10.20.緊急命令


 その後、すぐに緊急命令がガロット王国国民に出された。

 内容は『全国民は二時間以内に国の外へと出て、夕刻まで待機せよ』というもの。

 急な命令ではあったが、兵士たちが外で過ごせる体制を作るために物資などを必死に運んでいる。


 彼らの行動速度は目を見張るものがあった。

 さすが訓練されている兵士だけのことはある。


 冒険者は身軽なので三十分も経たないうちに門をくぐって外で待機していた。

 一番動きが遅いのは貴族たちだったが、王直々の命令であるので何とか二時間以内に外へ出るよう、準備をしているようだ。

 普通の国民たちは店の戸締りなどをしっかりしてから、徒歩なり馬車なりでどんどん外へと出て来てくれていた。


 もぬけの殻となってしまうガロット王国ではあったが、こういう時に悪事は働かれる。

 そこで衛兵たちが区画を決めて調査をしているらしい。

 なので、最後に出てくるのが衛兵たちとなる予定だ。


 ちなみに犯罪者や牢に捕らわれている人間も、今回は特例として外に連行している。

 もちろん警備はしっかりとしているようだ。


「……ここぞとばかりに店出してくる奴らも居るんだな……」

「まぁそうだろう。稼げるときに稼がねばな」


 商売人や露天商などは外で店を出し、暇そうにしている国民たちへ食べ物を売ったり、商品をみせたりしている。

 今から夕方までここに待機だもんな。

 そりゃ暇にもなるだろうし、腹も減るはず。


 こんな急に出た命令なのに、よく臨機応変にやるもんだ。

 感心するわ。

 ……俺もなんか食べ物買おうっと。


「どこへ行く」

「いやお腹空いたから……」

「呑気にそんなことをしている場合ではないぞ。……最悪、失敗するかもしれんのだ」

「……考えたくはないのだが」

「一番最悪なケースはいつも頭の中に入れておいた方が良い。そうならないためにどう動けばいいのか、分かってくるからな」


 確かにそうかもしれないけど……。

 あんまり考えたくないなぁ……。


 ……最悪なケースか。

 まぁこの場合は声復活阻止が失敗して、あいつらが顕現することだろうな。

 どうなるか分かったもんじゃねぇよ……。

 だって曲がりにも神の一角だろう?

 干渉とか言う言葉を使う奴に会ったのなんて初めてだったよ。


 そういえば、もし失敗したとしたらどこに出てくるんだ?

 俺たちの目の前か?

 まぁそう言うことにしたとしたら、真っ先に戦う羽目になるな。

 いや戦って勝てる相手なのか?

 神だぞ?

 曲がりなりにも神だぞ?


「……いや、この場所で戦うのはマズすぎるだろ」

「私もそう思う。だが、もし失敗したらやらなければならないかもしれない。国民を守りつつ、邪神を倒す。封印方法を悪魔は知っているかもしれないが……教えられるようになるかは分からん」

「零漸が何かそういう封印技能持ってんじゃないかな」

「可能性はあるな。あとで聞いておこう。では私はバルト様たちの所へ行っている」

「了解」


 そう言って、鳳炎は飛んでいってしまった。


 俺は封印とかそういう技能は持てなさそうだしな。

 あいつに賭けるか……。

 まぁ今は持ってないかもしれないけどね。


 なんにせよ、今回の作戦を成功させればいいはずだ。

 失敗……はしないだろう……。

 そう信じたい。


「応錬様ー!」

「お、あいつらも来たか」


 テンダとウチカゲ、零漸が俺の姿を見つけて、手を振っていた。

 俺も手を振り返しておく。


 ずいぶん帰ってくるのが遅かったな。

 お、衛兵たちもようやく外に出てきている。

 あー、てことはバルトに頼まれて国内に残っている人を探してたな……?


「バルトも人使いが荒いな……」

「ここまで私たちの言葉を信じて行動に移してくれているのですから、文句は言えませんよ応錬様」

「それは確かに」


 本当になんでここまでやってくれるのかが不思議なくらいだよ。

 ありがたい話なんだけどね。


 全員と合流した俺たちは、中の様子はどうだったか聞いてみた。

 数組の子悪党が指示を聞かずにたむろっていたようだが、衛兵やテンダたちの力でねじ伏せてしまったらしい。

 テンダたちがそう言うとなんかヤバいからやめて。


 他は特に問題がなかったらしく、こうして最後に出てきたのだとか。

 あとは……これで大丈夫かどうか、だよな。


 しばらく誰も居なくなったガロット王国を眺めてみるが、特に変わっている様子はない。

 目では見えないことが起きているのだろうが……やはり実感が湧かないと不安になる。

 何でもいいからエフェクトが欲しいところだ。


「おーれーん」

「お、アレナも帰ってきたのか。お前何処まで吹き飛ばされたんだ?」

「木に引っ掛かってた……」

「想像に難くないな」


 ローブが引っ掛かるよね。

 でも破れてもないようだし怪我もないようでよかったよかった。

 あ、そうだそうだ。


「零漸。お前封印技能とか持っているか?」

「あー、持ってないっすね……。今は進化して防御力が上がっただけっす。あんまり技能は増えなかったっすよ。土地神はそれで手に入れたっす」

「そうか。んー、となると……やはり今回の作戦は成功させておかないとな……。時間を作らなければ」

「リゼは何か封印技能持ってないんすか?」

「も、持ってる訳ないでしょ……。碌な戦闘経験もないんだから……」

「そっすかー」


 昨日くそデカい魔物捕えてきてたじゃねぇか……。

 もう充分戦えると思うんだけどな。

 謙遜しているのか?

 いや、これ本心だわ。


 それからしばらく、俺たちは待った。

 俺とテンダ、ウチカゲ、アレナは武器の手入れをして時間を潰した。

 ローズとユリー、リゼははラックたちの世話をしてくれている。

 あいつら三人仲いいな……。

 ていうか連れてきたのは俺だし、あとで手伝おう。


 零漸はティックやカルナと楽しげに話している。

 特にティックとは相性がいいようだ。

 まぁ、性格なんとなく似てるしね。


 鳳炎とマリアは……アスレとバルトの所に行っている。

 あいつらしか分からないこともあるだろうし、その辺は任せておこう。


「にしても、やっぱり何も分からんな。本当にこれでいいのか」

「そうですね。なんでしょう、ウチカゲから邪神復活阻止をすると聞いたのでどんな大層なことをするのかと思っていましたが……地味ですね」

「確かにな……。実感が湧かないんだよなぁ~」

「バルパン王国の件もありますから、できれば早く終わらせたいところですね」

「ああ……。にしてもテンダ、お前の朝顔めっちゃかっこいいな」

「お褒めに預かり光栄です。応錬様の白龍前と影大蛇を打ったあの職人が拵えてくれたんです」

「やるなぁあの爺ちゃん! 刀身彫刻も彫れるのかー!」

「前鬼の里屈指の刀鍛冶ですからね。でも応錬様の白龍前も美しいですよ」

「だよな! 愛刀だし、本当に大切にさせてもらってる」


 めちゃくちゃ綺麗なんだよね。

 白い鞘に金の装飾。

 そして透明な刀身……。

 これは鏡みたいに反射してるからそう見えるだけだけど、それでもすごい。

 今度持って帰った時、研いでもらおうかな。


 手入れを終えた後、静かに鞘に納める。

 音を立てずに納刀ってのは俺には無理だな。

 テンダはできてるけど……羨ましい。


「刀か……」

「お? なんだウチカゲー。羨ましいのかー?」

「自分の武器があるのに羨ましいわけがないだろう。ただ爪を日本刀にできないかと思っただけだ」

「なんだ、興味があるなら鬼人舞踊を教えてやろうと思ったのに」

「俺には俺の技があるから、必要ないよ。兄に教えてもらうのは何か癪だしな」

「なにー?」

「「……はっはっはっは!」」


 仲いいなぁおい!


「ぐぅっ!?」

「「!? 応錬様!?」」


 突然、体の中で何かが暴れているような感覚が襲ってきた。

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