9.16.作戦開始


 馬車を隠すための予定地へと辿り着いた。

 騎竜とバトルホースはダンダンと足を踏んで楽し気にしている。

 騒ぐんじゃないお前たち。


 一体何をしているんだ……。

 走ってテンション上がっているのか分からないけどさ。

 静かにしなさい。

 音を立てるのを止めなさい。


「こらっ!!」

「ブルルル……」

「ギャッキャ」

「ヒュルルッ」


 三匹は体を震わせた。

 とりあえず静かになってくれたようだ。

 まったく……。

 でも言うことを聞いてくれる辺り、いい子たちなんだよなぁ。


 三匹がやっと落ち着いたのを確認した後、俺は影大蛇を撫でる。

 今日はこいつが相棒だ。


 しかし……ここまで何ともすれ違うことがなかった。

 おかしい……。

 零漸たちがの乗っているであろう馬車に追いつけてもいいはずだったんだが……。

 別ルートで向かってたから、俺の操り霞に引っ掛からなかったのだろうか?


 むぅ、だがここまで来てしまった。

 これは零漸は後回しでクライス王子救出が先になったな。


「応錬様」

「ああ。準備はできている。ビッドたちは?」

「私たちも問題ありません。では行きましょうか」

「よし、作戦開始だ」


 当初の予定通り、俺とウチカゲ、そしてシャドーアイの三人でバルパン王国に侵入する運びとなった。

 今いる場所からバルパン王国までは半日かかるが、さすがに歩いていきたくはない……。


 これ移動手段どうするんだ?

 まさか本気で徒歩で行くわけじゃないだろうな。


「私にお任せください」


 シャドーアイのティアラが手を上げた。

 地面に手を置き、技能を発動させる。


「『召喚』」


 木の陰からシャドーウルフが四匹出現する。

 その瞬間、首輪をつけた四匹のシャドーウルフはティアラに襲い掛かった。


「ぎゃああああ!!」

「「「「ワフワフ!!」」」」


 体を擦り付けたり顔をべろべろと舐め回したりと滅茶苦茶にされている。

 ずいぶん懐かれているようだが……ちょっと乱暴にされまくってるな。

 あ、そういえばこいつあの時のシャドーウルフじゃん。


「ちょちょ! タラ! チラ! テラ! トラ! 待て!」

「「「「ワフ!」」」」


 ティアラの掛け声で四匹はビシィッと気をつけをする様にお座りをした。

 主人であるこいつの指示は聞くようだが……。

 なんだろう、さっきの様子を見てるからなめられている気がしないでもない。

 大丈夫なのだろうか。


 だけどこいつらに乗っていけば、騎竜とバトルホースに乗っていくよりも目立たないな。

 それにシャドーウルフの能力を使えば、本当に誰にもバレずに何とかなるんじゃないの?


 何とか四匹を待機させたティアラは、べとべとになった体を魔道具袋から取り出したタオルで拭いていた。

 ぐしぐしとしながら髪形を整える。


「はぁ……。この子たちに乗ってください」

「俺は必要ありません。走った方が速いですから」

「あ、いえいえ。この子たちは影を移動できるんです。なのでできれば乗っていただくとありがたいのですが……」

「そうですか。では乗りましょう」


 うん、だよね。

 あれ、でもこいつら夜行性じゃなかったっけ。

 ……犬も夜行性だけど飼い主に合わせて昼間に起きて夜に寝るようになるんだったか。

 それと同じかな?


 え、もしかしなくてもシャドーウルフって忠犬?


「ん? 一匹足りないが?」


 今回作戦に参加するのは五人。

 だというのに四匹しかシャドーウルフがいない。

 これだと一人置いていかれることになってしまうのだが……。


 俺がティアラに指摘すると、彼女はにこりと笑って一つの技能を口にする。


「『魔獣変化』」


 バック宙をした瞬間にティアラの体が変形してシャドーウルフの姿になる。

 それを見てシャドーアイとマリア以外は大層驚いた。


「「「「ええーー!?」」」」

「私は従えている魔獣の姿をとることができるのです。能力も使えますよ」

「こ、これは……驚いた……」


 そんな技能があるのか……。

 なんだろう、ティアラがシャドーアイの中では一番凄い能力持っている気がするな。

 こんなの使えたらいろんなところで役に立つだろ……。

 従魔と連携が取れれば尚更だ。


 なるほど、ティアラは自分がシャドーウルフになれるから四匹しか召喚しなかったのか。

 いやめっちゃびっくりしたけどね。


「ま……これで時間をかけずに向かうことができそうだな……」

「ですね。では俺たちは情報を集めてきます。情報が集まり次第連絡します」

「その時は私のシャドーウルフたちで迎えに来ます。バルパン王国付近の森の中に簡易拠点を設営しておきますので、そこに集まりましょう」

「分かったわ。じゃ、応錬君、ウチカゲ君、シャドーアイ。気をつけてね」


 マリアがそう言ったあと、俺たちはシャドーウルフに跨る。

 乗りにくいかと思ったが意外と体が大きいのでなんとか乗りこなせそうだ。

 しっかりと毛を掴んで、姿勢を低くする。


 一匹のシャドーウルフが吠えた瞬間、四匹はティアラを追いかけるように走り出す。

 岩の影に足を踏み入れた瞬間、その中に体が落ちていった。

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