第八章 宣戦布告
8.1.ガロット王国領地、バミル領
しんしんと雪が降り積もり始めてるサレッタナ王国。
まだ本格的な冬が訪れていないというのにこの寒さは少々堪える。
これからもっと寒くなるのかと考えるだけで気が遠くなりそうだ。
そんなサレッタナ王国ではあるが、街の活気は未だ健在。
朝から店を出して商売をしている者たちや、荷車に積み荷を積んで運搬の準備をする者や、スコップで雪をかいて歩きやすくしている者など様々だ。
「さみぃ~……。零漸が起きねぇわけだよ……」
「ね、ねぇ応錬……。この寒さの中でラックに乗って飛んでいかないといけないの……?」
「普通に移動すると一週間以上かかっちまうからなぁ。できるだけ早めに行って、準備しとかないと」
「ひえぇ……」
鳳炎は昨日飛び立ち、既に前鬼の里に向かっている最中だろう。
いや確かに前々から寒かったけど、なんか一気に冷え込んだな……。
今日は一日中雪が降ってもおかしくない空模様だし、もう少し着込んでおいた方がいいね。
これから空を飛ぶわけだし……。
ということで、俺は魔道具袋に手を突っ込んで服を用意する。
俺が着ているのは和服なので、マントのようなものしか羽織れないが、毛皮で作られているものなので風は通さないだろう。
前を牙のついたボタンでしっかりと止めておく。
アレナにも似たようなものを手渡しておいた。
これは昨日買ったレッドボアの毛皮の服だ。
まぁ買ったといっても、先日ダンジョンでレッドボアと遭遇した際、毛皮だけは剥いでおいた。
その素材を手渡して安く買わせてもらったんだよね。
鳳炎が贔屓にしている武具屋だったんで、融通は利かせてもらえたぞ。
アレナの着ているマントは少し大きいが、いずれぴったりになるだろう。
でも少し大きすぎるので、腰に布の紐を通して縛っている。
こうしておけば、はだけることはないだろうからな。
少し大きいとやっぱり風とか結構入ってくるもんなぁ。
ていうかこんなに寒くなるんだったら鳳炎に一日待ってもらえばよかった……。
あいつしか持ってないんだよ炎魔法……。
ま、まぁ二日の我慢だ……さっさとローズの所に行って予約していたラックを借りるとしよう……。
ついでにジグルとも話しないとなぁ~。
◆
時間通りにローズの所に向かった俺たちは、早速扉を開けて中に入る。
すると既に準備が完了しており、後は乗るだけとなっていた。
「おはようございます、応錬さん」
「おはよう。また借りてしまって悪いな」
「いえいえ、ラックもまた飛べるって喜んでますよ」
「
んっ??
な、なんかラックの声が綺麗に聞こえる……。
こ、これはまさか進化したから鮮明に聞こえるようになったとかそういう奴か!?
まぁ龍種同士、会話はできるものだとはなんとなく分かってたけど……進化するだけでここまで変わるのね。
いやまぁあの時は成り損ないの中途半端な野郎だったんですけどね!
「これから借りるときは、前日には教えてくださいね」
「あ、ああ。すまん。あの時は急いでたんだ……」
「そ~よ~。全く迷惑なんだから」
「うわ、来たな?」
「うわってなによ!」
いや、前にお前も俺に向かってそう言ってたじゃないか。
仕返しだし返し。
ユリーは少し呆れながら、ラックとパック、それにリックに食べさせるものを持ってきていた。
あれだけ重い戦斧を振り回すだけあって、力仕事はお手のもののようだ。
「んー? ねーねー、ジグルは?」
「そうだ、あいつが俺に会いたいって言ってたから、ついでに会おうと思ったんだが」
「ジグル君なら……」
「あれ、兄ちゃんじゃん!」
「今来たわね」
ジグルは水の入ったバケツを二つ持ってやってきた。
竜たちの水かな。
ジグルは俺に話をする前に、水を持って行って移してから、バケツを置いてこちらに走って来た。
なんか……前に見た時よりも……なんていうんだろう。
ちょっと強くなってる気がする?
何ですかねこの違和感は……。
「まぁいいか。よぉジグル。鳳炎から俺に話があると聞いたんだが?」
「え、あ、ああ! うん、そうなんだけどー……」
「ん?」
なんだ、歯切れが悪いな。
「俺もうすぐ行くから、できれば早めにして欲しいんだが……」
「あ、ああそうだった! えーっとなんていうかー……と、友達がいるんだけど、どうしたらもっと仲良くなれるのかなって聞きたくて」
「友達? んー……いや普通に一緒に遊ぶのがいいと思うぞ」
「「応錬!」さん!」
「うぐほ!?」
ユリーとローズが二人同時に俺の背中を殴ってきた。
手加減してくれているのでそんなに痛いわけではないのだが、急にやられると驚いてしまう。
ていうか何!?
ばっと二人を見てみると、小指を立ててこちらを見ている。
勿論それはジグルに見られないようにしてあった。
……え、もしかして……。
「め、メリル?」
小声でそう聞いてみたところ、二人はコクコクと頷いた。
俺がなんか介入する前からもう出来上がっとるやないかい。
えー、これは一体どうすればいいのでしょうか。
ていうかジグルめっちゃ遠回しに仲良くなりたいって言ってんな!?
分かるか!
いやまぁ恥ずかしいのは分かるけどもね!
「あ、あーそうだな! まぁ男の子だったら一緒に切磋琢磨しあって強くなっていけばいいと思うし、女の子だったらプレゼントとか喜ぶんじゃないか? 多分男の子の遊びにはついていけないだろうからな! 逆に合わせてあげるといいかもしれないぞ! はは、はははは……」
うーん、自分でも分かるくらいの取ってつけたようなアドバイス。
いや無難なのではないでしょうか。
こいつメリルのこと伏せてるから、男の子か女の子かってのは今の俺は知らないと思っているはずだからな。
とりあえず両方言っておけば……だ、大丈夫だろ。
大丈夫だよな!?
そう思って横目でローズとユリーを見てみると、小さく親指を立てていた。
うん、女性目線からでも問題のないアドバイスだったらしい。
いやでも待てユリー。
お前何でそんな渋い顔しながらこっち見てんだ。
もっと言いようがあったでしょみたいな顔するのやめて。
センスないんだから!!
「あ、ありがとう! やってみる!」
「お、おう! 頑張れ!」
な、なんとかなったらしい。
よ、よし。
じゃあまた何か聞かれる前に行くとするか。
「よし、行くぞアレナ」
「うん」
俺とアレナはラックに乗り込み、ベルトで体を固定する。
さて、これから少し耐えなければならなくなるが……まぁ頑張っていこう……。
「そう言えば応錬さん」
「なんだ?」
「何処に向かって何をするんですか?」
ローズは首を傾げながらそう尋ねてくる。
鳳炎には巻き込んではいけないと釘を刺されているからな……。
この二人の実力はあんまり知らないけど、Sランク何だから強いはず。
でも……。
「前鬼の里の復興の手伝いだ。ちょっと手が空いたからな。俺が使ってやらないとラックは飛べないしね」
「
「そうなんですね。何か困ったことがあったらラックに手紙を預けてここに戻ってきてくださいね。どれくらいで戻る予定ですか?」
「二ヶ月は戻らない予定だ。流石にラックは返した方がいいか?」
「いえ、大丈夫ですよ。ラックが居れば復興の手助けにもなるでしょう」
「それはありがたい。また何か礼をさせてくれ」
「じゃあ今度模擬戦していただけますか? ユリーだけずるいと思っていたんです」
「お、おう。分かった。じゃあ二ヵ月後な」
「はい!」
な、なんかローズから不穏な空気を感じた気がしたけど、気のせいだという事にしておこう……。
よし、じゃあ行きますか!
バミル領!
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