6.25.鬼
二人のステータスに変動があった。
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名前:ウチカゲ
種族:鬼
LⅤ :1/100
HP :406/676
MP :243/423
攻撃力:2965
防御力:139
魔法力:302
俊敏 :1268
―技能―
攻撃:『鬼人力脚』『鬼人瞬脚』
魔法:『影傘』
防御:『瞬耐』
回復:『殺吸収』
罠術:
特異:『闇媒体』『鬼神闇影』
自動:『暗殺者』『指揮受信』
―耐性―
『毒』『盲目』『視界不良』
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名前:テンダ
種族:鬼
LⅤ :1/100
HP :654/1540
MP :132/300
攻撃力:3736
防御力:562
魔法力:140
俊敏 :303
―技能―
攻撃:『鬼人力腕』『鬼人雷拳』『鬼人雷脚』『鬼神舞踊』
魔法:『反響探知』
防御:『強靭』
回復:『殺吸収』
罠術:『念動捕縛』
特異:『指揮伝達』『指揮受信』
自動:『殺鬼』
―耐性―
『不動』『消耗』
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まず、種族が変わっていた。
鬼人から鬼になっていたのだ。
ステータスが全て上昇し、腹の底から力が湧き出てくるような感覚があった。
そして、技能も増えており、剛力脚や剛力腕が鬼人力脚、鬼人力腕に変わっている。
増えた技能だが、テンダは『鬼神舞踊』で、ウチカゲは『鬼神闇影』。
技能の概要はこうだ。
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―鬼神舞踊―
鬼となった鬼人が辿り着く境地の一つ。
鬼でありながら日本刀を持つ者に与えられる。
全ての鬼神舞踊が使用可能。
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―鬼神闇影―
鬼となった鬼人が辿り着く境地の一つ。
鬼でありながら隠密に長ける者に与えられる。
どす黒い霧を手足の様に使うことができる。
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あり得ないとは思ったが、実際にステータスが変動しているし、そもそも種族が変わっているから認めるしかない。
二人は進化したのだ。
見た目こそはあまり変わってはいないが、その内に秘める力は強大なものになっていた。
鬼神の技能が与えられるのは、鬼の中でも極々少数。
ゴウキですらも与えられていない鬼の持てる最高峰ともいえる技能だ。
そんな事を知るはずもない二人は、とにかくこの力を試してみたいとうずうずしていた。
目の前にいるのは親だ。
だが、手加減できる相手ではないので、全力で向かって行くことができる。
テンダの技能は、今まで研究していた物の上位互換であるため、なんとなく使い方は分かるのだが、ウチカゲに至っては未知の技能だ。
それにどす黒い霧に、どの様な能力があるのか分からない。
相手にどんな悪影響を及ぼすか分からないのだ。
不安はあったが、使ってみたい。
今この場は技能を使いこなす為の訓練場。
「スゥーーーーッ『地鳴閻魔』!」
「鬼神舞踊『円削ぎ』」
ゴウキが一つの技能を叫び、大きく足を上げて地面へと叩き下ろす。
しかしその前にテンダが地面を切った。
ただ横に軽く振っただけの簡単な業である。
音も何もない。
先ほどの攻撃とは打って変わって静かな技だと思ったが、そうではなかった。
スゴン!!!!
硬い何かが床に落ちる様な鈍い音が聞こえた。
そして立て続けに岩が砕け散る音が聞こえてきた。
ゴウキの立っていた場所から地面に罅が入り、地面が砕け散っていく。
この攻撃は地面を揺らして相手の行動を制限させる技だ。
自分の所の足場も悪くなるが、ゴウキは耐震という耐性技能を持っている為、地震の中でもひょいひょいと動くことができる。
これで二人の動きは封じれたはず。
そう思い、二人に接近する。
岩が少々邪魔で何度か視界を遮られたが、すぐに顔を見ることが出来た。
その顔は……焦りの表情一つない真剣な物だった。
そこで気が付く。
二人の足元の地面は、罅が入っていない。
否、その一歩手前で全て停まっているのだ。
そんな事が可能なのかと、ゴウキは目を見開いて驚いていた。
テンダはゴウキが地面を割る直前に、一つの鬼神舞踊の技を出していた。
鬼神舞踊『円削ぎ』。
技としては太刀筋の軌道と全く違う場所を斬る物だが、今回はそれを地面に撃った。
予備動作でゴウキが地面を割ることが分かったテンダは、その前に地面を抉り取ったのだ。
地面が切り離されていれば、砕くことができる部分は制限される。
ゴウキはテンダが斬った地面の一部を破壊したに過ぎなかったのだ。
ゴウキは何故二人が平然と立っているのか分からないまま、ウチカゲの攻撃をもろに受けることになった。
「『鬼神闇影』……」
ウチカゲの足元から、どす黒い霧が出現した。
どろどろとしたようなその霧は、すぐに周囲に広がっていく。
その霧は、酷く冷たい。
ここ、常世の空気すらも凍らしてしまいそうな程の冷たさだ。
ダンダンダンダン!!!!
「ぐぬ!?」
ウチカゲが走ってきている音が鮮明に聞こえてくる。
わざと音を出して暗闇からの接近。
隠密というにはほど遠い技だ。
だが……。
「……!? ……ッ!」
攻撃はこない。
その代わり、恐怖がゴウキの神経を逆撫でし始めた。
相手は息子であり、怖い存在ではないという事は分かっている。
だが、この空間での息子の足音は、何故か今まで聞いた音の中でも群を抜いて恐ろしい物だった。
音は聞こえるのに攻撃はこない。
近づいては遠ざかるを繰り返しているようだが、それが次第に四方八方から聞こえている様な錯覚を起こしてしまう。
「地帝えん──」
「ここか……」
ウチカゲがぬらりと後ろに現れる。
その動きは見えないが、恐ろしさは十分に伝わって来た。
まるで獲物を狩る獅子。
その動き、口調、雰囲気が悪鬼よりも悪鬼らしいと思える程だ。
そして次の瞬間、背中に強い衝撃を覚えた。
「がっは!!?」
蹴りの威力だけで周囲の黒い霧が爆音と共に吹き飛ばされる。
そこでようやく光が目に入った。
霧から出てしまえば恐怖心はふっと消えたが、次に目に入った物は死を覚悟する程のものだった。
「鬼神舞踊……」
「ちょ、ま──」
「『悪鬼羅刹』」
災難を与える化け物悪鬼を羅刹が一撃の牙で仕留める様を模した居合術。
どちらも恐怖の対象であり、羅刹に関しては人を食べる化け物とされている。
それが喧嘩をしている所を模したものなのだろうと、テンダは考えていた。
歯を食いしばり、柄を握って刀を抜き放つと同時に鞘を持つ手を下げ、切っ先が鞘から出た瞬間手首を使いながら振り抜く。
キィイイイイインッ!!!!
振り抜いた後は静かな物だ。
上空からゴウキが落ちてくる。
テンダとウチカゲは静かにゴウキの落ちたところへと歩み寄る。
そこには、片腕を無くした父親の姿があった。
「参った! っはっはっはっは!!」
「す、すみませぬ。そこまでするつもりは……」
「いいさいいさ! 悪鬼は自己再生能力が高い。寿命はまた短くなるが、すぐに生えてくるさ」
初めて扱う自分の力を思うように使いこなせなかった為、手加減ができなかった。
あの時テンダはゴウキの胴体を斬るつもりで攻撃を放ったのだが、ゴウキは瞬時に空気を殴って体の位置を逸らしたのだ。
しかし完全に避けきることはできなかった為、腕だけは切られてしまった。
だが、ゴウキが言った様にこの程度の傷は悪鬼にとってそこまで深い傷ではない。
寿命が短くなる代わりに、自己再生能力がとんでもなく速いのだ。
しかしそれは外傷のみ。
内臓の再生は酷く遅い。
だから生きる為に必要な個所を壊されてしまった場合は、いくら悪鬼でも再生に時間がかかり、最悪死に至ってしまう。
その事を考えてみれば、腕の一本や二本安い物だ。
「……ふぅー」
ゴウキは一度ため息をついて立ちあがる。
テンダとウチカゲの元へと歩みより、残っている片手で二人の肩を一度ポンと叩いてから、大きく頷く。
「行ってこい」
「「はっ!」」
その言葉を聞いて、二人はすぐに応錬の元へと走り出す。
まだ目的は達成していない。
向こうでは先程まで爆音が響いていたが、気が付けばもう静かになっている。
不安が背筋を撫でる中、二人は自分の持てる最高の速度でその場へと駆けて行った。
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