6.10.ひとっとび


 鳳炎はギルドにいた。

 相変わらず何かを考えていたが、俺はその手を引いて状況を説明しながらアレナを探しに行く。


「なんなのだ!」

「お前が悶々と考えている事が解決できそうなんだ! 手伝え!」

「なんだと!? いや、そもそも私が何を考えているかなどわかるわけが……」

「あの悪魔が言ってた事ずっと考えてんだろ!? そんなの俺も同じだから分かるわ!」


 鳳炎はすぐに俺が何かの手がかりを掴んだという事が分かったらしく、炎翼を広げて飛んだ。


「アレナの場所は分かるか!?」

「今から探す! 後零漸は置いて行くぞ」

「あの壁を置いていくのか?」

「時間がねぇ! 急がないとマズそうなんだ! それにお前は城に行きたくねぇだろう?」

「うむ!」


 そう言って、鳳炎は空を飛んでいく。

 だがまだ説明は終わっていない。


 俺は無限水操を使って鳳炎の足に水を絡ませて地面に叩き落す。

 低空飛行だったからダメージはまだないはずだ。


「何をするのだ!」

「まだ話は終わってねぇんだよ! 俺は先にローズの所に行って飛竜を準備する! アレナを連れてローズが持ってる飛竜の小屋に来てくれ!」

「場所は……確か城壁の近くであったな! 了解した!」


 そう言った後、今度こそ鳳炎は飛んでいった。

 よし、俺は一度戻って……っとその前に何か必要なものはあるか?

 回復薬は俺が作れる。


 飛竜を使ってどれだけの旅路になるかは分からないが、あいつは送ってもらったらすぐに帰ってもらおう。

 飼いならされてるし、ちゃんと元の場所まで帰ってくれるだろう。

 とりあえずその辺の事聞いておかないとな……。


 あ、ラックの肉だけは確保しとくか。

 それがあれば道中の食料は何とかなるだろ。

 あいつがどれくらいの速度で飛ぶかは分からないが……。

 四日分くらいの食料は持って行っておくか。


 よし、俺は旅の準備だー!!

 食料大事!

 水は俺が作り出せるし、炎は鳳炎に任せておけば問題ないだろう。

 うし行くぞ!



 ◆



「ローズ! 準備は出来たかー!?」

「まだに決まってるじゃないですか!!」


 扉をバンと開けて中に入ったが、今はリックに新しい鞍を付けている最中だった。

 何故か知らないが、ラックは公開処刑を待つ罪人の様にしょんぼりとしている。

 何故だ。


 ふと横を見てみると、凄い目で睨んでる騎竜二匹が見えた。

 どうやら俺を乗せてどこかに行くというのがとてつもなく羨ましいらしい。


 なんかラック最近散々だな。

 主に俺が来てから……。

 すまん……道中いいもん食わせてやるから勘弁してくれ……。


「兄ちゃん。どうして急にラックを?」

「いや、真面目に急用ができてな。そこに行くには馬車で一週間とちょっとはかかるんだ。でもこいつならすぐに行けるだろう?」

「その距離だと、ラックなら二日で行けるわね。ローズもいいって言ってるし、私が止めることは無いんだけど、あんた乗りこなせんの?」

「勘でやる」

「えっ」


 練習してる暇なんてあるかってんだ。

 こちとら一大事やぞ。

 それに、今のこいつなら俺たちを振り落とさずに行けるだろうしな。

 とりあえず問題は無いだろう。


 食料も買って来たし、二日で行けるのであれば少し多かったかもしれないが、残ったのはラックにあげよう。

 運んでくれた礼としてな。


「ローズ。ラックって指示されたらここまで一匹で帰ってくるか?」

「んー、どうでしょう……。やった事無いからわかりません。なので出来れば一緒に帰ってきてくれると嬉しいですね」

「そうか……」


 前鬼の里でこいつ置ける場所ってあるのか……?

 できれば運んでくれた後で帰ってくれたらうれしかったのだが……。

 あ、道中でこいつに話を聞けばいいか。


 今聞いたら変な奴って思われるだろうしな。

 ここはステイだ。


「おーれーん!」

「おっ。早かったなってどっから来てんだ!?」


 アレナの声が上から聞こえたので、その方を見てみると城壁を越えてこっちに落ちて来ていた。

 今のアレナであればこのような事は容易いのだろうが、流石に予想外の場所から来られると驚いてしまう。

 鳳炎ならともかくとして……。


 スタッと地面に降りて、テテテテッと歩いてくる。

 初めてみる騎竜や飛竜に全く物怖じしていないようだ。

 なんか前にも似たようなことがあった気がするが……。

 まぁいいか。


「アレナじゃん!」

「ジグル久しぶりー! 私も行くの!」

「そうなんだ!」


 会話の様子からして、昨日アレナとジグルは会っていないのか。

 あの三人と一緒にいたはずなんだけどな。


 二人は暫く今までのことを話していた。

 暫くしていると、鳳炎が空から降りてくる。

 片手には豪華そうな槍が握られていた。


 アレナにここに行くように指示を出しておいて、自分は武具を調達しに一度工房に寄ったらしい。

 鳳炎の装備は基本的に工房に預けているらしく、必要に応じて取りに行っているのだとか。


 そんなことも出来るのか。

 まぁ俺の武器はここにいる人じゃ手入れできないだろうし、前鬼の里に戻って余裕があったら見てもらうことにしよう。

 ……今、どういう状況になっているのかは分からないが。


「よし! 準備できましたよー!」

「助かる!」


 俺はひょいっとラックに乗り込み、アレナを引き上げて後ろに乗せる。

 鳳炎は自分で飛んでいけるので、そのまま着いてきてもらう事にした。


「そういえば応錬。何処に行くんだ?」

「前鬼の里だ。なんか今やばいことになってるかもしれない」

「お爺ちゃん大丈夫?」

「分からん」

「!? 米は!!?」

「分からん」

「なんてことだ!!?」


 鞍に着いているベルトを巻きつけながら、俺はそう説明する。

 本当に分からないことが多い。

 俺もあの水の玉が壊れたってことだけしか分からない。

 何が起こっているのか、それは自分の目で確かめなければならないだろう。


 あの水の玉が壊れるなんて相当な事だ。

 何かあるはずなんだ……。


「急にすまんなローズ。借りていく」

「食事だけは取らせてくださいね。よし、ラック。行ってらっしゃい。後ゴーグルしてね」

「応」

「グルァ」


 ラックが唸ると、その場で浮かび上がって上昇していく。

 城壁よりも高く上がった時、体を斜めに落として風を受け、また羽ばたいて速度を増した。

 風を受けてしまい、一気に背が後ろに下がりそうだったので、何とか前傾姿勢に戻して風の抵抗を無くす。


「ぬぅ!? 速いな!?」

「私は平気ー」

「なんでだよっ……!」

「初めてにしては様になっているではないか。上出来上出来」

グルガルァチョウセイシテル……」

「良い子じゃん! じゃあこのまま頼むぜラック!」


 俺たちはそのまま前鬼の里に向かって飛んでいったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る