6.5.コラッ


 怒るって……どういうことですか……。

 まぁ確かに見てても、このラックっていう奴はわざとジグルを落としているようにも見えるが……。

 いや、そもそも俺はどうやって怒ればいいんだ。


 言葉は通じるっぽいからそこは問題ないだろう。

 だけどいきなり怒ってって言われて本気で怒れる奴は極々わずかだ。

 俺にはそんな才能ありません。


 ていうか飛竜に怒るとか、変な奴じゃん……。


「えーっと?」


 俺がそう考えている間にも、後ろにいる騎竜二匹はブンブンと頭を振って俺を急かしている。

 一方、大きく後退した飛竜の方は低姿勢で構えたまま俺の方を凝視しているようだ。

 体はまだ震えている様で、恐怖の色が見て取れる。


 まず何であいつが俺のことを怖がってるのか理解したほうがよさそうだな。


「お、おい。何であいつはあんなに怖がってんだ」

「わ、分からないです……」

「いや、ローズに聞いたわけじゃなくて……」


 俺が聞いたのは騎竜の方です。

 まぁそうだよね。

 普通騎竜に向かって話すとか思わないもん。


 俺がそう聞いた後、騎竜はお互いの顔を見合わせた。

 そして首を傾げる。

 逆になんで怖がらせているのか理解できていない俺に疑問を抱いているようにも感じられた。


 なんでそんな顔されなきゃいけないんだ……。

 こちとら今日初めてお前たちに会ったんだぞ。

 無意識に怖がらせるとか俺何したんだよ。

 体質か?

 体質が問題なのか?


ガルァアルジ……」

グルッボス

「わっつ」


 何言うてんのこの二匹は……。

 いやいや、いやいやいやいや、知らん知らん知らん。

 なんで俺がお前たちのボスになるんだよ意味わかんないわ。


ガルルルウマレカワリ

ガラァカワリ

「「ギャワワワッウマレカワリ! ギャワッコリュウ! ギャワッコリュウ!」」


 聞き捨てならない言葉が、騎竜の口から飛び出した。

 聞き取りにくかったが、この二匹は確かに古龍の生まれ変わりと言っている。


 つい先日聞いた言葉だ。

 生まれ変わり。

 何の生まれ変わりかというは、あの時は全く理解できなかったが、この二匹のお陰で少し理解できた気がする。


 だがこれだけだと、あの悪魔……。

 ダチアが言っていた言葉とはまだ噛み合わない気がする。

 今こいつらが言ったのは、俺だけの事だ。

 あいつが「生まれ変わり」と言っていたのは俺たちのことである可能性が高い。


 勿論アレナやウチカゲ、マリアたちに言った言葉ではなく、俺たち元日本人に言った言葉だと仮定するのが妥当だろう。


 となると……俺たちを知っている……いや、転生者を知っている……?

 俺たち以外の、俺たちの様な存在を知っていたという事か?

 そうじゃなきゃ……俺たちの存在を知っている様な言い方はしないと思うしな。


 あの悪魔ども……。

 一体何を知っていて、何をしようとしていやがるんだ。

 ええい、むしゃくしゃするなぁ!


「「ガルァオコル!」」

「はいはい分かりましたよ……。スゥー……っ、コラッ! 意地悪するのも大概にしやがれ!」

「ギュッ!?」


 そんなに大きな声を上げたつもりはなかったのだが、むしゃくしゃして想像より大きな声が出てしまった。

 その事に気が付いて、あっ、と声を漏らすが、時すでに遅し。

 飛竜はそれに驚いてひっくり返っていた。


 あれだけでひっくり返るってどうなってんの……。

 俺そんなに怒ってないよ……。

 声は大きかったかもしれないけどね。


 ローズは叫びながらラックの元へと走っていく。


「ラックーーーー!!?」

「ギャワワッ! ギャワワッ!」

「グララァッ!」

「何笑ってんだよてめぇら……」


 騎竜たちは楽し気に跳ねていた。

 まるでしてやったりと思っている様だ。


 この飛竜……なんで騎竜にこんな嫌われてんの……。

 まぁ悪戯してたっていうし、もしかしたらこいつらにもちょっかいかけてたのかもしれないな。

 そいつが俺に怒られてこんな簡単にひっくり返ったもんだから、可笑しくて仕方がないのだろう。


「応錬さん何したんですかー!?」

「ええ……俺のせいなの……?」


 俺は怒ってって言われたから怒ってあげたのに……。

 もうよくわかんない。

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