10.37.弱点
「……だがこの話は他の者と共有したい」
「同感である。一度戻ろう」
俺たちだけに話していたも意味がないもんな。
一度戻って体勢を立て直す。
本当であれば今すぐにでも探しに行きたいところだが、どこにいったか見当もつかない上に魔力がもう残っていない者もいる。
万全な状態でなければ勝つことは難しい。
悔しいが、ここは二人に従った方がよさそうだ。
ふと、周辺を見てみる。
地面が抉れ、大地が割れ、ガロット王国があった場所は荒れに荒れまくっていた。
土地神殺しが歩いた場所には大穴が残されており、今も尚燃え続けている。
直すだけでも相当な時間が掛かるだろう。
ガロット王国の国民はこれからどうなるのだろうか。
そっちも考えておかなければならないな……。
アスレとバルトは無事だろうか?
鳳炎がこっちに来たということは大丈夫なんだろうけど。
とりあえず聞いておくか。
「鳳炎の方はどうなっていたんだ?」
「アスレ様とバルト様と会話していただけだ。ガロット王国がああなってしまった以上、もう一度話さなければならないがな。……私が目覚めた時、お二方は側にいた。生きているよ」
「そうか、よかった」
空の声がしばらく上空を浮遊していたらしいが、特に何もしてこなかったらしい。
あそこで暴れられたら貴族の多くが死んでいただろう。
ただの気まぐれだっただろうが、それに助けられたようだ。
今の段階で能力が分かっているのは天の声と地の声。
空の声と陸の声の能力は把握できていない。
今後またぶつかり合う可能性を考えると、できるだけ敵の情報は把握しておきたいところだ。
それを話し合う為にも、まずは皆と合流しなければならない。
戦闘が終わって気が抜けたところで体が重くなるが、それを引きずって何とか歩いた。
ガロット王国の国民たちは、吹き飛ばされたり瓦礫にぶつかって大怪我をしたりと大変だったようだが、今は状況を把握して冷静さを取り戻している人も多い。
もちろん未だに取り乱している者も多いのではあるが、嘆いていても現状が変わることはないのだ。
彼らも次第に大人しくなっていくだろう。
こんな状況、説明できるわけがない。
現状を受け止めろと言ったとしても、すぐに納得できるものは一人としていないだろう。
だが、俺たちが戦っているところや、守っていたところをしっかりと見ていた者たちは冷静だった。
それだけで何かが変わるということはないのだが……落ち着いてくれているのはありがたい。
「……怪我人が多いな」
「あれだけの爆風が何度も襲ってきたのだ。怪我をするのも当たり前である」
「……もう、隠す必要もないかな。回復魔法」
「今お前を取り囲もうという奴は出てこないとは思うがな。それに応錬の場合、その技能を使ったとしてもバレないだろ」
「そうか。『広域治癒』」
ガロット王国の国民全員が入る程の花の魔法陣を展開した。
緑色の花が咲き、それが弾けて怪我人に吸い込まれる。
一瞬で怪我を治し、全員を回復させた。
誰もが驚いているようではあったが、それによって落ち着き始める者も多くなった。
皆が混乱し、不安に駆られていたのだ。
この美しい技能は、そんな心情を緩和させてくれたらしい。
やはり回復魔法というのは精神にも作用はするみたいだな。
俺が使ったということはやはりバレていないみたいだし、今はこれでいいか。
さすがに死人は……助けられないけどな。
全員の回復が終わったら魔法陣を閉じることにしよう。
しばらく歩いていると、遠くから俺たちを呼ぶ声が聞こえた。
マナがアレナとイウボラを抱えて座っている。
二人とも気絶しているようだ。
それに気付いてすぐに駆け寄り、声をかける。
「だ、大丈夫か!?」
「大丈夫よ。アレナちゃんは頭を打って気絶しているだけ。貴方の技能のお陰ですっかりよくなったから、あとは自然に目を覚ますのを待てばいいわよ」
「よ、よかった……。はぁー……」
周囲には、ボロボロになったユリーとローズ、リゼ、パックとリック、ラックとスターホースが控えており、カルナやティックもそこに居た。
最後に倒れているウチカゲが目に入る。
「……どう、説明したものか……」
「説明は不要です」
「おっ!? 起きて、たのか……」
むくりと上体を起こしたウチカゲは、いつもの口調だった。
今のは失言だったかもしれない。
この発言で天打は死んだと気付かれるかもしれなかったからだ。
……隠すつもりはなかったが、言い出しにくい。
どうやって話せばいいのか俺には分らなかった。
だから、謝るしかなかった。
「すまん……」
「応錬様、謝らないでください。あいつが決めたことです」
「だが俺はその努力を無駄にした。もう少しだった……もう少しだったんだ……」
「まだ機はあります。次は俺も居ますから」
まったく気にしていないという風ではなかったが、俺に気を使っているということは分かった。
一番辛いのはウチカゲだろうに。
もっと責めてくれたって、俺は何も文句は言えなかったのだ。
だというのにウチカゲはいつものように接してくれている。
少しでも気を紛らわそうとしているのかもしれないが、そんな余裕がどこにあるんだと不思議に思う。
兄弟が死んだのだ。
そしてそれを送り出してしまったのは俺だ。
「……怒らないのか」
「怒って現場が変わるのであれば怒鳴りますがね……。天打のことを気にしていないというと嘘になります。ですが、俺たちにはそれよりも戦わなければならない敵がいる。これはもう戦争です。仲間が死ぬのは当然のこと。ただ俺たちは、仲間の死を無駄にしてはいけない……。応錬様も今は、その事だけを考えて行動してください」
「……分かった」
まだ踏ん切りはつかないが……今やることはただ一つ。
声の打倒。
それを目標に掲げ、達成に向けて全力する。
これが戦って死んでいった者たちの死を無駄にしない唯一の方法だ。
俺はもう一度心の中で誓った。
絶対に殺す。
感じたことのない殺すという覚悟が、俺に冷静さを分け与えてくれた気がした。
「ごめん……話の途中だけどいいかしら……」
「大丈夫かリゼ。ボロボロじゃないか」
「貴方の回復魔法のお陰で今は大丈夫よ。ぼろいのは服だけ」
おずおずといった様子で声をかけてきたリゼ。
どうやらあの時の痛みで気絶していたらしく、ユリーとローズに守ってもらっていたらしい。
目覚めたのは少し前で、俺たちが地の声と戦っている時のようだ。
「で、どうしたんだ?」
「……あのね、私って特殊技能に狩りの本能っていう技能があるの。相手の弱点を見抜くことができる技能なんだけど……丁度遠くで貴方たちが戦っているのを見つけたから、声にその技能を使ってみたの」
狩りの本能は対象の弱点を赤く表示させる。
なので地の声にそれを使えば、どこが弱点なのかが分かるはずだったのだが、そこで不思議なことが起こったらしい。
「遠目だから分からないかなって思ったんだけど、赤く表示されるからなんとなくわかるはずだった。でも声にそれを使って赤く光ったのが……この辺にいる人たち全員だったの」
『え?』
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