11.14.祭り開催


 日没して周囲がだんだん暗くなってくる。

 家と家に繋げられたロープに提灯がぶら下がっており、それが一斉に灯った。

 それと同時に尺八、篠笛、太鼓の音が鳴りだし、祭りが始まる。

 収穫祭だ。


 大通りに屋台が並び、様々なものが売り出されている。

 傘踊りも始まっているようで、傘を持った鬼たちが大通りを練り歩いていた。

 懐かしい光景だ。


 まだ神輿は運ばれていないようだ。

 だがあと少しすれば鬼たちが運んでくるだろう。


「おお~~、懐かしい!!」

「俺たちは一年ぶりっすよ~。今年は豊作っすから、米俵も多いと思うっす」

「お前は今年も太鼓を叩くのか?」

「いやぁ、今回は違う人が叩くっすよ。まぁ見てのお楽しみっす」

「そうかぁー! よぉーし、楽しむぞ~!」

「行こう応錬!」

「よし!」


 アレナに引っ張られ、近くにある屋台を回っていく。

 前と同じ感じだな。

 デカい寿司とか、団子とか飴とか沢山の食べ物が販売されているようだ。

 食べ歩きをしながら、傘踊りを見て楽しむ。


 そういえばこれが鬼人舞踊の型なんだったな。

 見てたら何か解るだろうか?


 そう思って傘踊りを注意深く見てみることにした。

 天打が使っていた技であるので、見ればなんとなく分かりそうな物ではあるが。


「…………分からん」

「何が?」

「いや、傘踊りって鬼人舞踊の型なんだろう? 見てたら何か解るかなって思ったんだけど……無理だったわ」

「私も分かんない。でも楽しそうだよね!」

「確かに」


 祭りににあった服装をして、傘を持って踊りながら練り歩く。

 こういうのいいよなぁ~。

 子供たちも楽しそうに踊っている。


 やはり祭りはいいな。

 前鬼の里の祭りは日本にあった祭りとほとんど同じ形式だから、俺たちでも十分に楽しめる。

 西洋のお祭りとかは何があるんだろうか?

 この辺はあんまり興味がなかったから分からないなぁ。


「応錬ー!」

「来たわよー」

「お、鳳炎とリゼか!」

「もう既に楽しんでいるみたいね~。ねぇ応錬。面白い人連れてきたけど見る?」

「面白い人? 誰?」


 首を傾げていると、リゼが後ろを振り返ってちょいちょいと手招いた。

 する真っ黒な服にマントをつけている若い人物が現れる。

 体にぴったりと合った服で、防具もそれに合うように付けられていた。

 祭りなのになぜ防具……?


 歩き方は綺麗で、自信がありそうな顔つきだ。

 だが俺はこの人物を知らない。

 一体誰だろうか。


「久しぶりだな応錬!!」

「誰」

「はっ! 私のことを忘れるのも無理はないなっ! なにせ……成長してしまったのだからっ!」


 一々かっこいいポーズを取っている。

 なんだこいつ。

 でも俺のことは知っているのか。

 んーーーー……誰だ……?


「兄貴、兄貴っ」

「んっ?」

「クライス王子っすよ」

「ほぇ!?」

「はーっはっはっはっはっは! そう! 私こそがサレッタナ王国第一王子! 闇を操りし闇魔導士のクライス・ウェイタルナ・スニッパーである!」

「おい零漸! 面白い子に育っちゃってるけど!?」

「やっちまいました!」

「おい!!」


 いやちょっと話は聞いていたけどさ!

 ここまでだとは思わないじゃんっ!?

 なにがどうなってこうなっちゃったのよ!


 うわぁお第一王子それで良いのか。

 完全に厨二病拗らせちゃってるじゃありませんか。


 いや、うん。

 でも動きは腹立つくらい綺麗で完璧だなぁ……。

 なんでそこ無駄がないのよ。


「ていうか何で第一王子がこんな所に来てるの」

「これは私の闇の力による予言が──」

「クライス王子、こういう時くらいは真面目に話すっすよ」

「うぬっ……零漸がそう言うのであれば仕方あるまい。応錬の決定を国民に知らせ、兵士を撤収した。私は近くに拠点を構えて防衛に当たっていたのだがその必要がなくなったため、応錬と最後に顔を合わせようと思ってここに来たのである」

「なるほど?」


 この数日で結構話は進んできているようだな。

 あとは向こうを待つだけ……という感じか。

 もう少しなんだなぁ。


「にしても、お前もでっかくなったなぁ」

「フハハハ! それはそうである! もう六年だ! それに霊帝とギルドマスター、雷弓にはとても世話になったからな! 改めて礼を言いたかったのだ。応錬だけには直接言えなかったからな」

「ああ、そうか。そう言えばあれからすぐに旅だったっけか」

「一言くらいあってもよかっただろう。まったく、お陰で礼を言うのが一年も伸びてしまった。お前に至っては六年だ。ずいぶんもどかしかったぞ」

「悪い悪い……」


 文句を言っているようではあったが、なんだか楽しそうだ。

 こいつも俺を守るためにあれから色々動いてくれていたに違いない。

 サレッタナ王国が協力してくれたのも、こいつの存在があったからかもしれないな。

 そうでなければ、兵士を出すなどといったことはしないだろう。

 助けた甲斐があったというものだ。


「はぁ~、ここまで来たらジグルやマリア、ユリーとローズ……他にもイルーザ魔道具店で働く子供たちと会いたいなぁ。ドルチェは元気かな」

「その辺は私が概ね把握しているぞ」

「お、さすが第一王子」

「いいぞもっと褒め称えよ!」


 あ、この子褒めると調子に乗っちゃうタイプか。

 ちょっと褒めるのは少し避けよう。


「で? どうなんだ?」

「うむ! マリアはいつも通りギルドで働いている。雷弓の三人は前線で猛威を振るっていたな。イルーザ魔道具店の者たちは魔道具を提供してくれたりしたぞ。子供たちも魔道具を作る知識をイルーザに教えてもらっているようだ。ドルチェは奴隷商から足を洗って孤児院の院長をしているな」

「へぇー!! ドルチェ頑張ったな!」

「他の者たちも頑張っているぞ。だが、彼らはここには来れないだろう」

「そうなのか……」

「戦争の後始末やら魔道具の管理、子供の世話などが主な理由だ。だが……私が来てやったぞ!」

「ヤッター」


 そこまで自信満々に言うことかね。

 まぁこういうテンションがおかしい人は見ていて面白いけどさ。


 んー、眠る前に一度はあっておきたかった。

 まぁまだ時間はあるし、来てくれるかもしれない。

 それに期待しておくとしいますかね。


「皆ー! これ食べよー!」

「お、寿司か。山葵は克服したかー?」

「もう大丈夫だよ!」


 前は山葵入りの寿司食べて酷い目に遭ってたけどな。

 なんだか思い出すと笑えてくる。


「じゃあ俺たちも遊ぶっすかー!」

「だけど零漸。カルナさんはいいのかしら?」

「太鼓演舞が始まるところで合流する予定っす。姫様と一緒に回ってるみたいなんすよね」

「そうなのね。んじゃ、こっちはこっちで楽しみましょう。最後だし!」

「うっす!」

「最後か。うん、最後であるな」


 それから俺たちは屋台を回ったり、傘踊りを見て回りながら楽しんだ。

 途中で神輿が運ばれてきたりして、周囲は良く盛り上がっていたように思う。

 大量の米俵が積まれており、今年の豊作を誰もが感謝しているようだった。


 毎年のことでも、やっぱり丹精込めて育てたものだ。

 嬉しいのだろう。


「おうれーん! 宝魚掬いやろー!」

「宝魚掬い!!? え!? いやポイがデカいな!!?」

「おおー! 混ぜてくれっすー!」

「鳳炎? なにあれ??」

「私も初めて見る……」


 そんな感じで、一行はこの祭りを大変楽しんだのだった。

 残すは、太鼓演武のみである。

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