶ魔物だったので、殲滅に時間がかかってしまったが……。

 これであれば戦いはもう少しで終わる!


 鬼たちの行った方は、もう大きな音がしていない。

 恐らく戦いは終わったのだろう。

 壁なども壊されていないようだし、もう暫くすればこちらに来るかもしれないな。


 次第に空を覆う魔物も数を減らしていく。

 目に見えて減少していく魔物に、領民や兵士の指揮はどんどん上がっていく。


「勝利は目前だ! 敵を討ち漏らすな! 最後まで気を抜くな!」

『『『おおぉー!!』』』


 援軍として駆け付けたレイトンと、別の場所にいたジルニアも合流し、殲滅戦を行っている。

 この数の敵を領民と鬼たちだけで返り討ちにするのは難しかっただろう。

 ガロット王国の兵士は非常に優秀だった。

 空を飛ぶ魔物にも屈せず、重装歩兵の間に槍兵を忍ばせてタイミングよく貫く。

 それにより被害をほぼ出していない。


 遠目から祈るようにして見ているサテラも、敵が減っていく光景に思わず力が入ってしまう。

 歓声を聞いて、護衛にあたっているバラディムも満足そうに笑っていた。


 そしてようやく、最後の一匹が撃ち落とされる。

 地面に向かって落下し、ぐしゃっという音を立てて沈黙した。

 その音が、勝利だと教えてくれているようでもあった。


 白い雲と青い空が見えるようになったのを確認した、兵士や領民は、全員が一斉に歓声を上げる。

 何とかなったと腰を下ろすものや、武器を手放して喜ぶものなど様々だ。


 俺も仕事がやっと終わったと、壁に寄りかかって汗を拭う。


「「応錬ー!!」」

「うっわびっくりしたああ!!」


 上空から聞こえた声に驚きつつも、目線を上に上げれば鳳炎とアレナが一緒に降りてきた。

 歓声が鳴りやまない中、二人だけは深刻そうな表情をしている。


「どうした? 何が──」

「説明は後だ! 応錬! ありったけの水で領民と兵士の体を洗え!!」

「はっ?」

「早くするんだ!!!!」

「ッ、わ、分かった!」


 その剣幕に押され、俺は城壁の上へと上がっていく。

 よく見える高台で無限水操を使用し、大量の水を生成した。


 だが洗うより先に、耳元で声が聞こえる。


「ハハハハ! ジュンビ、カンリョウ!」


 それは領民と兵士全員にも聞こえているらしく、歓声が止んで周囲を見渡し始める。

 俺は構うものかと、鳳炎の指示通り大量の水をまず兵士たちに浴びせようとした。

 これであれば大体の汚れは取れるだろう。


 悪魔の目が、ギュルッと漆黒色の変わる。


「ではお待ちかね、『身内反転』」


 子悪魔が指をパチンと鳴らす。

 すると、俺が作った水の塊が勝手に破裂してシャワー状になり兵士たちに降り注いだ。


 今までこんなことは一度としてなかった。

 そこで、俺は腹部に強烈な違和感を感じる。

 なんだと思って見れみれば、腹から大量の血液が、流れ出ていた。


「は?」

『ぎゃああああ!!』

『ぐああ!?』


 周囲から絶叫が聞こえ始める。

 俺はゆっくりと仰向けに倒れながら、その声の原因を目で確認することができた。


 領民の体に、銃創らしき穴がいくつも空いていた。

 傷口からは血が流れており、失神している者も多い。

 だが無傷な者も何名かいるようだ。


 しかし、被害はこれだけに留まらない。

 地上部隊の兵士はもっと悲惨であった。

 甲冑の隙間という隙間から血が噴き出し、明らかに絶命している者もいる。

 辛うじて生き残っている者もいるが、何もしなければこのまま失血死で死ぬだろうということが分かった。


 そして、鳳炎は自身の炎に燃やされていた。

 異変を感じてすぐにアレナを突き飛ばしたので、アレナには被害はない。

 しかし鳳炎は炎攻撃が効かないという特性があるのにも関わらず、その身を自身の炎で燃やされ、灰となってしまう。


 何が起こったのか全く分からないまま、兵士約六千と、領民約二千が重軽症を負ったのだった。

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