11.13.祠
何とか一日ですべての稲刈りを終えた。
朝は皆で話ながら稲を刈り、昼は女たちが持って来てくれた昼食を食べて、昼からはラストスパートをかける勢いで稲刈り、そしてはさ掛けを行った。
すべてが終わったのは日没前だ。
いつも通りと言えばいつも通りだが、今回は実りが多かったためテキルや技能の仕様がなければ確実に日が沈んでいた事だろう。
それまでに終わらせることができて本当によかった。
その日は全員が疲れていたので、あとは夕食を各々が摂って就寝という流れになった。
俺もぐっすり寝られた気がする。
んでもって朝……俺は既に居間に座っている。
腰が少し痛い。
手を当てて腰を伸ばすと、パキパキと音が鳴った。
「ん~~……凄いな皆……。背筋めっちゃ伸びとる」
「応錬は畑仕事は初めてであるか?」
「ああ。鳳炎は?」
「爺さんが百姓だったのでな。収穫時には稲刈りとはさ掛けはよく手伝っていた」
「方言が凄いんだっけ?」
「少々な。まさかそれが役に立つことがあるとは思わなかったが」
「アトラックだっけか」
「うむ」
あいつ方言凄いらしいからなぁ。
俺も一回聞いてみたかった。
「さて応錬。今日は祭りの準備だ」
「いやそうなんだけどさ。俺が行っても手伝えることないんだよな」
「私もである。だがこうしているわけにもいかないだろう。今晩には祭りが開かれるしな」
「そうなんだよねー」
今、前鬼の里は祭りの準備をしている最中だ。
朝早くから様々な催し物をするために食材の確保や屋台の設置などを行っている。
そして一番メインとなるのが太鼓演舞だ。
今年はライキが参加できないので、あの特大大太鼓は一体誰が叩くのだろう?
まぁそんなこんなで、今日この屋敷にはほとんど人がいない。
ウチカゲや姫様も準備をしに行く為に出払っているのだ。
いるのはライキくらいだろう。
このまま祭りが始まるまでのんびりしていてもいいのだが、さすがにそれだと暇すぎる。
「あ。そうだそうだ、白蛇の祠に行こう!」
「白蛇の?」
「そこにカルナと宥漸を転移させる予定だからな」
「未来に飛ばすことを転移というのだろうか……? まぁ解り易いからそれでも構わないが」
「ちょっと場所を把握しておきたいんだよね。変なところに飛んでもらっても困るし」
「なるほどな。ではライキに案内をしてもらうことにするか。呼んでこよう。お前は先に外で待っていてくれ」
「了解だ」
とりあえず今日のやることは決まった。
まぁ白蛇の祠なんてすぐに見終わってしまうだろうから、その後は適当に里をぶらぶらとしてみますかね。
◆
それから俺と鳳炎は、ライキを連れて前鬼の里を歩いていた。
今いるのは前鬼城の三の丸の外周で、この道に沿って行けば洞窟に辿り着くのだとか。
祠は少し深い場所にあるらしい。
山の洞窟とかじゃなくて、地下の洞窟に設けているのか。
なんでもそれには理由があるらしい。
車椅子に座っているライキがそれを教えてくれた。
「先代白蛇様はその洞窟から出てきたとされておるのです」
「鬼門の里に居たって話だったけど……」
「ふむ、恐らくですがそれは、蛇になられた後移動されたからだと思いますな。祠には地底湖が広がっております。もしかすると……」
「ああ。俺は川で魚から蛇に進化した時に陸に上がった。でも日輪はそれが地底湖だったのか」
それだったら納得だな。
んで、その洞窟があるところに前鬼の里を作ったって感じか。
多分この事は日輪が教えていたのかもな。
じゃないと分かんないだろうし。
ん?
日輪は自分たちの存在を消して記憶も消したんだよな……。
なのになんで白蛇って伝承で残ってるんだろ。
人間になった時の記憶を消しただけなのか?
「そこんところどうなのかな、鳳炎」
「白蛇という伝承は日輪に関する記憶とは別物だったのだろう。あいつは古い人間らしいからな。消す範囲もあやふやだったはずだ」
「なーるほどねー」
そう言われてみればそうなのかもしれないな。
時代によって考え方も違うだろうし、そういう知識もなかっただろうしね。
「さて、着きましたぞ」
俺たちは一度足を止めた。
そこには巨大な門が一つある。
南京錠が数十個付けられており、門の中央下部分には閂もあった。
どれだけ厳重なんだと少し呆れる。
そこで鳳炎が首を傾げた。
周囲を見渡してみて、分かることがあったらしい。
「……ここは
「そうですな。鬼門とも呼ばれておる場所です」
「開かずの門であるか……何故こんな所に……」
艮とは方角で、今の東北に当たる。
城を中心とした時、東北にあたる門は鬼門と呼ばれ、開けることはなかったと一説では聞いたことがあるが……。
まさかここにも存在しているとは思わなかった。
そしてその門を先代白蛇が出てきたであろう洞窟の前に設置するなんて……。
信仰しているとは思えない待遇だな。
「なんで閉じ込める風にしてあるんだ?」
「覚えておられますかな。先代白蛇様は呪う技能をお持ちだったとされていることを」
「あ、そういえば……」
「儂が子供の頃、この祠をどうするかと議論していたことがあります。結局呪いが恐ろしいので封じてしまおうとなったのですが、白蛇様が残してくれた技術は素晴らしかった。故にこうして今も語り継がれているのです。恐ろしい技能を持った、素晴らしい蛇様だと」
なるほどね……。
そういえばそれで天打が腹を切ろうとしたんだっけ。
いや、懐かしっ。
本当に初期の初期の話じゃんね。
でもダチアの話を聞いている限り、そんな技能は持っていないし誰かに使う風でもなかったな。
皆日輪のことを尊敬していたし、日輪も鬼たちと仲良く過ごしていた。
仮に持っていたとしても、使うといったことはしなかったはずだ。
では何故こういった伝承が残っているのだろう……。
「これは私にも分らんな。ダチアに聞いてみた方がいいかもしれない」
「あいつも分からなさそうだけど」
「それか、この情報自体が嘘なのかもしれない。応龍の決定の代償だよ」
「マジで何でもありになってくるなぁ~。でもそれだと納得できるわ」
「真意はさておき、鳳炎殿。この鍵を」
「うむ」
ライキが鳳炎に鍵束を手渡した。
それで一つ一つの南京錠を開錠していき、最後に閂を取っ払って門を開けた。
するとそこにはぽっかりと空いた穴があり、奥深くへと続いている。
鳳炎がカンテラに灯を灯し、先頭を歩く。
俺がライキの車椅子を押しながら、その後に続いた。
何もない一本道の洞窟が続いていく。
風が抜けているのを感じた。
最奥の方に行けばまた違う場所に出られるのかもしれない。
そんなことを考えながら進んで行くと、少し広い空間に出た。
地底湖が広がっており、水の中は緑色に光っている。
苔か何かだろうか?
明かりが要らない程発光している。
そして、明らかに人工物と思われる小さな石垣があった。
上には祠が設置してある。
小さな物だがその造りは難しく、屋根が何枚も付いている。
日本一複雑な屋根を持つ神社、大瀧神社の屋根の様だ。
「なんっだこれ……すご……」
「今の棟梁が建てた物ですな。御年四百二歳だったはずですが」
「すげぇ……」
どれだけ器用なんだ……。
それもだけどどうやってこんな細い枝みたいな材料でここまで作り上げるんだよ。
おまけに全部組んでる。
接着剤とか釘とか使ってねぇ……。
こういうの作れたら楽しいんだろうなぁ。
俺には無理だけど。
「応錬。お前が見るのはそこではないだろう」
「そうだな」
鳳炎に注意されて、俺は後ろを振り返る。
これだけ大きい場所であれば、あの二人を転移させるには十分だな。
場所も覚えたし、大丈夫だろう。
明かりが要らないというのがいいな。
急に真っ暗な空間に放り投げられたら怖いだろうし。
風も通ってるみたいだから、ある程度であれば火を使っても問題はなさそうだ。
……後は、ウチカゲに任せるしかないか。
「よし、分かった」
「ここに長居するのは良くないとされておりますので、そろそろ参りましょう」
「了解だ」
場所が把握できただけで十分だ。
なんかすごいものを見てしまったが、これで二人を安全にここに届けることができるだろう。
さ、今日は祭りだ!
楽しむぞ~!
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