8.22.邪魔


 上空での戦闘を繰り広げている鳳炎。

 だが、この魔物を従えている悪魔にはまだ手を出せないでいた。


「邪魔だ! 『フレイムフェザー』!」


 近づくたびに目の前へと魔物が立ちふさがり、一瞬でも動きを止めてしまうと拘束をしにかかってくる。

 だが奴らの動きは遅いので、回避するのはそんなに難しくはない。

 問題はその数である。


 あれからもまだまだ魔物は湧き続けている。

 一体どれだけの数の敵がいるのか見当もつかない程だ。

 鳳炎の絶炎の技能をもってしても、飛んでいる敵にはあまり効力を発揮していない。


 どちらかというと落ちていく敵を気にしなければならなかった。

 下には味方兵士がいるので、そこに火だるまになった魔物が落ちると厄介だ。

 あらぬ被害を出してしまう。


 なので門の出現位置ギリギリで戦ってはいるのだが……。

 雪崩のように出てくる魔物を一人で捌き続けるのはきつすぎる。


「奥義が使えればいいのだが……! 空の敵には無理か!」


 鳳炎の奥義、紅蓮の芽。

 あれは地上に設置するタイプの罠のような技能だ。

 熱で自然発火する技能ではあるが、空中には設置できない。

 今あの門の隣に設置できればどれだけよかっただろうか。


 戦いながら観察をして見たが、やはりこの門は魔法で作られたもので、門の向こう側は何処かに繋がっているというのが分かる。

 奥になど行きたくはないが、そもそもこの状況では行くことすらできない。

 だがあの奥に悪魔の住む拠点があるのだとしたら?

 行かないわけにはいかないだろう。


 とはいえ一人で行くことは不可能。

 無謀にもほどがある。

 だが今は……この魔物の群れの供給を止めることが先決であった。


 しかし、技はあの小さな悪魔には届かない。

 幾度となく魔物に邪魔をされ、押し返されては拘束されそうになる。


(というか、なんなのだこの魔物は……! 魔法も使わず、戦闘能力もほぼない……。こんな弱い魔物をどうして大量に出撃させたのだ)


 魔物が弱いということもあり、被害は本当に少ない。

 応錬が作った水弾ガントレットをでの攻撃は非常に有効であり、飛んでくる敵を次々に撃ち落としていく。

 それにぶつかってしまう地上部隊もいるが、大したダメージにはなっていない。


 もう全員が返り血でびっしょりだ。

 それに構っている暇もないので、誰もが懸命に武器を手に戦っている。


「勝利するには、この供給を止めなければ!」


 そこでまた数十体の魔物が鳳炎を囲む。

 気が付いた鳳炎は、持っている槍に力を込めて横に薙ぐ。


「『フレイムスピア』!」


 自身の持っている槍に炎を付与し、それを横に薙いで火炎放射の様な攻撃を繰り出した。

 襲って来た魔物はその炎に触れてしまい、じたばたと暴れながら地面へと落下していく。


 しかしその後にまた魔物が立ちふさがる。

 これでは鼬ごっこだ。

 何とか状況を打破したいが、無茶をすればあの子悪魔と戦う為のMPが底をついてしまう。


 応錬の爆発の援護も止まった。

 できればフレイムフェザーだけで何とか乗り切りたい。

 この技能は翼を閉じない限り永続して炎の羽を飛ばせる技能だ。

 これの熟練度は相当なはずなのだが……それでも足りない。


「ええい! くそう!」


 悪態をつくが、状況は一切変わらない。

 何度も何度もフレイムフェザーで敵を攻撃していくが、次から次に魔物が前に立ちふさがる。


「くっそ、仕方がない! 『ファイヤードール』!」


 鳳炎がそう言うと、左右に炎の塊が出現する。

 それは形を成し、炎の兵士となって槍を魔物に向けた。


 炎の人形、というのが正しいだろうか。

 おおよそ人の形をとった炎の精霊のような存在が、炎の槍を持って動き始める。

 数は二体ではあったが、その戦闘能力は接近戦での鳳炎と同等の力を持つ。


 遠距離攻撃はできないが、これで敵の注意を分散することができるはずだ。

 鳳炎はすぐに『瞬翼』を使って翼を羽ばたかせ、魔物の隙間を縫うようにして子悪魔に接近した。


 先ほどまでは近づくことすらできなかったが、魔物は先ほど出したファイヤードールの方に向かっている。

 一瞬だけ時間を稼ぐことができた。

 そして鳳炎はようやく子悪魔に狙いを定める。


「オッ?」

「『フレイムクロー』!」


 槍の先端に炎で作った鉤爪を出現させ、それを一気に振り抜いた。

 火の粉が当たっただけでも炎上するこの技能。

 だが子悪魔は上手い事回避したようで、上空でクルクルと回っていた。


「キタカー! キタキタ! タークサン、ナカマコロシタヤツガ、キタキタ!」

「フン」

「モースコシ、モースコシ~」


 何かする気らしいが、それまでに始末してしまえばいいだけのこと。

 そう思った鳳炎は、すぐにフレイムフェザーを使って子悪魔に攻撃を仕掛ける。

 だがその攻撃は割り込んできた魔物に全て吸収された。


 身を挺してでも子悪魔を守ろうとする魔物……。

 こいつが奴らを指揮しているということで間違いなさそうだ。


「近いのであればこれだな。『フレイムボム』!」

「オリョ?」


 三つのフレイムボムを作り、子悪魔に向けて発射する。

 案の定魔物が割り込んでその攻撃を受けたが、今回は範囲攻撃技能だ。


 ボンボンボン!

 広範囲に炎をまき散らす爆弾だが……子悪魔はこれもすんなりと回避してしまった。

 攻撃手段がこいつもないのだろうか。


「いや違う、攻撃を受けなければ攻撃できないはずだ。……では何故避ける……?」


 アレナの報告では、この子悪魔はカウンター技能を持っている可能性が高いということが分かっている。

 であれば普通攻撃をさせるはずだ。

 だというのに、攻撃を全て避けている。


 鳳炎の技能を見て、受けるのは危険だと思ったのか。

 はたまた死んでしまえば技能は使えないのか……。

 どちらにせよ攻撃をしなければ、倒すことはできない。


 鳳炎は再度槍を握りなおす。

 その途端、門からの魔物の供給が止まった。


「オッ! オオッ! オッ! オワッター! イチマンハッセン、ゼンブデター!」


 キャッキャと両手足をパタパタさせている子悪魔。

 発言からして今ここに出現している魔物が全戦力とのことだ。


 まだまだ倒しきれてはいないが、それでもこちらの方が優勢だ。

 着実に倒しているので、後は時間が解決してくれる。


「鳳炎ー!! ほうえーん!!」

「!? アレナ!?」


 声に反応してか、魔物がアレナの方に向かって行く。

 流石に見捨てることはできないと、翼を広げて急行し、魔物を持っている槍だけで斬り捌く。


 すぐにアレナを抱えて悪魔と魔物と距離を取った。


「ここは危ない! 下がっているのだ!」

「今は戦っちゃダメだよ鳳炎! 魔物の血に何か仕組まれてるの! 応錬は何処!?」

「詳しく聞きたいが、それどころではないか! 応錬の場所は分からん! 今まで戦っていたからな!」

「じゃあ応錬を探して! 兵士さんたちにかかっている血を水で洗い流してもらって!」

「ぐ……だが悪魔は目の前に……」


 ようやく手の届くところまで来たのに、ここで引けと言われてもなかなか決心がつかない。

 魔物の供給は止まり、後は殲滅と魔物を束ねている悪魔を始末すればそれで終わりだ。


「だから戦っちゃダメ!」

「~~ッ! クソ!」


 鳳炎は翼を広げ、アレナを抱えたまま降下する。

 応錬を探しに行く為に。


「アディバ。イッチャッタ──でも準備は整った」


 裏人格の子悪魔は、魔物がもう少し減るのを上から見物しているのだった。

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