10.31.ぶつかり合い


「『土地神』」

「『天割』」


 地面が隆起した瞬間、それが両断される。

 二度三度同じことが続いたあと、大きな音を立てて崩れた土くれが再び立ち上がった。


「『土地神』!!」

「零漸!! 地面の対処はお前に任せた!!」

「了解っすよー!! うおおおおお!!」


 地面に手を置いたまま、零漸は土を操る主導権を握り続ける。

 だがすべてとはいかないようで、少し離れた場所から土の塊が飛んできた。

 それに気付いた零漸は、操っている土で壁を作って防ぐ。


 俺が攻撃、零漸が防衛。

 そしてダチアがイウボラを救出し終わり、何とか後方へと避難した。

 預けていた回復水を飲ませ、体力を回復させる。


「無事かイウボラ!!」

「無事そうに……見えます?」

「体が粘液だから分からん! こんな時に無駄なことを言うな馬鹿者!」

「へへ……」

「マナ! 頼んだ!」

「ええ!」


 イウボラを抱え上げたマナが、後方へと退避する。

 負傷者はこれで問題ない。

 後方にはカルナやティックたちが控えているので、あとのことは彼らに任せておけばいいだろう。


 それを確認したダチアは、持っていた長剣を握りしめて加勢に向かう。

 翼を広げ、ダイスを投げる。


「『瞬翼しゅんよく』」


 『21』という出目が出た。

 翼が風を捉え、一度の羽ばたきのみで地の声に肉薄する。

 丁度応錬が天割を使った直後の追撃。

 回避したばかりで体勢を整えられていない今であれば、確実に攻撃が当たる。


 風を切りながら刃をぶつけた。

 だが甲高い音がする。

 何かに受け止められたようだが、今の地の声の体勢ではこの攻撃を防ぐことはできないはずだ。

 だが、地の声の肩にはもう一人の声がいる。


「……ッ」


 天の声が何とか空圧の剣を作り出し、ダチアの攻撃を防いだ。

 一人の男性を抱えているというハンデはないと思った方が良いだろう。


「チィ! ギリギリで耐えやがる!」

「邪魔だ」

「フンッ!!」


 ダチアの技能は今もなお続いている。

 一瞬で後ろを取り、下段から長剣を振り上げた。

 しかしそれも天の声の剣で受け止められてしまう。

 よくその状態で耐えることができる物だと感心するが、そうそう何度も受け止められるわけがない。


 ただでさえ瀕死なのだ。

 受け止めたとしてもあと数回が限界の筈。


「邪魔だと言っている」

「俺ばかりに目が行くのは良くないぜ」

「チッ!!」


 飛んできた天割を紙一重で躱す。

 機動力を手に入れたダチアはそれをすぐに回避し、次の攻撃へと移った。


 近距離でダチアが戦い、遠距離から応錬が攻撃し、地の声の最大の攻撃を零漸が防ぎ続ける。

 この中で一番戦いに貢献しているのは零漸だ。

 地面を操られにくいからこそ、こうして二人が戦えている。


 隙さえあれば零漸も攻撃をしているが、それはあまり意味を成していない。

 だが視界を遮るのにはちょうどよかった。


「そこだぁ!!」


 地の声が零漸の作り出した土に隠れた瞬間、天割を全力で放つ。

 土を両断して地の声に攻撃が直撃する。


「ぬうううう!! ちまちまと……!!」


 力を込めて天割の斬撃をへし折り、無理やり解除する。

 腕が千切れかけていたのですぐに再生した。


 だが間髪入れずにダチアが攻撃する。

 数十連撃の立ち合いだったがどちらも引かず、最後に大きく打ち合って距離を取った。


「『水龍』!」


 大量の水が出現し、龍の形となって地の声を襲った。


「!! 操りやすい!!」


 以前はまったくいうことを聞かなかったこの技能だったが、今なら操れる。

 三尺刀、白龍前の切っ先で龍を操り、それをぶつけた。


「衝撃に備えろ天! 『爆拳』!!」


 ドォオン!!!!

 大爆発が起き、一瞬で水龍が吹き飛ばされた。

 大量の水が周囲に飛び散って雨になる。


 だがそれを利用する。


「『水弾(斬)』」


 すべての雫が鋭い刃となり、それが地の声を襲う。

 状況をすぐに理解した天の声だったが、地の声に説明している時間はない。

 だがこれは痛手となる可能性が高かった。

 何とかしようとは思ったが、既にこの空圧の剣を維持しているだけで精一杯だ。


「!」


 一拍遅れて地の声が水の挙動に気付いた。

 すぐに片手を開き、ギュッと握り込む。


「『圧結界』」


 パァアンッ!!!!

 地の声を中心に円形の波が周囲に展開する。

 それに水弾(斬)が触れた瞬間、大きな音を立ててすべての水を完全に弾き飛ばした。


 余波で近くにいたダチアが地面に叩きつけられ、応錬は地面を転がってしまう。

 強力な範囲攻撃であり、防御技。

 今ので二人が一時的に行動不能となる。


「兄貴! ダチア!」

「……逃げの一手と思っていたが、始末した方がいいか」

「私が持たん……逃げろ」

「チッ。しゃーねぇ……」


 地の声は背を向ける。

 マズいと思った零漸が土を操るが、今度はそれを阻止されてしまった。

 数度目となる主導権争い。

 再び主導権を握ろうと魔力を流し込んでみるが、こういう時に限って中々奪えない。


 そうしている間にも、地の声は呪文を唱えている。

 移動呪文。

 あれを発動させられたら、負えなくなってしまう。


「さぁせぇるぅかああああ!!」

「ぬぐっ!!?」

ところ……!!」


 地の声の胸部から刃が生えていた。

 白龍前が背中から突き刺したのだ。


 俺はすぐに刃をねじって回転させ、上方向に力を入れる。

 鋭い切れ味の白龍前はすぐに地の声を切り裂いた。

 胸部から頭上を真っ二つにし、鮮血が周囲に飛び散る。


 そこで天の声が目に入った。

 目をかっぴらき、横に一回転して遠心力をつけた白龍前で両断する気持ちで振り抜く。


 咄嗟に空圧の剣を構えて難を凌いだが、威力はすさまじいもので地の声ごと大きく吹き飛ばされる。

 地面を転がった二人は何とか立ち上がったが、そこで天の声はマズいことに気付く。

 頭が両断されている状態で、ふらふらと揺れ動いて殺気を飛ばした。


「!! おい地!! よせ、戻って……ゴホゴハッ……戻ってこい!!」

「主をぉおお……斬ったなぁ……」

「地! ぬおお!?」


 バグンッ。

 地の声が操った地面が口を開き、天の声を飲み込んだ。

 完全な臨戦態勢に入り、更には狂気状態となっている。

 守る存在を離して閉じ込めた地の声は、これからが本気だと言わんばかりに地面を踏んだ。


 ドガンッ!!!!

 地面が割れ、亀裂が入って地震が起きる。


「『大地の主』……」


 巨大な土くれが、起き上がった。

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