9.40.限界
「名を……口にしてはならない……?」
「声の……ことか……」
「私にはっ、分からないけど……うぐっ。悪魔が、そう言ってた……」
「良く教えてくれた……」
アレナの頭を優しく撫でる。
悪魔が死んでも尚残した言葉だ。
絶対に深い意味があるはず。
口にしてはならない……口にしてはならない……。
いや待て、ヤバイもう限界無理無理。
「……ウチカゲ……俺が起きる、までに……整理して、おいてくれ……」
「しっかり覚えておきます」
「す、まん……」
がくっと脱力する。
その瞬間意識が落ち、寝息を立てて寝てしまった。
「はいはい! もうお話はいいわよね!? アレナちゃん! 鳳炎にかかってる技能解除して頂戴! もう行くわよ!!」
「そうですね。早く逃げましょう」
マリアが手を叩き、指示を出す。
アレナは無言で鳳炎にかかっていた重加重を解除した。
自由になった鳳炎が再び飛び上がり、申し訳なさそうにしながら皆を誘導する。
シャドーアイもそれに続く。
だがビッドがとある人物に声をかける。
「零漸さん!! 行きますよ!!」
カルナの隣りに零漸がいて、こちらで話が終わるまで彼女と何か話していたようだ。
それに気付いていたビッドは、出発と同時に零漸を呼ぶ。
「すまねっす。もう少し仕事が残ってるんで先に行っててほしいっす」
「!? 零漸さんまだそんなことを……!」
「悪いっすね」
そう言うと、零漸とカルナは踵を返して違う方向へと走っていった。
勝手すぎると心の中で叫ぶ。
どうしようかとマリアに指示を仰ごうとしたところで、応錬を手渡された。
「おおう!?」
「ビッド殿。応錬様を頼みます」
「え!? てか軽い!? いやウチカゲさん! どちらへ!?」
「零漸殿がいなければ、応錬様がまた怒りそうなので。ご安心を。しっかり連れて帰ります」
「……分かりました」
ウチカゲが零漸を連れ戻してくれるのであれば、向こうは問題ないだろう。
異常に軽い応錬を肩に担ぎながら、ビッドは鳳炎の放つ光を目印に走った。
目立ち過ぎではないだろうかと思ったが、これだけ騒ぎを起こしているのだから、もう関係ないだろう。
ちなみにクライス王子はシャドーウルフが背に乗せて走っている。
ティアラもその背中に乗って支えているので、落ちることはないだろう。
「! ユリー! ローズ! リゼー!」
「あ! 見つけた!」
離れ離れになったいた三人を見つけたマリアが、名前を呼んで気付かせる。
脱出する前に合流できたことにほっとした。
「大丈夫だった!?」
「こっちはなんとかね! リゼがいて助かったわ!」
「え!? えへへ……」
「ウチカゲさんと零漸さんはどちらへ?」
「気にしなくていいわ……。もう知らないんだから」
「えー」
勝手なことばかりされて、マリアは少し腹が立っていた。
話の内容も全く理解できなかったし、無茶苦茶な技能も多く持っているし。
本当に謎の部分が多い。
鳳炎が町中へと降りていき、後続を待つ。
追っても来ていないようなので脱出自体はそう難しくはないだろう。
問題は零漸とウチカゲだ。
「大丈夫かな……」
遠くを見てみるが、二人の姿は見えない。
あと少し走れば馬車が待っている場所までたどり着くのだが……。
帰ってくる気配はなかった。
ここで過ごした短い期間に、零漸に一体何があったのだろうか。
昨日の敵は今日の友とはいうが……それが実現しそうになるとは思わなかった。
「零漸らしいといえば、らしいんだけどね」
あの二人が帰ってくるまでは、馬車で待機しておこう。
そう考えながら、追いついてきた仲間たちを引き連れて騎竜とバトルホースが待っているであろう合流地点まで走ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます