7.28.天の声


 その言葉に、俺だけではなく他の三人も驚いた。

 それもそうだろう。

 急に出てきたあの変な奴が、俺の技能の中に入っている天の声だとは誰が思っただろうか。


 これに関しては全員が知っている事である。

 一人一人に名前は違えど声という特殊技能があるはずだからだ。


 となると、俺が今まで出会ってきた残りの二人も、何かの声になるのだろう。

 今そいつらはいないが、まずは目の前のことに集中する。

 しかし……これは一体どうすればいいのだろうか……。


「おお~、期待通りの反応だっ!」

「いやいや、いやいやいやいや、おらあぁ!!」

「ふべぇっ!?」


 いや、とりあえず殴りますよね。

 今まで俺のこと散々弄んできたんだから、これくらい許されるはずである。


 意外と簡単に吹き飛んでいった天の声は、地面に盛大に転がっていく。

 確かに本気で殴ったけど、なんかあんまり殴ったっていう実感はなかったな……。

 あれか、夢の中だからか。


「なにするんだ!」

「うるせぇ貴様俺のこと散々弄びやがって……。進化先ダトワームに指定したことや、人間になれない状況作り出しやがって……」

「あっ、すいません……」

「よ、弱いっすね……」


 一応罪悪感はあったのね?

 よし、じゃこの一発で許してやるとしよう。


「あ、それとですね……」

「まだ何かあるのか?」

「いやー……応錬君と初めてあった時なんだけど……」

「土下座してたな、そう言えば」


 あれは……ガロット王国にいた時だっただろうか?

 確かこいつとあと二人が左右にいて、何故か天の声だけは土下座をしていた。

 そう言えばあれの意味は分かっていない。

 何に対して謝っていたのだろうか。


 というかこの世界にも土下座という概念があるのかね。

 今までこっちで過ごしてきてるけど、そういうのは見たことないなぁ。


「えーっと……すごーーーーく申し上げにくいんだけど……。応錬君とリゼ君ね」

「私も?」

「う、うん。君たち二人だけに記憶がないと思うんだ……」


 ああ、そういえばリゼも記憶がないって言ってたな。

 ……おん?

 ということはもしかして……。


「君たちをこっちに転生させる際に、記憶の中を見ることがあったんだけどね? えーっと……そのー……」

「おい、まさか」

「手元が狂って紛失しました!」

「フン」

「ふべっ!?」


 お前のせいかよ!!

 おい貴様辞書だろ!?

 そういうのしっかりしとけよなぁ!?


「お、応錬。少し待つのだ。理解が追い付かないぞ……? なんだ? 天の声……は応錬が持っている特殊技能だったはずだな」

「ああ、そうだ」

「それがなぜ人化して現れている? そして私たちを転生させただと? となるとお前は……神か何かの類なのか?」

「そうだよっ」


 蹴り飛ばされてからすぐに立ち上がる天の声。

 この空間ではあまりダメージがない様だ。

 まぁ夢の中なので、これは仕方がないことなのかもしれない。


「まぁ、あんまり力は強くないから、君たち四人しか転生できなかったんだけどねぇ~。でもこうやってようやく話すことができた! 四人集まらないと会話できないんだよね」

「てなるとなんだ? 俺と会った時は無理していたのか?」

「そっそ。いきなりじゃ混乱するだろうし、君にだけは慣れて貰う様にしていたんだ」


 俺じゃなくてもよかったんじゃねー……?

 まぁ別に問題はなかったからいいけどさ。


 というかこいつ神なんだな……。

 雰囲気は確かにそんな気がするけど、口調を聞いてみると威厳のイの字もない。

 こんなんで神様務まるんですねぇ……。


 すると、天の声は手をパンと合わせて音を出す。


「本当はもっと早く説明したかったんだけどね。遅れてごめん。今なら僕の分かる範疇の内容であればどんな質問にも応えれるよ」


 とのことだ。

 俺たちは一度顔を見合わせる。

 聞きたい事っていうが、聞きたい事しかなくて困っているのだ。

 一つ一つ消化していくことにしよう。


 天の声の提案を聞いた鳳炎が、まず質問をした。


「何故私たちがここに転生したのだ?」


 それは俺も気になっていたことだ。

 転生し始めていろいろ災難な事ばかりが誰の身にも起こっていた。

 普通転生してすぐに放りますかね?


「それはね、運が良かっただけだよ」

「……そ、それだけなのか?」

「うん、それだけ。僕が摘まみ上げた死んだ魂、それが君たちだったっていうだけなんだ。まぁ人の成りを見る為に記憶を覗くんだけど……あ、えっと……ごめんね……?」

「まぁ支障はないからいいさ」

「でもどんな人だったかっていうのは気になるわね」


 それは確かに。

 だが聞いたところでなにかいいことがあるわけでもなさそうな気がする。

 死んだ魂って言ってるし、俺たちは何らかの原因で死んでしまったのだろう。

 零漸からはそういう話を聞いているしな。


「お、聞きたい?」

「俺はいい」

「あら、そうなの? じゃあ私もいいや」

「あれ? 聞かないんすか?」

「だって私だけ聞いて応錬だけ聞かないってなんか嫌じゃない? てか……零漸って貴方?」

「はっ! そう言えば初めましてっすね!」


 零漸はそれに気が付いて深々と頭を下げて自己紹介をする。

 それに続いてリゼも自分の名前を伝えた。


 会う機会なんてなかったからな。

 まさか夢の中で自己紹介をするとは思っていなかっただろうな……。

 まぁこいつらのことは置いておいて、俺と鳳炎は天の声から話を聞くことにしよう。


「で、お前は一体何なんだ?」

「一応神様です。急に転生させておいて放っておけなかったから、僕たちは声という形で君たちにこの世界で生き抜くことができる情報を提供していたんだ。あんな風にしか伝えられないんだけどね……」

「助けになったのは確かだが、お前のあの選択だけは許さねぇからな……」

「ごめんて。でもそうするしかなかったんだ。僕たちは情報を提供するだけで、進化先なんかを弄れるわけじゃないからね」


 俺たちの進化先や、取得できる技能はもう全て決まりきってしまっているらしい。

 後はレベルを上げて進化するだけなのだとか。


 そうなると俺の目標は一段落してしまうな。

 とりあえず龍になれるって事だったから、あの状況から頑張ってきたわけだし。

 それ以降のことはあんまり考えてなかった。

 まぁこれから決めていけばいい話だとは思うんだけどね。

 ま、まだ進化も先だし、ゆっくり考えていけばいいか。


 しっかし、こんな奴が神様ねぇ……。

 にわかには信じられないけど、声を届けたりこうして俺たちを転生させる力を持っているんだから、それなりに神様としての素養は持っているんだろうな。

 知らんけど。


「んー……。何を聞けばいいか、ここまで来ると分からなくなってくるな……。天の声は、過去に一度私たちのような転生者をこの世界に転生させたことがあるのであるか?」

「ないよ?」

「ないのか? じゃあ先代白蛇ってのはなんなのだ?」

「さぁ……。ごめんね、僕たちも全部知っているわけじゃないんだ。僕たち以外にも神様っているし、それらが関係しているのかも」


 ふむ、となると天の声と先代白蛇との転生関係はないということになるのか。

 それじゃああいつらの関係性や技能の継承とかは分からねぇな……。

 まぁ日本には八百万っていうくらい神様が多しい、この世界でも似たようなものがあるのかもしれないな。

 その辺はよく分からないので、放っておこう。


 しかしそうなると、一つだけ気になることが出てくるな。


「俺たちをこの世界に転生させた意味って、なんなんだ?」


 先代白蛇との関係があるのであれば、何か重要な役割があったはずである。

 だが天の声はそのようなことはないという。

 であれば、俺たちをこの世界に転生させた意味が分からない。


 ファンタジー小説ではよくあることだ。

 何か大きな目的があり、転生、転移させられる。

 世界を変えるーだとか、救うだとかいろいろあるが……。


「ああ、それはね」


 天の声はさも決まりきったような喋り方で、俺たちにこう言った。


「人間を滅ぼす悪魔を倒して欲しいからだよ」

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