7.29.悪魔


 悪魔という言葉が、天の声の口から出てきた。

 こいつは悪魔についてのことは知っている様だ。


「悪魔ってあいつっすか? あの銀の翼……生やしてる奴!」

「他にも何体かいたが、零漸の思い描いている奴らで合っている」

「そう言えば君たちはもう対峙してくれていたんだったね。じゃあ話が早い」


 天の声は片手を振りながら、説明口調で話を続ける。


「悪魔は人間をとても嫌っているんだ。前回のサレッタナ王国の襲撃だって、明らかな過剰戦力だった。根絶やしにしたいと思っているんだよ」

「まぁ確かに、そう言われればそうであるな。だがどうしても引っ掛かるのだ。ダチアは何故私たちにあのような言葉を投げかけたのだ?」

「油断させるため」


 天の声が冷たい口調でそう言った。

 明らかに冷ややかな目で、悪魔を軽蔑しているということが見て取れる。


「奴らは狡猾だ。術中に嵌まる敵を嘲笑う。さもこれが必要な事だと言わんばかりに、相手の痛いところを突いてくる。いい? 絶対に気を許しては駄目だよ? 奴らの言うことは信じてはいけない。それに、そろそろ動き出すかもしれないしね」

「なんだと?」


 悪魔は未だ行方知れずだ。

 奴らの情報は一切入ってきていない。

 何処かで何かをしていたっておかしくない状況。

 またあの災害級の危険がどこかの国に差し向けるかもわからない。


 確かに悪魔は俺たちに妙なことを口走った。

 先代白蛇と繋がりはあるのは明らかであることも分かった今、何をしようとしているのかくらいは教えてもらわなければならない。

 なにか、大きな目的を持っているような気がするんだ。


「奴らは本当に人間を殺すためだけに動いているのか?」

「うん。その先に何があるのかは僕も分からない。ただ、絶対に人間の脅威になることは間違いないよ。だから僕は人間たちを守る為に、君たちを転生させたんだ」

「……お前が言っていることも頭の中には置いておこう。だが悪魔とはしっかりと話し合いをする」

「それでもいいよ。絶対に話してはくれないと思うけどね」

「いいさ。どうせ悪魔の襲撃場所には向かう予定なんだ。人々を守るついでに、いろいろ聞きだすさ」


 まずは……悪魔との接触が必要不可欠。

 何もわからない状況で、彼らから聞ける話は大切なものになるはずである。


「次の襲撃場所、お前は分かるのか?」

「僕は神様だよ。分かるに決まってるじゃん」


 いつもこんな感じであれば、頼もしい奴なんだけどな。

 もう少しその優しさっていうか……神っぽさを俺に向けてできなかったんですかね?

 まぁ鳳炎には同情するけど……。


「教えてくれ」

「バミル領」

「……何処だ? それ」

「君たちのお仲間のアレナだっけ? その子の故郷」

「「「「!?」」」」


 なん……だって……?

 そ、そうか、アレナの父親、アズバルの領地ってだけいっつも聞いてたから、正式な領地の名前は聞いたことがなかったのか……。


 だが、それだと……アレナの故郷は奴隷商含め二度の襲撃を受けることになってしまう!

 何故……!


「鳳炎、零漸!」

「分かっている」

「う、うう……! 兄貴申し訳ないっす……! 今の俺は足手まといになるっすよ……」

「そうだったな……」


 零漸は今、亀ということで冬眠に入ってしまっている。

 奇跡的に起きてくれたようではあるが……今だけだろう。

 無理に連れて行っても確かに荷物になるだけだ。


 零漸は心底悔しそうに握りこぶしを作っている。

 アレナは俺たちの仲間であり、零漸はアレナを助けたいという気持ちが他の者よりも人一倍にあるはずだ。

 こいつはそういう奴だからな。


 勿論俺も負けてはいない。

 行く以上は絶対に負けはしないからな。


「慌てなくても大丈夫。まだ悪魔たちも次の襲撃場所を決めただけで、今は準備に取り掛かってるはずだよ」

「だったらこっちも準備しないとな……」

「リゼ、無理を承知で聞いてみるが、君はどうするのだ?」


 鳳炎に名前を呼ばれて、ハッとする。

 だが、とても申し訳なさそうにして……。


「ご、ごめんなさい……私は……」

「いいさ。君には守る者がいるんだからな。この世界で守りたい者がいるのならば、そちらを優先するのが当然である」

「その通りだ。だが恋路話は捨て置くぞ」

「さ、さすがにこの期に及んでまでそれを求めないわよ……」


 うん、よかった。

 となると、バミル領に行くことができるのは俺と鳳炎、そしてアレナだけか。

 できればもう少し戦力が欲しい。


 マリアでも誘ってみるか?

 あいつも悪魔との戦いに参加していたし、いい動きをしていた。

 一緒に来てくれれば心強い。

 騎士団の力も借りたいが、さすがにそれは無理だろうから置いておこう。


「天の声、あとどれくらいで襲撃が開始されるんだ?」

「二ヶ月後くらいかな」

「十分だな」


 それだったら悪魔の情報も集めることができるかもしれない。

 イルーザには話を絶対に聞いておかなければならないからな。


「鳳炎、バミル領はここからどれくらいだ?」

「ガロット王国の領土であるな。前鬼の里より少し先にある領地である。なので……」

「一週間と三日ってところか」

「一週間と四日は見積もっておくといいぞ」


 サレッタナ王国からガロット王国までは八日。

 そしてガロット王国から前鬼の里までは一日。

 その奥ということなので十日を見積もっていたのだが……もう少し遠いのか。


 だがいざとなればまた飛竜を借りることにしよう。

 あいつが居ればひとっ飛びだからな。


 ……そこに向かえば、悪魔との話もできるはずだ。

 二ヶ月後なので雪は降り積もっていると考えておいた方がよさそうだな。

 

「天の声」

「分かってるよ。じゃ、健闘を祈る。がんばってね」


 天の声がそう言うと、スポットライトが消えていく。

 完全に周囲が真っ暗になった時、俺たちは目を覚ましたのだった。


『……人間に早く戻らなければ……!』

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