7.39.近場のダンジョン


 俺とアレナは、帰りしなにCランク帯が推奨されているダンジョンへとやってきた。

 洞窟の入り口に戻るのはやはり少し大変だったが、アレナの作った地図は正確だったので二時間程で戻ってくることができた。

 迷いなく直進して行けば、これくらい早くに攻略ができるんだな。


 まぁマップがなければ到底無理な話ではあるが。


 というわけで、ダンジョンの前にやってきたわけではあるが……。

 ここも管理されていないダンジョンということなので、出店などは一切ない。

 洞窟がぽっかりと口を開けているだけだ。


 こういうところで商売すれば、それなりに物が売れそうなんだけどなぁ~。

 まぁ純粋に危ないって事で、商人はこの辺に近寄らないんだろうな。

 何時魔物が出てきてもおかしくはないし。


 えーと、じゃあ今持ってるものを確認しておこうか。

 連続でのダンジョン攻略だし、何か不足しているかもしれない。


 まずランタンは必須なので、燃料も多く持ち歩いている。

 壊れない限り灯りが消えることはないだろう。

 幸いアレナは中距離に特化した技能を持っているし、俺は操り霞で全ての魔物の位置を把握できる。

 最悪接近戦になっても、今の俺であれば速度も速いので、アレナがランタンを持っていたとしても問題なく守ることができる。


 しかしこのランタン凄いよな。

 どれだけ振り回しても明かりが消えないんだもん。

 これも魔道具袋と同じ様に魔法道具なのだろうか?

 でも多少無茶しても消えることのない灯りっていうのは本当にありがたいものだ。


 次に食料。

 これも結構余裕があるな。

 携帯食料しかないけど、ダンジョンでは火を極力使いたくはないからなぁ。


 後はマップを作る道具だとか水だとか……そんなものくらいかな。

 回復は俺ができるので、回復アイテムはいらないし、マナポーションは以前要らない程もらったし、まだまだ余裕はある。

 あ、水は俺が作り出せるから実際はいらなかったかもな。


 後は何が必要だろうか。

 というかこの荷物だけでDランク帯が推奨されているダンジョンを攻略したわけだし、これで問題ないだろうな。


「よーし、いっくよー!」

『張り切ってんなぁ。マップ作りに』


 ダンジョンを攻略したいのか、マップを作りたいのかどっちか分かんなくなってんぞ……。

 でもここはCランク帯が推奨されているダンジョン。

 今の俺たちがCランクなので、実際はギリギリな気がするが……。

 まぁ行ってみないと分からないしな。

 こうしてアレナも張り切っている事だし、頑張ってみようじゃありませんか。


 アレナが先行してダンジョンに入っていったので、俺もその後に続いていく。

 ぽっかりと口を開けた洞窟は、進むにつれて狭くなり、人が三人ほど並べるかどうかという程にまで通路は狭くなった。

 アレナはまだ体が小さいので余裕だが……狭い場所で戦うのは俺が少し苦手かもしれないな。


 俺の魔法系技能は広範囲のものが多い。

 まぁ通路が狭いということは攻撃も当てやすくなるということなので、密集させて撃ち込めばほとんどの敵には勝つことができるだろう。

 アレナの技能も的が絞りやすいはずだ。


 いろんな状況下で戦ってみるのは勉強になりますなぁ。

 まぁ今のところ魔物はいないようなのでこのままガンガン進んでしまいましょう。


 一階層はほとんど真っすぐの道。

 時々道が分かれたが、すぐに行き止まりになっていた。

 奥に行くにつれてそれは増えていくのだが、やはり続いている分かれ道はなかった。


「なんかつまんないねー」

『魔物も出てこないし、反応もない。ここ本当にCランク帯が推奨されているダンジョンなのか?』


 いや、だが皆で行ったダンジョンは最後の最後に強敵が現れた。

 それを考えると魔物が少ないからと言って、油断をしてはいけないだろう。


 でも操り霞に一切の反応がないんだよなぁ。

 ふつーに一本道の洞窟が続いていくだけ……ッ!?


『アレナ!』

「どうしたの?」


 すぐにアレナを尻尾で突っついて足を止めさせる。

 その後、目の前に空圧結界を展開して、敵が来るのを待つ。


 奥の方から一匹の魔物がものすごい勢いで突っ走ってきているのが分かった。

 図体はこの洞窟の通路ほぼ一杯の大きさ。

 避ける場所がない今、こうして耐えるしかない。


 少し後ろに行けば小さな分かれ道があるのだが、これを今口頭で伝えられない。

 ジェスチャーか何かで伝えようとしている間にも、奴はここに辿り着いてしまうだろう。


 ドッドッドッドッドッドッド!


「お、大きな足音だね……」

『想像以上にな!』


 やはり走ってくる速度が尋常ではない。

 これはもう一枚くらい空圧結界を展開させておこう。


 透明の壁なので、相手の姿はしっかりと見ることができる。

 そしてこちらに突っ込んできている魔物の姿を、俺とアレナは見ることができた。

 見覚えのある赤い毛皮の猪が、明らかな殺意を放ってこちらに向かって突っ走ってきている。


「『レッドボア!?』」


 Sランクの魔物やないかーーい!

 これはあれか!?

 一直線にしか向かってくることができないから、討伐は簡単だろうとしてCランク帯が推奨されているダンジョンになったのか!?

 んな馬鹿なおい冒険者、もしくはギルドもうちょい調べてからランク帯設定しやがれ!!


「『重加重』!」


 アレナがレッドボアに手を向けて、技能を発動させる。

 一直線に向かってきているので、当てること自体は簡単だ。

 技能はしっかりと発動したようで、レッドボアは次第に速度を落としていき、最後には足を地面に着けて重い重力に抵抗しているようだった。


 流石アレナの技能。

 これであれば簡単に──。


 バリァアアン!!


『わっつ!?』

「びっくり!!」


 二枚張っていた空圧結界の一つが粉々に砕けてしまった。

 何故壊れたのかは分からない。

 レッドボアは完全に停止しており、攻撃をしてくるそぶりは見せていない。

 だが空圧結界は割れた。


 周囲を確認してみるが、操り霞にはこいつの反応しかないので、他の魔物がこの結界を壊したとは思えなかった。

 であればレッドボアが壊したのか?

 何かの技能……?


『! フライングバッシュ!』


 そういやユリーとローズに出会った時、レッドボアの技能について言っていたのを思い出した。

 どういう技能かはまったく分からなかったし、見たこともなかったが……これがそうなのか?

 んー、どういうものなのかやっぱりわからん!


 だが完全に動きを封じたというのに、俺の空圧結界を壊す程の追撃が来るのは恐ろしいな。

 ちょっとこれは本当に気を付けた方がよさそうだ……。


 完全に気絶したレッドボアを見て、アレナはナイフを取り出した。


「解体ッ……!」


 いやいや食わせてくれ!!

 頼むよSランクの魔物なんだからーー!!

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