8.2.再建途中


 二日経ってようやく俺たちはバミル領へとやってくることができた。

 遠目から見てみたのだが、それなりに領地は広く、家も多く建っているということが分かる。

 以前は破壊されていたようだが、今は充分街らしくなってきていた。


 まだ遠くなので分からないのだが、あれだけ大きな街なのであれば人も多いだろう。

 復興は、着々と進んでいるようだ。


 さて、俺たちはというと……実は今歩いている。

 その理由は……まぁラックしかいないわけでして。

 こんなでっかい飛竜が急に街の中に入ってきたら大騒ぎだろうし、少し遠くに降り立ってもらって、今は徒歩で移動中。

 これならあまり驚かれはしないだろう。


 ……多分。


 門まで近づいていくと、門番が何人か立っていた。

 まだ大きな城壁はないが、いずれ建築する予定なのか、大量の資材がその辺に置かれている。

 中からは活気の良い声が聞こえているようだ。

 

「と!? 止まれ止まれ!!」

「やっぱり?」

「そりゃそうだよ……。私の故郷、飛竜とかいなかったもん」

ガルルルルいる方が珍しい


 飛竜のラックが言うんだからそうなのだろう。


 とりあえず門の前で止められた俺たちは、門番たちの指示を待つことにした。

 だが門番も自分たちだけの判断では決定することができないようだったので、数人が一度中に入って領主に確認を取りに行ったようだ。

 領主って今もサテラがやっているのだろうか?

 まぁそういう話だったしな……。


「お姉ちゃん元気かなぁ~」

「アレナと同じくらい立派にやってるだろうさ」

「そうかな?」

「そうだろ?」


 アレナもそれ相応の覚悟をもって冒険者やってるわけだし、姉として負けられないくらいには思っているんじゃないかな?

 凄いやる気に満ち溢れてたしね。


 すると、門番の一人がこちらに恐る恐る近づいてきた。

 ラックの姿に怯えているのだろうが、それでも近づいてくる勇気は凄いと思う。


「こ、こんにちは……」

「こんにちは」

「ども」

「あの……君はバラディムさんのお弟子さんか何かかな?」

「「え?」」


 門番は、アレナを見てそういった。

 ああ、そういえばアレナはバラディムの姿を真似てこの装備にしたんだったな。

 額当てとか灰色のローブとか、まぁほとんど同じだし。

 そう捉えられてもおかしくはない。


「フフッ、弟子じゃないよ! サテラお姉ちゃんの妹だよ!」

「え? サテラ様の……? え!? ええ!? も、もしかしてアレナ様ですか!?」

「そうだけど、様付けはちょっと……」

「それを早く言ってくださいよ!! おおーい! みんなぁー! アレナ様がお帰りになられたぞ!!」

「き、聞いてない……」


 あっれ、なんかすごい騒動になりそうな気がするんですけど大丈夫ですかねこれ。

 いや門番走って行っちゃったし……。

 なに、アレナって今この領地では有名なの?


 アレナも急な事でキョトンとしてしまっている。

 俺もそうだ。

 なんか嵐みたいな門番だったからな……。


 暫くすると、門番も住民を一斉にわらわらとこちらに走ってきた。

 なんだなんだと慌てていると、アレナはすぐに取り囲まれてしまう。


「お帰りなさいアレナ様!」

「お待ちしておりました!」

「さぁさぁ早く中へどうぞ!」

「引き止めてしまって申し訳ありません!」

「えっ、ちょっ! うわああ応錬ー!!」


 ああ、俺ですか?

 住民の波に押し飛ばされてアレナに手が届きません。


 アレナは押し寄せる住民の波に抗うことができず、そのまま中へと入って行ってしまった。

 俺は何もできないまま、ラックと一緒に外に放置されてしまう。

 そんなことありますかね……。


ガルゥ大丈夫?」

「いや大丈夫だけど……これ、どうしよう」

グルゥさぁ……」

「とりあえず追いかけるか……。ラック、ついてきてくれ」

ガルいいの?」

「大丈夫だろ」


 特に害をなすわけでもないからな。

 ていうかこのまま置いておく方が危険だし、自由に飛ばせておいても認知されていない以上攻撃される可能性もある。

 暫くはついてきてもらった方がいいだろう。


 うん、これは仕事をしなかった門番が悪いということにしておこう。

 ま、後で何とでもなるぁ~。


 ということで早速バミル領の中へと足を踏み込んだ。

 遠目では分からなかった様子が、中に入ればよく分かる。


 俺たちが入ってきた場所はバミル領端っこ。

 一番畑が多い城下の外といったところか。

 ここでは木の柵が取り付けられており、その近くには建材が沢山置かれている。


 門を通ってすぐに畑が一面に広がっているのだが、今は雪が積もっていて全体は見ることができない。

 だがこの辺は全て畑なのだろうということはなんとなく分かる。


 そして奥の方を見てみれば、そこにはしっかりとした城壁があった。

 勿論ガロット王国よりも大きいわけではない。

 だがそれでも石作りのこの城壁は、あるだけで住民に安心感を与えることができるだろう。


 城壁の外は畑があり、農作業をする住民たちが住んでいるようだ。

 そして城壁の奥は商店街や宿などが立ち並んでいる。

 まだまだ復興途中で建築中の建物も多いが、それは時間が解決してくれるはずだ。

 暫くすればこのバミル領は、どんな人が来ても恥ずかしく無いような領地になることだろう。


 これが全てサテラとバラディムの功績だとしたら、本当に凄いことだ。

 アレナを見た住民の反応からして、サテラは慕われているみたいだし、今のは順風満帆といったところなのだろう。


「……であれば尚更、やらせるわけにはいかないな」


 相手にどんな事情があるにせよ、ここを壊すなんてことは俺がさせない。

 今度はしっかり捕まえて情報をできるだけ吐かせてやるからな。


ガルァお腹空いた

「……そ、そうかい……。もうちょっと待ってくれな……」


 人が覚悟を決めているのにこの飛竜と来たら……。

 ま、今から力んでも仕方がないか。

 とりあえずサテラに会わないとな。

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