10.23.圧倒的


 悪魔から聞きたいことが幾つかあるが……今はこいつを何とかしておかねぇとな……。

 つっても俺たちでやれるのか?

 割と感情任せに動いたけど。

 ……でも皆やる気だな。


 俺は遠くの方へと目をやった。

 向こうでは爆風で吹き飛ばされた者たちの手当てが行われているらしい。

 被害は大きいが……人がいたおかげで治療する段取りもできている。

 向こうは心配なさそうだが、流れ弾や魔法が向こうに飛んでいかないように注意しておかないとな。


 ウチカゲとテンダは……ここにはいないか。

 あいつらどこに行ったんだ?

 俺と同じように吹き飛ばされたんなら、早いところ治療してやりたいが……。


「悪魔の援軍がもうすぐ来る……。それまで何とか持ちこたえてくれ」

「どれくらいで来るんだ?」

「……十分」

「あんなの相手に十分っすか……。応錬の兄貴も簡単に吹き飛ばされて、テンダとウチカゲの攻撃をものともしないあいつにどう立ち回るっすかね」

「ほぼ無謀。だが……『広域治癒』」


 回復の対象を天の声以外に設定。

 周囲に回復水の華が咲き、少しでも怪我をしている人物を見つけると直ちに治療をしてくれる。


「回復し続けることができれば、まだやりようはあるかな?」

「俺も一人になら身代わりが使えるっす。前線に出る奴に使うっすよ!」

「私の能力は、触れることさえできればあいつを無力化できるかもしれない」

「んじゃ今回の作戦の要はマナっすね。道を作るっすよ!!」


 零漸は拳で地面に殴りつける。

 すると地面が揺れ動きだし、隆起した。


「『土地神』!」

「目隠し兼陽動……か。よし、では俺たちも動こう。マナ、俺が隙を作る。絶対に外すな。応錬、お前はどうする?」

「吹っ飛ばされて痛い思いしているからな。俺も、回復だけじゃなくて攻撃もする。零漸、お前の作った土ごと斬ってあいつに攻撃をするから、その辺よろしく!」

「分かったっす! カルナには身代わりをつけておくっすよ! 一番攻撃喰らったらやばそうっすからね!」

「んじゃ、僕は後方で援護するぜ!!」


 ティックが空に飛んだタイミングで、零漸の土地神で操っている土が動き出す。

 棒状に伸ばした攻撃が大量に天の声を襲うが、それらは簡単に防がれるか躱すかして事なきを得ている。

 そう簡単に勝てるとは思っていない。


 前に出た俺とカルナ、ダチアとマナは零漸が作ってくれた土に隠れながら、できるだけ相手の視界に写らないように走り抜ける。

 後方からティックのトルネイドが天の声目がけて放たれた。

 天はその攻撃に首を傾げる。


「ん? なんであいつはそんな魔法が使えるんだ? 魔力量は低いはずだけどね……」


 とりあえず空気を殴ってティックの攻撃を防ぐ。

 それだけで止められるのかと、苦笑いをするしかないティックだったが、逆に考えれば自分の魔法は天の声の爆風を中和できるほどの威力があるということになる。

 それで少し自信をつけたあと、再び狙いを定めて技能を放つ。


 天はもう一度空気を殴り、ティックのトルネイドを止めた。

 そのタイミングで空中を飛ぶダチアが長剣で天の声を突く。

 素早い速度ではあったが簡単に見切られてしまったようで、カウンターを入れられてしまう。


 しっかりと脇腹に攻撃を撃ち込んだはずだったが、ダチアは痛がるそぶりも見せずに再び剣を振るった。


「ん?」

「ぜぁ!!」

「っと……」

「『魔力封印』」

「ははっ!! そんなものが私に通用すると思っているのかい!?」

「出目次第だ」


 地面に八面ダイスが転がっていく。

 それは跳ね返りながら岩の隙間へと入っていき、最後に上を向いていた数字は2であった。


 ガクンッと体が重くなる。

 天は目を見開いて自分にかかった負荷に驚いたが、この程度で負けることはない。

 体が重くなったタイミングでガシッとダチアの足を掴み、地面に向けて投げおろす。


 魔力が八割封じられた。

 しばらくすれば解除されるだろうが、中々厄介なことをしてくれる。

 そう心の中で愚痴った瞬間、今度は体が遅くなった。


「『スローリー』」

「遅くなる程度、問題ない」

「『クイックリー』」

「……逃げたか」


 逃げ足が速い。

 零漸が土地神で作った大量の土の柱を巧みに利用し、すぐに隠れてしまった。


「んー、いつまで遊ぼうかな……」


 ザンッ!!

 土の柱が大量に崩れ去っていく。

 綺麗な断面が顔をのぞかせたと思ったら、自分の腕がずるりと落ちた。


「……『天割』」

「さすが私が憑りついていただけある! だが……」


 水っぽい音を立てて腕が生える。

 服装も元通りになっており、天の声は肩を回して腕の調子を確認した。

 残り二割の魔力でもこれくらいは簡単にできる。

 それに、そろそろ時間切れだ。


 体が軽くなる。

 正しい手順で行わなかった封印魔法は、意外とすぐに効果が消えてしまうのだ。


「お前、神とかいう割には普通に技能のデバフとか喰らうんだな」

「技能とは公平でなければならないらしいからね。誰にでも使えるように、作られた。まぁ、私はそのすべての対策を持っているけどね」

「そういえば、さっき俺に何をした」

「ん? だから言ったじゃないか。君の奥義、応龍の決定。それは私たちを簡単に殺すことのできる技能。だから私たちに向けてそれを使えないように制限をしてあげたのさ。ま、封印技能の一種だよ」

「……」


 やっぱりこの奥義、めちゃくちゃ強いんだな。

 ……つっても、制限をかけられたんだったら使えないか。

 一目散に俺を狙ってきた理由がよく分かったよ。


 ……公平でなければならないらしい・・・

 誰でも使えるように、作られた・・・・

 ということは、こいつが技能を作った奴ではないのか?


「さぁ、おしゃべりは終わりだ。私は鬼を殺しておかなければ」

「……怖いのか?」

「いいや、別に。それじゃあね」


 天の声は手の平に何かを出現させた。

 白い球ではあったが、それはどこか見覚えがある。

 じーっと見てみると、その中で空気らしきものが走り回っているということが分かった。


 空気圧縮。

 俺の持っている……使ったらやばい技能だった。


「……!!? 全員防御魔法!!!!」

「遅い」


 空気圧縮の球を残して、天の声はその場から消えた。

 あの場所に留まっていたのは単なる遊び。

 俺たちくらい、いつでも吹き飛ばすことができたのだ。


 たったこれだけか!!

 これだけしか戦うことができないのか俺は!!

 一回刃を飛ばしただけだぞ!?

 何の役にも立ってないし、なんならあの攻撃も無意味だった!!


 戦うだけ無駄だと言われている気分だ。

 だが自分たちが持ってきた元凶……。

 このまま好きにさせてたまるものか。


「破裂はさせんぞ!! 『無限水操』!! 『水結界』!! 『空圧結界』!!」


 大量の水で空気圧縮の球を包み込み、その外に水結界を展開し、また更にその外に空圧結界を三重にして作り出した。

 あれだけ真っ白になっている空気圧縮なんて見たことがない。

 何時から作っていたのかは知らないが、このままだとさっきよりも強力な爆風が飛んでくる!


 無限水操でできる限り水は作った!

 水結界と空圧結界もありったけの魔力を注ぎ込んだ!

 これで防げなかったら……いや防げるはずだ!!


「耐えろよまじで!!」

「兄貴ー! 手伝うっす!!」

「た、頼む零漸!! とにかくあれを閉じ込めてくれ!!」

「了解っすよ!! 天の声! 覚悟するっす!」


 俺が天の声を閉じ込めていると勘違いしているようだが……今はいい!

 防御魔法が多い零漸と一緒であれば、絶対に阻止できるはずだ!


「『空圧結界・剛』、『エアーシールド』、『ニードルシールド』、『ドームシールド』!」


 空圧結界・剛が展開され、今度は丸い空気の盾が周囲を覆い、それを棘の生えたシールドで囲って最後にドーム型の亀の甲羅みたいなシールドで包む。

 やり過ぎなくらいだが、これだけあっても不安は残る。


「零漸! 他の皆は!?」

「分からないっす! なんか兄貴を素通りして行ったっすけど……」

「そうか……」


 他の皆は天の声を追いかけていったんだろうな。

 俺たちもこっちを阻止して増援に向かわなければ……ならないぞ。


「! く、来るぞ!」

「え?」


 ピッシィッ!!!!


「「えっ」」


 俺と零漸が何重にもして防ごうとした空気圧縮の球は、無慈悲にもすべてを破壊した。

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