10.49.昔話⑪ 封
「というかお前、なんだそれは」
「ん? これか? いやー本当は炎の翼を生やしてもいいんだけどよ、それだと動きを読まれそうだからな! ジェットブーツ的な感じで作ってみた!」
「けったいな物を作る」
地面に着地した二人は軽く会話をしてからまた構えを取る。
奄華は鉄の棒を持っており、日輪は日本刀を抜刀していた。
ようやく来てくれた援軍に胸をなでおろす漆混。
稼いだ時間は短かったが、それだけでも十分だ。
ダチアは周囲を確認する。
どうやら四方八方から魔物が押し寄せて来ているらしく、今は鬼たちがその進行を阻止しているようだ。
このままではじり貧である。
なんとしても早急に陸の声を打倒しなければならない。
だがそう簡単に行くとも思えなかった。
漆混の最強の攻撃を無傷で耐えたのだ。
何かしらカラクリがあるのかもしれないが、あの黒煙から出てきたのは確かであり、なんなら爆発を耐えた空圧結界すらも粉々にした。
それだけの力を有していると考えてもいいだろう。
自然と武器を握る手に力が入る。
一歩間違えればすぐに首を刎ねられてしまったもおかしくはないのだ。
そこで陸の声が手をかざす。
何か仕掛けてくる。
そう思った日輪と奄華はすぐに駆けだし、接近した。
「
空気で作った半透明の剣を作り出し、投げた。
それは避けるまでもなく二人の間を通り抜けたが、その瞬間に大きな音を立てて破裂する。
パァアアンッ!!
衝撃が二人を襲い、地面に叩きつけられる。
「ぐっほ!」
「がっ! ……おのれ……」
「チィ、破裂する武器か……! 面倒だぞ!」
「投擲してくる武器だけ気をつければいい。投げなければ巻き添えを喰らうからな」
「……そう簡単な話じゃないっぽいな」
「……そのようだ」
陸の声の周囲に、無数の空圧剣が出現している。
あれがすべて意志を持って突撃してくるとなれば、被弾は避けられないだろう。
切っ先が四人の方を向いて狙いを定める。
動き出した瞬間、それはフッと消えてしまった。
これも攻撃なのだろうかと首を傾げたが、陸の声が驚いているところを見るに攻撃ではなさそうだ。
「へっへへへ……おいらの出番か?」
「ぅお!!? あ、アトラック様!」
「いやー、別にあいつが神とか~、そう言うのはいいんだけどよぉ~」
バリバリと頭を掻いた後、スッと表情を消して睨みつける。
黒い瘴気が体がら溢れ出し、地面にぼちゃりと落ちて蒸発した。
相当ご立腹のようだ。
ダチアは数歩下がり、その瘴気に触れないようにする。
ぼちゃちゃと零れ落ちる瘴気を手に取ったアトラックは、それを飲み込んだ。
不敵な笑みと怒りの表情を混ぜ合わせ、異様に大きく裂けた口で喋り出す。
「恩人を吹っ飛ばすとはどういう了見だゴラ」
「!!?」
一瞬で陸の声の真隣に出現したアトラックは、思いっきり蹴りを入れて吹き飛ばす。
鬼門の里を飛び越え、魔物も巻き添えにしながら転がっていき、数十本の大木をへし折って崖にぶつかり、ようやく勢いを止めた。
とんでもなく強力な一撃だったが、陸の声は立ち上がって肩を回す。
大したダメージにはなっていないらしい。
「厄介なのは封じるに限る」
その頃、アトラックの体に異変が起こっていた。
カタカタと腕が振るえ、足も同様に震えて立てなくなったのだ。
なんだこれはと原因を探ろうとしてみるが、全く分からない。
攻撃をしたら、力が抜けた。
それだけなのだ。
「ごご、ごれは……ッ!」
「アトラック様!! ご無事ですか!?」
「だだ、ダチア……。武器でで、ここ攻撃ししろ。触れふれれっるな……」
「わ、分かりました」
呂律も回らず、それだけしか言うことができなかった。
実際はほとんどの技能が封じられ、使うことができなくなっていたのだ。
これもできれば説明したかったのだが、どうにも舌が回らない。
ダチアはすぐにこの事を仲間に共有した。
漆混は相性が悪いかもしれないが、遠距離技能があるので問題はない。
「参るぞ」
「おう! ここで暴れたらこの辺壊しそうだからな!」
日輪、奄華、漆混、ダチアは陸の声と戦うために移動した。
吹き飛ばされた後を追って行けば、すぐに目標を発見することができたが、やはり無傷。
何の冗談だと思ったが、それでもやるしかない。
漆混は道中で、先ほど気付いたことを二人に説明した。
事情を把握した二人はなんとしてでも陸の声を打倒するために武器を握りしめる。
「ふむ、肉体があるのは少し不便だな」
「勝てますかね……?」
「それは分からぬ。だが、俺らが持ってきた元凶だ。俺らが戦わないわけにはいかないだろう」
「確かにな」
「フー……
日輪が逆霞の構えを取った。
腰を少し大げさに落とし、足を踏ん張ってばねにする。
刃は上を向いており、切っ先は相手の足元を狙っていた。
ザンザンッ!!
二度振り抜くと、陸の声の体が切り裂かれた。
「跳ね雫……『天割』拵え」
「ふごゅ!? ……って言うのは嘘で」
傷はすぐに塞がった。
なんという再生能力の高さなのだろうか。
斬っても意味がないとなれば、攻撃手段は減ってくる。
そこで陸の声が手を合わせた。
この距離からでは止めに入れない。
何が来てもいい様に警戒をするが、それは意味がないものだった。
「
パァアアンッ。
その音を最後に、その場にいた全員の意識が刈り取られたのだった。
どれくらい気絶していたのかは分からない。
だが一番最初に目が覚めたのはダチアであった。
まだ安定しない視界を覚醒するために頭を振るい、何とか立ち上がる。
するとそこには、ヒナタとエンゲツ、そしてシスイが他三名を守るようにして武器を構えていた。
「こ、これは……どうなった?」
「……あれを」
「あれ?」
シスイが指を指す。
そこには、陸の声を圧倒し続けるレンマの姿があった。
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