6.7.Side-ウチカゲ-惨状
サレッタナ王国を出て二日目。
もう暫くすれば、ガロット王国が見えてくる。
そうなれば前鬼の里は目と鼻の先だ。
今も懐には応錬様から託された水の玉が納められている。
これは壊すわけにはいかない為、丁寧に持ち運ぶ必要があった。
だが、意外と硬い。
それに気が付いたのは、もう一度手に持った時だった。
どの様な原理で水の玉ができているのか気になり、夜に休んでいた時に手に持って弄っていたのだ。
それで分かったのだが、不思議なことに、水の玉だというのに手が濡れない。
いや、実際には水のある部分に手を触れることが出来ないのだ。
一ミリにも満たない薄い膜がその水を包み込んでいる様で、それが丸い水を作り出していた。
要するに何かの容器に入れられているような状態だ。
それに気が付くのに随分とかかってしまった。
どういった技能でこのような物が作り出せるのか疑問だったが、そこは流石応錬様。
自分たちの知らない事を良く知っていると、勝手に飲み込んでしまった。
「おっ」
そうこう考えている内に、ガロット王国が見えてきた。
アスレ殿やバルト殿は何をしているのだろうかと気になったが、今は応錬様から託された物を姫様に渡さなければならない。
様子を見に行くのは、配達が終わった後でも遅くはないだろう。
そのままガロット王国を通り過ぎ、前鬼の里へと一直線に向かった。
だがそこで違和感に気が付く。
「……?」
ガロット王国の大きな城壁の上で、誰かが前鬼の里の方角を見ていたのだ。
下からではまだ前鬼の里は見えない。
あの場所であれば見えるのだろうか。
そう思い、一度止まって不躾ながらあの場所まで登らせてもらう事にした。
剛瞬脚を使えばあのような城壁も簡単に登れる。
というか飛び越えれるので、何の問題もない。
すぐにその者たちがいる所に到着する。
「!!? うぇ!? お前どっから!!」
「すまん。確認したらすぐに帰る」
どうやらこの場所を持ち場としている衛兵が前鬼の里を見ているようだった。
驚いている様ではあるが、その驚きは二つあるという事に、衛兵が次に漏らす言葉で気が付く。
「何で鬼が……今更……」
「? 今更? おい、どういう事だ」
なんだろう?
胸騒ぎがする。
今までに感じたことのない。
衛兵は俺の言葉の後、指をさしてこう言った。
「み、見ればわかるだろ……。お前あの前鬼の里から来たのか? でも小奇麗だな。てことは今の惨状を知らないのか」
言いたいことは山ほどあったが、俺は城壁の上から前鬼の里を見る。
ここからでも見える距離だ。
米粒の様に小さいのではあるが、城自体は大きい。
だからここからでも見える……はずだった。
「な……なっ!?」
見えたのは黒煙が上り続ける城下町。
天守閣は無事の様だが、ここからでは本当の被害状況が理解できない。
何者かの襲撃なのだろうか。
一体全体、前鬼の里で何が起きたのだろう。
その考えが常に回り続ける。
衛兵は、同情したように静かに教えてくれた。
「一昨日だったか……。俺がここで見張りをしてたら小さな音がしてな。見てみたらあの城の周辺から煙が立ち上がり始めたんだ。あの城の主とアスレ様はご友人だと聞いていたからすぐに報告したよ。今頃は兵士が状況を確認しているはずさ」
「っ……!! っ!!」
あの……水の玉……!
応錬様が姫様に手渡されたあの水の玉が弾けたのは偶然ではない!!
姫様がドジをして壊してしまったのではない!!
前鬼の里からの救難信号だったのか……!!
俺は今この場で、応錬様からもらった水の玉を破壊しようと試みる。
応錬様は壊れたのに気が付いていた!
これをもう一度壊せば、気が付いてくれるはずだ!
あれは二日前のこと……!
襲撃の期日と一致する!!
姫様が応錬様に助けを求める為に、あの水の玉はわざと壊されたのだ!!
「ぐぬうううううう!!!!」
「お、おい……」
壊れん!!
次は壊れないようにと魔力を多く注ぎ込んでくださったのだろう。
鬼の俺でも壊れない。
「くっ! 情報提供、それに増援感謝する!」
「あ、おい!」
簡単に礼を言って、城壁から飛び降りる。
壁を蹴って勢いを殺して着地し、今度は全力で前鬼の里へと走っていく。
俺一人では壊せない。
テンダ……!
あいつと一緒なら何とかなるはずだ!
だが今、村人全員が無事かは分からない……。
それに鬼たちが勝てなかった相手。
人間がそれに立ち向かうのははっきり言って無謀だ。
援軍ももう居ないかもしれない。
何が待っているかは分からないが、行かないわけにはいかない。
助けてもらった恩を返さねばならないのだから。
ここで応錬様に直接この事を話しに行けば時間がかかり過ぎる。
今日この水の玉を壊して、もう一度応錬様に気づいてもらう。
急がなければ、間に合わないかもしれない……。
「生きてろよテンダ……!」
足に入れる力を更に増やし、低空飛行とも思える風を受けて走っていった。
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