8.3.お久しぶり
ラックの説明をしながら歩くこと数分。
何度か門番に止められたが、アレナとサテラの名前を出すと意外とすんなり通してくれたりする。
どんだけサテラは皆から信頼されているんだ……。
まぁラックについてあまり言及されないだけ楽だけど、流石にこのままって訳にはいかないなぁ。
何処か広い場所で自由にさせてやりたい。
それに奥に進めば進むほど、騒がしくなってくる。
だがその原因を俺は知っていた。
ようやく追いついたところで目にしたのは、アレナの手を取って茶色の髪の毛を靡かせながら跳ね回っている一人の少女。
二人はとても楽しそうにしているということが、その表情から読み取れる。
「アーレナー!! 久しぶりー!!」
「サテラお姉ちゃーん!」
微笑ましいなぁとみているのは俺だけではない。
周囲にいる住民たちも同じことを思っている事だろう。
しかし、アレナと違ってサテラは背が伸びたな。
前は同じくらいだったのに、今では一回り大きくなっているぞ。
それに伴ってドレスも似合っている。
赤いドレスがまたよく映えているな。
「お前たちー、仕事に戻れー」
とある男性の一声で、ようやく住民たちがはけていく。
渋々といった人々もいるようだが、そういった者には彼が睨みを利かせて無言の圧力をかける。
そこまでしなくてもいいのではとは思うが、まぁ仕方がないよな。
護衛なんだから。
「バラディム」
「む? お、おお!? 応錬様ではないですか!」
「久しぶりだな」
顔に髭を蓄え、アレナと同じ額当てをしているこの人物がバラディム・エムシア。
久しぶりに会ったが、やはり額当てで余している紐は風もないのに靡いている。
懐かしい顔だと思いながら手を差し出すと、すぐに掴んで少しばかり乱暴に振り回す。
「いやぁまさか来てくださるとは!」
「ちょっと用事があってな……。そのことは後で話すさ。その前になんだが、こいつ何処かに預けたいんだが、いい場所ないか?」
そう言って俺はラックを指さす。
バラディムは興味深そうにラックを見てから、少し考えこんだ。
「むぅ、申し訳ない。今このバミル領では飛竜を置くスペースはないですな……。それにこの大きさの個体を満足させるだけの食べ物もあるかどうか」
「え、ここ食糧難なのか?」
「ああ、いえ。そういうわけではないのです。飛竜は巨大な生肉を好みますのですが、まだここには巨大な魔物を倒せるだけの冒険者はおろか、ギルドもない状況でして。狩ってこれるのはせいぜい鹿程度の物です」
「あーそういうね」
ギルドは今建築中らしいが、まだギルドマスターに相応しい人材が見つかっていないらしい。
なので巨大な魔物を狩ることはできないし、ギルドのない所に冒険者はあまり寄り付かない。
復興し始めたはいいが、まだまだ問題は山積みのようだ。
とは言えこいつは自分で狩りができる。
「だったよな?」
「
じゃあ放置していても問題はないか。
寝れる場所だけ確保してもらえればそれでいいかもしれないな。
「そ、それでしたら問題はありませんが……。寝る場所ですか」
「応錬さんお久しぶりです!」
「おお、サテラ」
バラディムとの話に割って入って来たサテラ。
綺麗な貴族らしいお辞儀で挨拶をしてくれた。
だがそうやって割り込むのは良くないぞ?
「飛竜さんなんて初めて見ました! バラディム、家の庭なら大丈夫なんじゃないかしら?」
「ま、まぁ問題はありませんが……」
「決まりですね! 飛竜さんの寝泊まりする所は私たちの家の庭ですよ!」
「
あまり理解できていないようだが、まぁ寝る場所が確保できただけいいとするか。
しかし、ギルドがないってのはやっぱり困るもんだな。
今この領地の守りは誰がしているのだろうか?
「その辺どうなんだ?」
「はい。ガロット王国から来てくれた兵士が駐在しております。今は彼らが周囲の魔物討伐をしていますね」
「兵力は?」
「……? 全体で二千に満たないかと」
まぁ小さな領地だったら、それだけいるだけいいってところか……。
相手が悪魔になる以上、やはり援軍は必要かもしれないな。
前鬼の里から少しでも来てくれたらいいが……。
俺が難しい顔をしていたからなのか、バラディムは顔色を伺いながら心配をしてくれた。
「だ、大丈夫ですか? 何かありますかね?」
「ああ、すまん。まぁこれ後で話さないとな。バラディム。後で時間あるか? サテラとも話がしたい」
「それでしたら問題はありません。アレナとサテラの恩人です。宿もこちらで用意しますよ」
「それはありがたいな」
「アレナも一緒だよー!」
「やった!」
にしても本当に仲がいいなこの二人は。
暫く離れていたから嬉しいんだろうけどね。
「バラディム! 後で模擬戦してくれない!?」
「ほぉ! 私に挑むほどに強くなったようですな! いいでしょう! ですが、まずは屋敷まで行きましょうか。長旅でお疲れでしょうし、休んでからにしましょうね」
「分かったー!」
「私もアレナが戦うの楽しみ! 頑張って!」
バラディムとアレナの模擬戦かぁ。
なんだろう、めちゃくちゃ楽しみだな。
アレナは新しい技を増えたみたいだし確実に強くなっている。
それにバラディムの戦い方が気になるしな。
あの靡いている紐の理由が分かるかもしれないぞ。
兎にも角にも、まずはサテラの住んでいる屋敷へと向かったのだった。
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