2.34.ガロット王国
全員が起きて支度も整ったので、前鬼の里に向かって出発することになった。
勿論火は消して、そこに居た痕跡を消してからだ。
意外と慣れているな。
朝食を取ると俺はレベルが49になった。
食べたのは野菜と干し芋、そしてあの味噌汁だけだったが……なんでこれだけでレベルが上がるのか不思議だ。
この事を天の声に聞こうと思ったのだけれども……何故か答えてくれなかった。
聞き方が悪かったのか分からないが、どれだけ質問してうんともすんとも言わない。
まぁレベルが上がるのは別に問題は無いのだが……気になるなー。
あ、因みに俺は姫様の肩の上に居る。
またなんか騒ぎ立てられたらたまったもんじゃないからな。
本当なら鬼たちに何とかして貰いたい……。
でないと他の鬼たちと接触できないんだよなぁ。
今日も多分野営をすることになると思うから、その時はちゃんと話を聞くことにするかな。
姫様が寝ている間は動けるだろう。
見張りをしてる鬼たちを労っておくか。
暫く歩いていると、やっと森を抜けたようだ。
身を隠す事が出来なくなるのだが、鬼たちは落ち着いていた。
散開状態から、今度は密集して頭に頭巾を付けていく。
角を隠すための物のようだ。
進行方向を見てみると、ここから先は森がほとんど無い。
その代わりに随分と整地された道が続いていた。
どうやら人の手が入れられているようだ。
そういうことなら無駄に隠れずに堂々と歩こうという事なんだろう。
だがそれに待ったを掛ける人物がいた。
「嫌です!」
「姫様ー……」
「なんで私がそのような汚い物を着なければならないのですか!」
「ですから……今の姫様のお召し物は目立ちすぎるのです。ですので身を隠すために……」
「嫌です!」
だーめだこりゃ。
鬼たちでは説得できそうにないな……よし。
俺は姫様から降りる。
「あ……」
首を横に振って、聞き分けの悪い子には乗りたくないアピールをする。
その代わりにウチカゲに乗らせて貰う。
ウチカゲは驚いていたが、すぐに気を取り直す。
「ほらヒスイ。白蛇様も貴方が服を着やすいように降りてくださったわよ? ちゃんとなさい。着ないと白蛇様はウチカゲに持って行かれますよ?」
「お、奥方様!?」
いや、うん。俺としても最前列で見て回りたいのはあるし、ウチカゲに着いていても良いとは思っている。
でも飴と鞭って必要でしょう?
ちゃんと着てくれたら戻りますよ。
姫様は本当に渋々と色あせた布を頭に巻き、綺麗な羽織を隠すようにマントのような服を上から被せた。
手慣れていないようなのでシムが手を貸している。
何処までも一人では何も出来そうにない子に育って行きそうで怖いのだが。
それでも何とか服を着こなしてくれた。
滅茶苦茶不機嫌だが今はこうしないと怪しまれるからな。
仕方がない。
シムも言うことを聞いてくれたのが嬉しかったのか、とても満足そうに笑っていた。
見ているこっち側の鬼たちはヒヤヒヤしていたようだったけどな。
「では、進みます。あと一日あれば着くはずです」
「うぅー……」
めっちゃ唸るじゃん怖い。
とりあえず姫様の肩に戻ってやるか。
いつ暴走するか分からないからな。
ウチカゲの肩から降りて姫様の肩に登っていく。
姫様はこれに驚いていたようだが、俺が自ら来てくれたことに喜んでいるようだった。
これで機嫌は少しの間くらいなら取ることが出来るだろう。
他の鬼たちは言葉こそ発しないものの、「有難うございます」という目線を俺に送っていた。
マジで苦労してるんだなこいつら。
同情するよ……。
俺たちは足並みを揃えて整地された道を歩いて行った。
◆
-二時間後-
整備された道を鬼たちが歩いて行く。
整備されている道なので勿論様々な通行人がこの道を利用している。
その中で真っ白な俺がいることが一番目立つんじゃないかと思ったのだが……通りすがる者たちは物珍しそうな目で俺を見てくるだけだった。
通行人達はほとんどがヒューマンだ。
時々猫耳の生えた獣人を見かけてテンションが上がったな。
この世界にはファンタジー世界でお馴染みの獣人もいるようだ。
他にも面白い人種がいないか探していると、大きな砦がちらりと見えた。
この近くには国か何かあるのだろうか?
そう思い、姫様をつついてからあの砦の方に尻尾を指してみる。
「あれですか? あれはガロット王国の砦です。鉱山を囲う様にして砦が築かれているのですよ」
あれがガロットか!
滅茶苦茶デカイ国だな……。
これはサテラを探すのも苦労しそうだ。
少し離れてはいるが、ここでもその砦の大きさが分かった。
高さは高層ビル並みに大きく、首を持ち上げなければ見上げることは出来ない。
砦の上には砲門が何個も用意されている様だ。
城の守りは堅そうだな。
っとは思ったけど、それは兵士の数を見てみなければまだ分からないがな。
サテラを連れて脱出する算段も付けておかなければならないから、まず国に入ることが出来たら抜け道なんかを探しておいた方がいいな~……。
とりあえず、目的の場所がわかっただけでも儲けものだな。
さて……ここの住民達の『普通』を学んでおきたい。
何を買うのか、どうして働くのか……とかそういった簡単な物だ。
この世界の一般常識がない俺では人の姿になれたとしても社会に適合出来ないだろう。
何はともあれ、今度は一人で行く可能性が高いからこの位置を憶えておく必要があるな。
頑張って記憶しておこう。
「興味がおありですか? でしたら前鬼の里に行って少し落ち着きましたら遊びに行きましょうか。良いですよね? 母様」
「落ち着いたらね? 勝手に行ったりしたら絶対に駄目よ?」
「分かりました」
それは有難いのだが、そこまで悠長にしていられる時間は無いだろうな。
でも少しくらいなら前鬼の里にいても大丈夫だろう。
もし長く動かない様子が見て取れたのであれば、俺は一人でガロット国に向かうことにしよう。
「おい! 貴様! 何処を見て歩いていやがる!」
「…………」
「無視するな!」
あれ? ウチカゲが絡まれてる。
いやちょっとまって……ヤバイだろ!
あいつ馬鹿だろ死ぬ気か!?
ウチカゲの攻撃力は2000近くになるんだぞ!
力量差が分からないのであれば逃げろ!
今すぐ逃げろ馬鹿野郎!
「貴様……ぶっ殺す!」
男がそう叫んだ瞬間にその男の姿は消えてしまった。
敵対した者にしか手を出さないその精神。
俺は格好いいと思うぞ。
ただ君、あの男何処やったの……?
「たわいもない」
あ、そうですか……。
もしかしてだけど……それ技能にあった『剛瞬脚』じゃないよね?
大丈夫だよね?
俺ほとんど見えなかったけどさ。
だけど今の技を見てわかったことがある。
やはり鬼たちは普通の人間の何十倍も強い。
できれば手加減してあげてくださいね?
……ね?
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