6.3.飛竜と騎竜
鳳炎から飛竜の餌をもらった俺は、ジグルに案内されて例の騎竜が居るという小屋のところまでやって来た。
ローズが管理しているとは聞いていたけど……。
「小屋、でっかくね?」
「まぁ……ローズさんだし」
そこは小屋というには少し無理のある建物だ。
随分と豪華……というよりも、普通の一軒家だったものを小屋にしてしまった様な作りになっている。
これが小屋というのはにわかにも信じがたい話だ。
場所は城壁の隣。
城壁にまた城壁がくっついているような場所だ。
ここから見ても随分と広く取られているという事が分かる。
どうなってんだSランク冒険者の懐事情。
俺が王子から貰った報酬金よりも多いんじゃねぇか?
でもこれローズ一人でやってるっていう訳ではないだろうし……。
あれ、とは言ってもあいつが育てるんだよな?
てことはやっぱりあいつ一人でやってんのか……?
まぁ考えても仕方がないか。
とりあえず中に入って見ることにしよう。
ていうかあいつら何処だ。
「二人は中にいるよ」
「復興してる最中だってのに、Sランク冒険者は呑気だね」
「いや、やることないんだよ……。他の冒険者の仕事奪っても駄目でしょ?」
「そういうもんなのか」
「そういう物らしいよ」
高ランク冒険者が仕事全部奪っちゃったら、低ランク冒険者の仕事が無くなってしまう。
何でもこなせる高ランク冒険者は、出来ることの少ない低ランク冒険者に仕事を譲るという事を心がけているのだという。
向き不向きはあるだろうが、まぁ確かにそういう配慮は必要だよな。
その為にランク別で仕事が割り振られているわけだし。
でもこれを管理するギルド関係は大変だろう……。
まぁそれが仕事なんだろうけどね。
そんなことを考えながら、俺とジグルは建物の中に入っていく。
扉を開けて中に入ってみると、内装は何処にでもありそうな普通な物だった。
机があって椅子が仕舞われており、タンスや調理場などがある。
ここで生活をしていても何の苦にもならなさそうだ。
「こっちだよ」
ジグルはそう言って、裏手にある扉に手をかけて外に出る。
どうやらそこを通ると外に出れるようだ。
城壁が奥まで続いていく。
扉を通って外に出てみると、城壁に囲まれた草原が現れる。
こんな広い空間必要なのだろうかとも思ったのだが、陸を走る騎竜も居るという話だったので、これくらいの広さは必要なのだろう。
そして、件の騎竜たちはすぐに見つかった。
「グル?」
「トゥルルルル……」
結構大きい、というのが率直な感想だ。
合計で三匹いるようで、翼の生えている濃茶色の鱗を持っている飛竜。
そして残りの二匹は黒色で、翼こそ持っていないが、大きな爪を持っていて足が発達している騎竜。
随分と細い体をしているが、人を一人乗せて走るくらいなら問題なさそうな体躯をしていた。
大体俺の想像していた通りの奴だ。
でもこれにジグルが乗るのは少し速過ぎるんじゃないだろうか……。
まだ背丈が足り無さそうだしな。
ユリーとローズは翼のある飛竜の隣にいて、何かを話し合っているようだった。
そんな二人にジグルは声をかける。
「ユリーさーん! ローズさーん!」
「ん? ってうわ!?」
「えっ? あら、応錬さんじゃないですか!」
うわってなんだこの野郎。
失礼な奴だなマジで。
まぁ相変わらずでよかったというのが、本心だけどな。
ユリーにペコペコされるとか気持ち悪すぎるからね。
つーか久しぶりに会った気がする。
でも普通に元気そうだ。
「よぉ、久しぶりだな」
「お久しぶりです、応錬さん」
「お前ら今までどうしてたんだ?」
「どうもこうもないわよ。ジグル君預かってから稽古と依頼の連続。それで魔物の群れが来たから、ジグル君連れてって見学させてたわ」
「何してんだよ!!」
危険なことしてんじゃねぇよ!
めっちゃスパルタじゃねぇか!
「そんなことないよ?」
「……まじ? 嘘だろ」
「だって俺、もうCランクだよ」
「いつの間に俺たちと同じランクになったんだよ!!」
嘘じゃん。
二人にジグルに預けてからそんなに時間たってない気がするぞ。
だって預けた時ジグルEランクだったじゃん。
これはジグルが優秀なのか……ただ二人がスパルタなのか……。
どっちなのだろう……。
まぁ強くなっているのは確かだし、いい事なのだけど。
やっぱ早くね?
「なーんでそんなに早くランク上ってんだよ」
「ジグル君、魔術使えるので……。それの功績が結構あって討伐依頼はすぐに達成できるんです」
「ああ、ソーラーソードとかいう奴だったか」
「天気がいい程俺は強くなるよ!」
「限定強化か。凄いな」
俺も限定強化は持っているけど、ぶっちゃけもう使ってないに等しい。
ていうかいつ発動しているのかもうよく分からなくなっている。
昔はそれが有難いと思ったけど、今になっては微々たる違いなんだよなぁ。
無いよりはマシだと思うので捨てはしないけどね。
あ、そう言えば肉あげないとな。
焼いた肉を外に出してっと。
「よっ」
「うわ! 何それ!?」
「ムカデの肉。あいつら結構食べれる身あるんだよなぁ。これ飛竜に食べさせる奴な」
「ありがとうございます。これであればこの子たちも満足に食べることが出来ますよ」
ローズは肉を騎竜のもとに持っていく。
魔法で浮かせて運んでいるので、手は汚れていない。
目の前に運ばれた肉を見て、騎竜二匹と飛竜一匹はガツガツと肉を食い始める。
結構大量に運んできたつもりだったのだが、全部平らげてしまいそうな勢いだ。
もう少し持ってきておけばよかった。
「で? ジグルが乗ってるのはどれなんだ?」
「ラックよ。この翼の生えてる奴ね」
そう言って、ユリーはラックと呼ばれた翼の生えた飛竜の体を撫でる。
ラックはユリーに随分と懐いている様で、肉を食べるのを止めて頬を体に擦り付けていた。
こうしてみると大人しそうな奴に見えるのだが……。
背中には乗せたくないとかそういうのもあるだろうな。
気難しい性格してそうだもん。
実際はどうか分からないけどね。
「「……」」
翼の生えていない騎竜が俺を凝視していた。
なんだか怖がっているようにも感じられる。
自分の目の前に置かれた肉を咥えて、ずりずりと引きずって離れていく。
別に取りはしないぞ?
お前たちの為に貰って来た奴だからな。
「ご飯食べたらまた練習よー。いいー?」
「ガルゥ」
「「……グルゥ……」」
めっちゃ怖がられてるんだけどなんで。
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