8.37.記憶
バミル領に帰って来た俺たちは、すぐに鳳炎の記憶を取り戻すための情報を集めに行った。
とはいっても、ここの領民がそのような情報を知っているはずもないので、まずは大きな診療所か教会に行ってみて話を聞きたい。
なのですぐにでもここは発たなければならないだろう。
ちなみに、リゼとアレナに何とかして鳳炎の記憶を取り戻してもらおうと、思いつく限りのことをしてもらった。
詳しい詳細は俺とウチカゲは知らないが、帰ってきたら鳳炎がのびていたところを見るに、とんでもないことをしていたのだろう……。
何してんねん。
結局記憶は戻らなかったようだが……。
だが鳳炎は鳳炎であることに変わりはない。
記憶が消えて変になっているところがあるかなーとは思ったが、そのようなことはなかった。
性格までは変えられていないようだな。
記憶を取り戻すような専門機関はないだろうが、そういった人を見たことがある人はいるだろう。
診療所とか、それこそ教会とかね。
まずはそこに行って、記憶を失った人に対してどのような措置をとったのかを聞いてみたい。
あわよくば戻してもらいたいな。
ここから一番近い大きな国はガロット王国。
そこであれば診療所もあるだろうし、まずはそこに行ってもいいかもしれないな。
丁度ガロット王国の兵士や知り合いもいることだし、少しは優遇してくれるだろう。
アスレとも会ってみたいしな、久しぶりに。
でもそう言った施設はガロット王国にあるのだろうか?
気になったので、アスレの家臣であるジルニアに話を聞いてみることにした。
こいつであれば国の中のことにも詳しいだろうからな。
「大きな診療所ですか? ありますよ。回復師は大切な存在ですので、警備は厳重ですが、私の権限があれば何時でも入ることができます」
「ん~流石。連れて行ってもらってもいいか?」
「勿論ですとも」
よし、これで診療所にはすぐにでも行ける事だろう。
問題はそこで治るかどうか、だけどな……。
行く場所は決まったし、それをみんなに共有する。
それとバミル領なのだが、魔物の片付けなどはもう終わっている。
まだまだ問題の多い街だが、これからもここにいる皆で街作りをしていくようだ。
俺たちが介入する必要はもうないだろう。
そもそも戦闘にしか参加してないけどね。
それと、鬼たちとはこれからも良い関係を続けていきたいと、サテラが申し出てくれた。
ウチカゲも賛成したので、異種族間の交流が始まることになるだろう。
人間だけの里だったので、いい刺激になることは間違いない。
今回の戦いの功績によるところが大きいだろう。
しかし、バミル領を領地とするガロット王国は別として、前鬼の里からの援軍には何かの謝礼をしなければならない。
だがバミル領にはそのような余裕はほとんどなく、唯一安定しているのは食料事情のみ。
さてどうしようかと悩んでいたサテラとバラディムだったが、鬼たちはそこで酒を要求してきた。
鬼らしいと言えば鬼らしい報酬だ。
しかしそもそも前鬼の里で作る酒と、バミル領で作る酒は種類が違う。
それでもいいのかと聞いてみたところ、問題はないとのこと。
なんでも前鬼の里の酒を、こういった援軍を送る際に持ちだすのは好まれないらしく、戦地に赴く鬼たちは少しばかり寂しい思いをしているらしい。
そのため戦場でも飲むことのできる、鬼たちの法に触れない酒が欲しいのだとか。
「なんじゃそりゃ! アルコールだったらなんでもいいのかよ!」
「はははは……。酒は持ち運べたとしても、徳利一つ程度ですからね。酒さえあれば鬼は大人しくなりますし」
「いいのかそれで!?」
俺の鬼のイメージがちょっと崩れたのだった。
だがそれくらいであれば、バミル領でも用意できるので早速渡すことになった。
ワインや果実酒と言った物が多いようだったが、普段では楽しめない酒に鬼たちも満足したらしい。
だけどお待ちなさい。
樽抱えていくな。
話もまとまったところで、俺たちも出立の準備だ。
一日半もあればガロット王国に到着する予定である。
あ、そうそう。
ルリムコオスはラックもしっかりこっちに転送してくれました。
何が起きたのか分かっていなかったので、反応がちょっと面白かったな。
というか一人になったのでめちゃくちゃ焦っていただけだったらしいが。
俺たちは先にラックに乗って行くことにした。
ジルニアも乗っけていくぞ。
「リゼ、お前はとりあえずメリル返してこい」
『はぁーい……』
そんで思いっきり怒られてきなさい。
擁護はせんからな。
ほんとにこいつらは危なっかしい。
カーターが可哀そうだわ……。
流石にここまで来て護衛もなしに帰れとは言えないので、バミル領から護衛を何名か出してもらって馬車でサレッタナ王国に連れて行ってもらえることになった。
サテラはメリルと友人らしいし、放っては置けなかったのだろう。
正しい判断だと思うぞ。
「じゃ、行きますか」
「もう行っちゃうの?」
「すまんなサテラ。俺たちも急ぎでね」
「そう……」
寂しそうな顔をするサテラに、アレナが近寄っていく。
その後笑顔で、肩を軽く叩いた。
「また来るね」
「……うん。分かった」
笑顔をアレナに返したサテラは、小さく頷いた。
それを確認した後、俺たちはラックに乗り込む。
初めて飛竜に乗るジルニアはそわそわとしていて危なっかしいが、この辺はラックの飛行能力を信じよう。
グアッと広けた翼が風を掴み、五回の羽ばたきで完全に浮き上がる。
背中を見てこちらの様子を伺い、問題ないことを確認した後、前進し始めた。
鳳炎とアレナはそれに付いてきてくれる。
バミル領を見てみると、サテラやバラディムがこちらに手を振っているのが見て取れる。
だがそれも次第に小さくなっていくのだった。
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