10.17.魔力放出


 翌朝。

 兵士がガロット城の剣術訓練場に並んでいた。

 その多くが魔術師であり、様々な杖を掲げて空に魔法を放っていた。


 違う訓練場では剣士が技能を使いまくり、とにかく特訓。

 地獄のような光景がそこには広がっていた。


 これは……前鬼の里での模擬戦を思い出す……。

 この兵士たちだな?

 鬼との模擬戦を生き残った猛者たちは……。

 あとはバミル領で戦って生き延びた戦士もいる……というところか。

 すげぇー、皆すごいなぁ……。


 そんな光景を、俺と鳳炎、零漸、アレナ、ウチカゲ、そしてテンダが見ていた。

 そこで鳳炎が俺を小突く。


「ほれ、応錬。何をぼさっとしているのだ。試せる技能があるのであれば使え」

「つってもなー。上手く操れるか不安なんだよ……」


 水龍なんてまともに操れなかったからな……。

 俺も杖とか持った方がいいか?

 魔法技能だしそっちの方が操りやすいかも。


 悩んでいると、テンダが後ろから声をかけてきた。


「あ、応錬様。それでしたら今一度天割を見せてはいただけないでしょうか?」

「天割を? どうしてだ?」

「鬼人舞踊、悪鬼羅刹は天割を参考にしているというのはご存知ですよね」

「ああ、それは聞いたな」

「じ、実は天割を見たことがなく……。どの様な物なのか拝見し、技の精度を上げたいと考えておりまして……」

「ああー! だからお前三尺刀を打ってもらってたのか!」

「はは、そうなんです。それで、どうでしょうか?」

「いいに決まっている」


 テンダが三尺刀で真似るってんなら、俺もそっちでする方が良いだろうな。

 久しぶりに白龍前を抜き放つ。

 相変わらず美しい刀身が太陽の光を反射させた。


 上空に向けて放たなければ、城の何処かを壊してしまう。

 できるだけ大きく振るえる場所を探し、向きを決めた。


 この角度だと……水平切りで天割を使う方がよさそうだな。

 射線には何もない。

 あるのは雲だけ……っと。

 よし!


 八双の構えを取り、腰を落として足を踏ん張る。

 刀身を振るう姿をイメージし、柄を優しく握り込む。


「よーし、見とけよテンダ! スーッ……『天割』!!」


 右足を踏み込むと同時に腕を振るう。

 八双に構えていた刀身を左へと倒し、左手を引きながら右手を押し込む。


 ヒョウッ!!

 風を切る音が周囲に響き、白い斬撃が天へ向かって放たれた。

 それは常に風を切り続け、雲を切ってどこかへと消えていく。


 そういえばこれ、天を割るっていう書くんだもんな。

 初めて使った時はマジでびっくりしたなぁ……。

 地面も空も割れたからね……。


 すべての動きを見ていたテンダは、今も尚割れた雲を眺めている。

 不思議に思ったアレナがテンダの前に顔を出す。


「……」

「テンダー? どうだった応錬の天割」

「凄まじいですね……。天を割る……天を割る」


 静かに三尺刀朝顔を握る。

 音もなく抜刀し、同じ様に八双に構えて腰を落とした。


 集中。

 全神経を悪鬼羅刹を放つためだけに集めた。

 すり足で足場を決め、壊さないように優しく柄を握って刀身を天へを掲げる。

 燃えるような刀身彫刻が輝き、白い刃が天を睨んだ。

 自分が天割を放つ姿を模し、イメージを膨らませていく。


「スーッ……」


 息を止め、左手で柄頭を握り込む。

 ジャッと刀身を左へ倒し、右足を大きく踏み込んで天を薙ぐ。


「鬼人舞踊……悪鬼羅刹!!」


 ……ピョウ!!!!

 ゴウッ!!!!


 音を置き去りにした素振り。

 音が鳴った瞬間爆風が周囲に吹き荒ぶ。

 赤い斬撃が空へと飛び、雲を穿った。


 バゴンッ!!

 地面が割れたと思ったら、二度割れた。


「あっ」

「「やりすぎだテンダアアアアアア!!!!」」


 近くにいたアレナが吹き飛んでる。

 零漸だけは無事だったようだが、他の者たちはこけるなり伏せるなりして、爆風を凌いだ。

 俺とウチカゲはテンダに文句を言うように叫んだが、爆風の音で聞こえてはいないだろう。


 力が入っていたのは分かる。

 そりゃ極めたい技を本気で放つのは何も間違ってはいない。

 だけどやりすぎだっつの。


「ああああ!? 申し訳ございません!! しょ、少々力が入りすぎてしまいました!!」

「おい……ウチカゲ……。あれで本気じゃねぇのか……?」

「お、恐らく……。あと五割は増えるかと……。本来は居合技ですからね……あれ……」

「マジで……? ていうか三尺刀で居合ってできるの……?」

「あいつはやってましたけど……」

「できるんかい……」


 こいつがいたらなんにでも勝てる気がしてきたんだけど……。

 テンダ……つえええ……。


「テンダ凄いっすねー!」

「え、あ! ありがとうございます!」

「前みたいに俺の防御力試したかったっすけど、今の見てやめたっす! 多分テンダの攻撃は俺の防御力を貫くっすから……」

「はははは、ご謙遜を。俺の攻撃力は約3700ですよ」

「そう聞くと確かになんとかなりそうなんすけど、見た感じだともっと攻撃力あるっぽいんすよねぇ……」


 同感。

 今回は零漸に同感する。

 なんかあれなんだよね……防御貫通の気配がする。

 あの赤い斬撃とか……見るからにヤバいじゃん。


 まったくとんでもない技を使い始めたなぁ。

 昔のテンダとは大違いだ。


「テンダ! お前なんてことをしてくれるんだ!」

「すす、すまんすまん! わざと……ではあるが悪意はない!」

「あったら俺が切り刻んでいる!」

「悪かったって……」


 ウチカゲが高速でテンダに詰め寄って説教している。

 まぁ今のはどう考えてもやり過ぎだもんなぁ……。


 服に付いた土埃を軽く払って……アレナを回収しに行くか……。

 結構吹っ飛ばされてたもんな。

 地面を転がってダメージを受けないように、すぐに浮遊を使って難を逃れていたが。

 判断早くなったな。


 えーっと……何処まで吹っ飛んでいったんだ?


「どこだ~? アレナ~?」

「応錬君! 応錬くーん!! あ!! ここにいた!!」

「マリア?」


 血相を変えたマリアが、全力でこちらに走ってきていた。

 片手には通信水晶を持っているようだ。

 何かあったの……だろうな。


「ど、どうした」

「ぜぇ、ぜぇ……ま、まずい……まずいことになった……!」

「……もしかしなくても邪神関連?」


 それに大きく頷く。

 いやここで……?

 今まで順調なのにどうしてここで問題が起きてくるかなぁ……。

 まぁ向こうもそれだけ必死なんだろうけど。


「で? ……あんまり聞きたくないけど何があった」

「バルパン王国から……シャドーアイの連絡……。繋がってるから、ちょっとそっちで話して……」

「分かった」


 マリアの持っている通信水晶に触れる。

 すると声が聞こえてきた。


『……び──……ビッドです! 聞こえますか!』

「聞こえるぞ。どうした」

『非常事態です! そして第三勢力が判明しました!!』

「悪い知らせか……。で、その非常事態ってのはなんだ?」

『声が入る範囲を拡大します……。聞いてください……』


 ザ、ザッという音のあと、ビッドの周囲で起きているであろう音声がこちらに届いた。

 それを聞いて俺は……血の気が引いていくのを感じ取った。

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