4.34.帰還



 非常に強い光で目が開けれなかったが、暫くすれば光は収まってきたようだ。

 ゆっくりと目を開ければ、そこは洞窟。

 そしてすぐ近くに階段があった。

 どうやら上り階段のようだ。


 周囲にはまだ眩しそうに目をつぶっているアレナと、目隠しを外して周囲を確認しているウチカゲ、そして零漸は目をやられてしまったのかもんどりを打っている。

 ざまぁみろ。


「何処だ此処……」

「んー……随分と狭い場所ですね。階段の奥はどうなってますか?」


 ウチカゲにそう言われて階段の奥を見てみると、最奥の方で光がこちらに向かって零れていた。

 随分と暖かそうな光であり、その奥からは人の声が聞こえる。

 地上であろうが地下の冒険者キャンプであろうが、ようやく人のいる場所に出ることができそうだった。


「行くぞ」

「応錬どこー?」

「ああ……アレナもあの光見ちゃったんだな……」


 しばらくしても動かないアレナを見てまさかとは思ったが、アレナも光を直視してしまって前が見えないようだった。

 仕方がないので片手を握り、階段へと連れていくが……前が見えないのに子供に階段を歩けとは言えないので、やはりここは抱えて上がることにした。


 零漸は前が見えなくてパニックになっているようだったので、ウチカゲが首根っこを持ってこっちまで引きずってきてくれた。


 しかしあの光……俺が眩み耐性を持っているにも関わらず、しばらく前が見えなくなるほどの強い光だった。

 耐性を持っていない人であれば、目をつぶっていても暫くは目を開けることはできないだろう。

 ウチカゲは目隠しをしているおかげで助かったようではあるが。


「アレナ、服しっかりつかんどけよー」

「持ちにくい……」


 まぁ……この服の中には千切れないという鉄が編まれているからな……。

 そりゃ持ちにくいだろう。


 俺たちは階段を上っていく。

 暫くすると、零漸の視力は戻ったようで何とか歩けるまでには回復したらしい。

 だがアレナはまだ視力が戻らない様だ。

 零漸は亀であるため、そのあたりの回復は人より早いのかもしれない。


 最後まで階段を上り切るころには、人の声も大きくなってきており、周囲も明るくなってきていた。

 その光は明らかに太陽の光であり、その温かさに少し懐かしささえ覚える。


「むっ……」


 暗い所からいきなり眩しい所に出ると、やはり少しだけ目が眩む。

 だがそれもすぐに収まり、周囲の様子を見て取ることができた。


 周囲はテントが多く置かれており、そこでは様々なものを売っているようで、それを購入しようとこれまた様々な冒険者、商人が詰め寄せているようだった。

 店は繁盛しているようで、店で働いている人は常に忙しそうにバタバタと動き回っていた。


 ここには見覚えがあった。

 俺たちがダンジョンに潜る前に、荷物を準備した冒険者キャンプだ。 


「……帰ってきたのか」

「見えたー!」


 アレナの大きな声を聞いた数人の冒険者が、俺たちの方を見て指をさしている。

 その後にウチカゲと零漸が出てきて、久しぶりに浴びる太陽の光をみて眩しそうにしていた。


 その瞬間、一人の男が大きな声を出した。


「おい!! あの魔法陣から人が出てきたぞ!」

「なに!?」

「何処だ!?」


 男が大きな声でそう言うと、他の人たちもそれは本当かとこちら側に殺到し始めた。

 俺たちはすぐに群衆に囲まれてしまい、一切身動きができなくなってしまった。


「おいおいなんだなんだ!」

「~~!」


 アレナが驚いて俺の体に顔をうずめる。

 これだけの数の人がいきなりこっちに向かってきたら驚いてしまうのも無理はない。


 ウチカゲと零漸の所にも群衆が押し寄せていってしまし、合流することすら難しくなってしまった。

 こいつらは一体何なのだ。


「なぁあんた! 今そこから出てきたよな!」

「だったらなんだ!」

「ダンジョンを攻略したんだな!?」

「む? どういうことだ?」


 男は未だ興奮が止まないようで、そのままの調子で説明をしてくれた。


「何だ知らないのか! ダンジョンを攻略するとあの洞窟から出てくるんだよ! それがダンジョンを攻略した証になるんだ!」

「そうだったのか……」


 どうやらここの人たちにとってはそれが常識であったらしい。

 やはり情報収集は重要だなと思いながら、今回の反省点として刻んでおく。


 そういえばダンジョンを攻略した後、どうすればいいのかよく知らない。

 都合よくいろいろ知ってそうな人物が現在進行形で質問してきているので、こいつに話を聞いてみることにする。


「すまんが、これから俺たちはどうすればいいんだ?」

「どうって……あんたら冒険者だろ? だったらギルドカード見てみ!」

「ギルドカード?」


 早速魔道具袋からギルドカードを取り出して注意深く見てみる。

 すると、左下の方に小さくBと書かれており、その上には1という文字が刻まれていた。

 このようなものはここにはいるまではなかったはずなのだが、いつ刻まれたのだろうか。


「なんか書いてあったろ? それがBランクダンジョンを一つ攻略したっていう証なんだ!」

「ほぇー」


 あの魔法陣に何か仕掛けがあったのだろうか。

 もう魔法の世界だし、こういうのはあんまり深く気にしない方が良いのかもしれないな。


 こういうのがあるという事は、他のダンジョンにもこのような魔法陣があるという事なのだろう。

 こういう所だけ親切な設計をしているダンジョンってのはなんだかおもしろい……。

 魔法陣だけがダンジョン攻略をした証にはならないダンジョンもあるかもしれないが。


 何はともあれ、この証が出た後はギルドに向かえば問題ないらしい。

 後のことは全てギルド職員がやってくれるという事なので、ギルドカードを持っていけば一つ上のランクへと昇格するのだとか。


 頑張ったと言えば頑張ったのだが……少々割に合わないダンジョンだなと思う。

 もう少しランクを上げてくれたっていいじゃないか。

 他に報酬とかないのだろうか……。

 まぁ戦利品を売ればそれなりの物が手に入るだろうが……。


 とりあえずあのダンジョンの事はギルドマスターのマリアには報告しておかなければならないだろう。

 ダンジョンにいた魔物は全部殺したと思うので、特段気にすることは無いかもしれないが。


「ええい! とりあえず散れい! 邪魔だ!」

「応錬様、失礼」

「ん? ぬぉお!?」


 俺が叫ぶと同時に、ウチカゲが隣に来て俺を持ち上げたまま跳躍した。

 急なことに驚いてしまったが、何とか体勢を安定させて着地の衝撃に備える。

 着地場所にはすでに投げ飛ばされたであろう零漸が転がっていたが、ウチカゲはそれも回収してもう一度跳躍する。


 これで取り巻からは逃げられそうだ。


「わぁあ!」

「流石鬼だな……。ウチカゲ! 降りて魔法石で帰ろう」

「はっ」


 ウチカゲは丁寧に着地してくれて、全員を降ろしてくれた。


「おい、零漸大丈夫か」

「ウチカゲ俺の扱い酷くないっすか?」

「硬いので……」

「そういう問題じゃなくない??」

「ほら、無駄口言ってないで帰るぞ」


 アレナを降ろして、自分の購入した魔石を取り出してそれに魔力を込める。

 すると、また一瞬で境界へと戻ってくることができた。


 これにはやはり慣れないものだ。


 では、マリアの困った顔を見に行くとしよう。

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