10.48.昔話⑩ 目的
目的は何か。
それが漆混が一番聞きたい事だった。
その後の時間稼ぎの方法は考えていない。
ここから話を広げなければと思いながら、陸の声が次に口にする言葉を待った。
「この世界に罰を。この世界を作った神々に復讐を。指を咥えて見ていることしかできないあの忌々しい神々の作ったこの世界を壊すのだ」
圧倒的な力の差を示したことにより、どうやら饒舌になっているらしい。
陸の声はすぐに答えてくれた。
「……それに何の意味があるんですか」
「もとはといえばあ奴らが先に我々を力の使えない空間に閉じ込めたのだ。尽くしてきたのに、尊敬していたのに。なのに裏切られた! ……あれから数百年……ようやくここまで来たのだ。忌々しき神々が一番嫌がることは何だと思う!? そう! 自分たちが作った世界を破壊されることだ! わしらもこの世界を作るのに力を貸した! 作り方を知っているのであれば、壊し方も知っているということだ」
隣で聞いていたダチアは、やはりどういう意味なのかあまり理解ができなかった。
神が複数いる?
世界の破壊?
力の使えない空間?
分からない単語が、ダチアを混乱させる。
だが漆混はすべてを理解していた。
前世で培った妖怪の話や神々の話、オカルト的観点から紐解いていけば、なんとなく解る。
「神の内の一人、ってところですか。貴方たちが何かしたんじゃないですか? 悪いことを。だから閉じ込められたんでしょう?」
「否!! それは……違う。神々は我々を恐れたのだ。技能を作り出す我々に」
「技能を作った神様なのですね」
「いかにも。生物に技能を付与し、この世界で生き抜く力を与えてやった。そして今があると言っても過言ではない。だがわしらは、その過程を見ることすら許されなかった!! 騙されて閉じ込められ!! 何年も叫び散らして助けを求めたが!! 誰一人として声をかけてすらくれなかった!! そんな神々に仕えていたと思うと反吐が出る!! わしらを使うだけ使い!! そして捨てた!! だからこそ!! ……我々は戦う。破壊する。この、裏切りによって作られた黒い世界を!!」
地面が揺らされた。
攻撃が始まってしまいそうだ。
まだあまり時間を稼ぐことができていない。
漆混は次の話題を早急に考え、問うた。
「それだけのためにずいぶんな準備をしていたんですね! 力が使えない空間にいたというのに、よくそこまでできたものです!」
「それはお前たち四人の存在があってこそだ。技能という形でお前たちに干渉し、世界に干渉した。小さな抜け道だ。地道だったが努力は報われた。まぁ、お前たちを殺すわけにはいかなかったから、少しばかりステータスを弄ったがな」
「そりゃどうも!」
漆混は小さく舌を打った。
優しい彼がそういう態度を取るのは非常に珍しいことである。
ここまで感情を表に出すことはあまりないだろう。
だが、そうなってしまうだけの理由があった。
あの神は、自分たちが連れて来てしまった存在。
それに罪悪感を感じていたのだ。
転生した時から一緒だった技能が、まさか敵になるとは思わないだろう。
平和に過ごしてきたと思っていたが、実は世界の破壊を手伝っていた。
壊させてなるものか。
助けてくれた鬼たちへの恩を返すため、自分たちの始末は自分たちで付けるために、漆混は再び拳に力を入れる。
陸の声は「我々」、「わしら」という言葉を使っていた。
恐らくまだ他にも声なる存在がいるはずだ。
最低でも、あと三人。
それがすべて顕現してしまえば、世界の破壊が近づくのは確実になってしまう。
「まだ情報が足りない……。他の奴らはまだ顕現していないようですね!」
「ああ! だがもうじきだ! 魔力だまりが満タンになれば、すぐにでも顕現する! 人間で蓋をしているからそう簡単には魔力が逃げることはない!!」
「その場所を教えてくれたりしませんかねぇ!?」
「冥途の土産だ! 教えてやろう!!」
それだけ勝てる自信があるということだろう。
陸の声は三つの国の名前を教えてくれた。
リタニア王国、ヴォルドラ王国、デメゼーラ領。
今これを知ったところで問題など一切ないと考えていたらしい。
なんて馬鹿な神なんだとダチアは呆れたが、これはいい情報だ。
人間を殺せば、魔力が抜ける。
対策も分かったことなので、あとは実行するだけだがまずはこちらを何とかしなければならなかった。
強大な力を持った陸の声。
そして大量に湧きだした魔物の群れ。
どう始末していこうかと悩んでいたが、次の瞬間、陸の声の両腕が吹き飛んだ。
「……あ?」
「良い腕だ、奄華」
「お前に鍛えられたからなぁ!!」
炎を足に纏わせてジェットブーツの様にしている奄華と、水を足場にして空中を走る日輪が援軍としてやってきた。
時間稼ぎは成功したらしい。
「よ、よかったぁ……」
「気を抜くな漆混! 来るぞ!!」
「は、はい!」
速攻で腕を再生させた陸の声が、四人を睨む。
だがその表情にはまだ余裕が見て取れた。
「まずは……この里から消してみようか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます