10.16.夜


 夜になると、帰ってきた冒険者たちが次々に生け捕りにした魔物をガロット王国へと持ち運んでくる。

 今回ばかりは特例なので生け捕った魔物の持ち入れを許可しているが、普通は違法である。


 そして今日、魔物を生け捕りにする必要性がなくなったので、帰ってきた冒険者に兵士が門で説明をしていた。

 他の仲間たちにも伝えるようにと指示を出し、中へと戻ってもらう。


 これが一番大変そうな作業だ。

 何時から何時まで、という明確な基準がなかったので、ガロッド王国は魔物の死骸で溢れかえっているのが現状。

 仕方がない措置とはいえ、これを処理しきるのは時間が掛かるだろう。


 だがこれにより、若手冒険者の仕事が急増。

 様々な魔物の解体をすることができると、一部ではこの措置を喜んでいる層も居た。

 経験をすることで今後に繋がり、血が怖かったりするのを克服できる者もいる。

 これも一つの育成方法かもしれないとして、ギルドの中では今度もこのやり方を継続できないかと会議が行われているのだとか。

 若手のことを考えてくれているというのは、素晴らしいことである。


 まぁ一旦それは置いておきまして。

 外に狩りへ行っていた仲間たちが帰ってきた。

 でもですねアレナさん。

 肩に乗るのはいいですけどちょーっと前が見えないので腕で目を隠すのは止めていただけないかな。


「アレナー。前が見えんー」

「見えてるでしょ」

「いやそうなんだけどさ。違うじゃん、そうじゃないじゃん」

「むむむむ」

「いでででで! 絞めるな絞めるな!」


 久しぶりに会ったかと思えばこの対応である。

 寂しかったと言ってくれれば可愛いものを……。

 いや痛いが。


「兄貴ぃー。遅いっすよー」

「悪かったって……。俺もあの技能にそんな副作用があるなんて思わなかったんだから」

「ま、助けてもらったのは俺っすから、強くは言えないっすけどね!」

「無事で何よりだ。……で……お前ら近くないか」

「え?」

「……!」


 ローブ女……カルナだったかな。

 零漸の後ろにぴったりくっついてる。

 もしかして俺怖がられてる感じ?


 あー、まぁ一回思いっきり吹っ飛ばしたもんな……。

 でもまぁ零漸がしっかり守ってくれたから、怪我はしていないはず。


 零漸はカルナを見るが、何かおかしいことがあるだろうかといった風に首を傾げて笑った。


「気のせいっすよー!」

「気のせいではないだろ……。まぁいいけど。で、お前が……」

「ティックだ。よろしくな応錬」

「こんな姿で悪いなだだだだだだ!!!!」

「むむむむ……」

「はははは! 僕の弟もこれくらい元気でいて欲しいもんだぜまったく!」


 弟……ああ、こいつがテキルの兄なのか。

 装備を作っているのが弟で、それを使うのが兄。

 なかなかいい組み合わせだよなぁ。


 いつか俺にも作ってもらいたいものだ。

 まずは顔合わせしておかないとな。


「……で、気になってたんだが……。なんでテンダがいるんだ?」

「はははは、お久しぶりです応錬様。ウチカゲが応援を寄越して欲しいというものですから、ここに馴染みのある俺が出向いてきたわけです!」

「服装も武器も俺に似とる……」

「三尺刀朝顔。素晴らしい名刀ですよ!」

「若大将のお前がこっちに来て大丈夫なのか?」

「それは勿論! ライキ様もおられますし、ランもおります! それに俺ばかりが仕事をしていては他の者が育ちませんので!」

「なるほどねー」


 久しぶりに再会したからか、いつになく元気だな。

 片目を治せなかったのが少し心残りだったが、今ので少し気が楽になった。

 まったく気にしていないようだ。


 だがテンダが来てくれたのは素直に嬉しい。

 下手したら俺たちよりも強いからな。

 あんまり戦っている姿は見たことないけど、ウチカゲが天割に似た技をテンダが使っていたって言ってたし、剣術に関しては多分最強だと思う……。

 俺も教わりたいなぁ。


 えーと、あとは……。


「ローズ悪い! 皆連れてきた!」

「びっくりしましたよぉー。まぁいいですけど」

「ラックたちがいるとジグル君が世話をしないといけないからね……。これであの二人が完全にくっつけば言うことなしね! ナイスよ応錬よくやった!」

「お前に素直に褒められるの嫌だわ……」

「なんですって!?」


 こいつはツンツンしていた方が似合うんだよなー。

 まぁ褒められるのは嫌いじゃないし、こいつとのこういう会話はここまでがワンセットだからね。

 なんにせよ、こいつらも元気そうで良かった。


 さて、そろそろ現実を見よう。

 仲間たちの後ろには巨大な檻……じゃなくてこれは零漸の空圧結界・剛だな。

 その中で生きた魔物が暴れている。


「で……いやこれツッコんでいいのか分かんないけどさ。なんだこの魔物の大きさは……」

「私が捕まえたのー! 凄いでしょ~!」

「戦闘経験ほぼ皆無のお前がなぁ……」


 これをリゼが捕らえたというのだから驚きだ。

 大方雷系魔法を使ったのだろうけど、いや普通に凄いと思うわ。

 捕獲向きの技能なのかもしれないな。

 まぁこれもさっさと片付けないといけないんだけどね。


 俺が大体の人と話し終えると、ウチカゲが手を叩いた。


「さ、今日で捕獲作戦は終了です。明日に備えて休みましょう」

「ウチカゲの言う通りであるな。明日は魔力放出を試してみる予定だ。それが終われば国民に一度このガロット王国から退いてもらう。それもすぐなので生活には支障がないようにする手はずである」

「上手くいくことを願うばかりですね」

「まったくである」


 今まで誰も戦ったことのない敵と戦うのだ。

 それに今は手ごたえも何もない。

 実感が湧かないから、戦っているとも正直思えなかった。


 悪魔はこれを何度も行っていた。

 そりゃー、俺らが邪魔をしているってあのオレンジ色の髪をした悪魔が怒鳴るはずだよ。

 今になって合点がいった。

 今度会う機会があったら、謝っておかないとなぁ。


「そういえばマリアは?」

「ギルドに報告っす」

「適任だな……」


 慣れている者がやるのが一番効率いいからな。

 でもまさか、他の国のギルドマスターが受付に並ぶなんて、誰も想像しないだろう。

 なんかイメージすると笑えてくるな。


 その頃、受付に並んでいるマリアは小さくくしゃみをしたのだった。

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