10.36.燃やし尽くす
大声でそう言った鳳炎はすぐに構えを取って炎を出現させた。
十発の炎の塊が作り出され、それが一斉に土地神殺しへと突撃する。
「『周炎追尾』」
ボボボボボボッ。
炎が走り、風を受けながら威力を増していく。
根っこが炎の塊を叩こうとするが、それを回避して本体へと接近する。
見えないはずの根っこではあるが、鳳炎が作った炎はすべてを回避して着弾した。
ボンボボンボボボンッ!!
着弾したところが燃えあがり、パキパキという音を立てて本体が弾けた。
「ん!? 待て焼けた!?」
「どうなってるっすか?」
「本体が焼けた! 根っこは石と土の塊だけど本体は樹木だぞあれ!」
「む、いい話を聞いたである……なっ!!」
再び十個の炎の塊を作り出した。
すぐにそれを土地神殺しへと飛ばし、攻撃を回避したあと着弾して燃えあがる。
鳳炎の絶炎のお陰で炎は一切消えることなく、土地神殺しの本体を焦がして燃やしていく。
それでも尚動き続けるそれはようやくこちらに体を向けた気がした。
「不死身っすか!?」
「だが姿が見えるようになった。これなら俺も戦える」
「いや、鳳炎の炎に当たったら死ぬっすよ。絶炎っていう技能があって当たったら消えないんすから」
「……奄華の時はそんなことなかったのだがな……」
やっぱり持っていた技能は少し違うんだな。
気になるところだが……そんな時間はなさそうだ。
岩が吹き飛ばされてこちらに前進してくる。
動きとしてはそこまで速くないが、早急に何とかしなければこちらまで根っこが伸びてくるだろう。
だがあいつがようやくこちらに敵意を向けたということは、鳳炎のあの攻撃が効いているということだ。
本体が樹木であるということが分かったのであれば、あとは炎系魔法で対処する。
俺の火龍だと的がデカすぎてすぐに打ち消されてしまうが、鳳炎の技能であれば炎を自在に操って攻撃を回避することができる。
しかし何故回避できるのだろうか……。
今も何十発もの炎の塊を本体にぶつけている。
もちろん根っこが防ごうと暴れまわるのだが、炎に掠ることも許されていないようだ。
「鳳炎お前凄いな! 見えないのにどうやって避けてんだ!?」
「知らん!」
「え!?」
「なんか知らんが勝手に炎が避けてくれるのだ! 便利なことこの上ないがな!」
まぁ攻撃が有効なら何でもいいか!
じゃあ俺たちがやることは……!!
「零漸! とにかくあいつの動きを止めるんだ! 鳳炎はそのまま撃ち続けてくれ!」
「了解っす!」
「任せろ!」
「では……俺は強化しよう!」
懐から三つのダイスを取り出したダチアはそれをすぐに地面に投げた。
二十面ダイスが三つ。
出目は『11』、『6』、『8』。
微妙だなと思ったが振り直しは利かない。
なのですぐに技能を発動させた。
「『能力上昇』」
突如、鳳炎が放っていた炎の火力が三倍になった。
零漸の爆硬壁の威力はさらに上昇し、俺の天割の切れ味も大きく変わる。
根っこを回避した火球が着弾した。
爆炎によって土地神殺しの体がのけぞり、炎がようやく体全体にまわったようだ。
そこで零漸の爆硬壁が爆発する。
先ほどよりも大きな爆発によってこちらにまで爆風が飛んできた。
熱風が襲って来るが、耐えられない程ではない。
爆風が収まったあと、俺はすぐに天割を放つ。
斬撃はいつも通り根っこを両断したのだが、今回は大きな根っこも斬り伏せる。
本体にダメージがようやく入った。
痛覚があるのかは知らないが、大きく体をくねらせて悶え苦しんでいるように見える。
すると、不可視の効果が解除され始めた。
岩の根っこが出現し、大木にある数十個の目玉がこちらを向いている。
とんでもなく巨大な魔物だ。
わさわさと枝が揺れるが、葉はすべて焼き尽くされており黒い灰になって地面に落ちた。
火だるまになった土地神殺しはうめき声を上げる。
根っこで今も尚体を持ち上げようとするが、大木は大半が焼かれており少し動いただけでも皮が弾けて中身が燃える。
だんだんと燃えつくされる体を何とかしようと根っこで火を払うが、今度は根っこに着火してしまう。
絶対に消えない炎、絶炎。
それは次第に土地神殺しの生命を容赦なく蝕んでいく。
枝が先の方から朽る。
炎が体にあるであろう水分をすべて蒸発させた。
最後にズズンッ……と体を地面に倒し、動かなくなってしまった。
根っこは未だに動いているが、それも次第に活動を停止するだろう。
それを見て、ようやく俺たちは肩の力を抜いた。
「お、終わった……勝った……」
「だぁー! もう無理っすー!!」
地面に座り込んだ俺と、そのまま仰向けに倒れる零漸。
地の声との戦いのあとの土地神殺しとの戦い。
俺はまだ大丈夫だが、零漸とダチアは結構ギリギリだったようだ。
これ以上戦えば、すぐにMPが尽きるだろう。
「にしても、鳳炎……遅いっすよ」
「私も激痛に苦しめられたのだ。お前たちが戦っている最中に意識を取り戻しただけありがたいと思え」
「気絶していたのか」
「あの痛みを耐えろっていう方が難しい話である」
俺と零漸は何とか耐えたけどな……。
青龍に進化する時と同じくらいの痛みだったが。
そこで白龍前を見る。
土地神殺しには勝利することができたが、天打が作ってくれた勝機を逃してしまったことが悔やまれた。
あと少しだった。
申し訳ない気持ちと、やるせなさが襲ってくる。
手に力が入った。
声たちに対する憎悪が腹の底から沸き上がる。
どうやって探してやろうかと頭の中で思案するが、そこで後ろから肩を叩かれた。
ふと我に返って振り向けば、鳳炎が心配そうな顔でこちらを見ていた。
「落ち着け応錬」
「……天打が死んでまで作ったチャンスを逃したんだ。俺はあいつの仇を取らなければ、前鬼の里の鬼たちにも、ウチカゲにも顔を合わせられそうにない」
「……話は分かった。だが今は冷静になって考えるのだ。幸いにして私たちには、仲間が増えた」
そう言って、鳳炎はダチアを見る。
視線に気づいて力強く頷いたダチアは、一度深呼吸をした。
「俺が、すべてを話そう」
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