4.11.ジグルの技能
「あれで本気じゃねえとか、兄ちゃんずりーよなー!」
「でもジグルもすごかったよ!」
「うん……すごかった」
「僕達あんなの真似できないしね」
子供達は庭にあるベンチに座って、先ほどの模擬戦の内容を振り返っていた。
主にジグルのことなので、本人はなんだかくすぐったそうにしていた。
俺も振り返ろうと先ほどの内容を思い出しているが、やはりあの光の光線が魔術だったかのように思える。
丁度水を持ってきてくれたイルーザに、その事を聞いてみることにした。
「イルーザ、ジグルの魔術ってのはあのソーラーソードか?」
「そうですね。あの光の光線が魔術です。ソーラーソードは太陽の光を集めて武器を熱する技能なのですが、それを放出する修行を一ヵ月行わせましたね」
「てことはジグルの技能はまだ一つか」
「そうなりますね」
発光もソーラーソードからの応用で発動させている物だろう。
反射できるものがなければ発光は使えないらしいからな。
実際、俺も発光を人間の体で使ってみようと思ったのだが、何故か発動しなかった。
蛇であるときは……いや、今は龍の成り損ないだが、その姿であるときは鱗で光を反射できるようなので何もなくても使えたが、人の姿では道具がなければ使用することはできないらしい。
それと、人が技能を取得するのは非常に時間がかかるらしいので、一つだけでも取得しているジグルは珍しい部類に入るらしい。
技能を多く持っている俺達からしたら、そんなものかと思ってしまうかもしれないが……これが常識であるという事をまた勉強できた。
なのであまり技能をさらしすぎるのもよくないかもしれない。
「ジグル、お前のその剣術は我流か?」
「我流?」
「オリジナルか?」
「うん。剣に関しては自分で考えてやってる。剣の先生はいないけど、素振りは毎日してるよ」
やはりジグルの剣術は我流だったようだが、それにしては良い剣だったように思える。
剣を突き刺して回避するあの行動は非常に驚いたし、転んでしまった時の剣の動かし方は、よくもまぁあんな動きができる物だと感心した。
だが実戦経験があまりないのだろう。
動きに迷いがあったり、手加減できなかったりしていたのでまだ自分の力を十分に発揮できていないし、使いこなせてもいないようだった。
「ふーむ、じゃあユリーに剣を仕込ませてみるかな……」
「……あの、応錬さん。ユリーってのは……」
「Sランク冒険者の戦斧使いだな」
「「ええええ!?」」
ジグルとイルーザは二人して大きな声を出していたが、他の三人は「誰?」と言いたげに首を傾げていた。
イルーザはAランク冒険者だし、おそらくユリー達のことも知っているのだろう。
ジグルは駆け出しとはいえ、Sランク冒険者の名前くらいは知っている、と言う感じか。
ていうか、やっぱりあいつそれなりに有名人なんだな。なんか癪だ。
「え、応錬さんユリーさんと知り合いなんですか!?」
「おう。ちょっとここに来るまでの道中色々あってな。今は同じ宿に泊まってるぞ」
「兄さんここに来たばかりなのに、なんでそんな人と知り合いなの……?」
「たまたまなんだって。で、どうだ? あいつが承諾するかどうかはわからないが、ユリーに話をしてみようか?」
もし承諾しなかったら力づくても承諾させるつもりだが、まずはジグル本人の意思を聞いておかなければならないだろう。
ジグルは難しそうな顔をして、どうしようかと悩んでいるようだったが、すぐに顔をあげて頷いた。
「兄さん、お願いします!」
「よっしゃ任せろ」
「……兄さん。ちょっと聞きたいんだけど……」
「ん?」
「ユリーさんと兄さんってどっちが強いの?」
「んー…………俺だな」
「嘘だぁ」
む、信じてくれないのか。
では仕方がない。ここは俺の本気という物を少しだけ見せてやるとしよう。
俺としても舐められるのは嬉しくないからな。
そもそもユリーより強くなければ力づくで承諾させれないのだから。
「よし、ジグル。今から俺の方が強いと証明してやろう。そこに立ってみろ」
「うん」
「んーそうだな。『無限水操』『多連水槍』『連水糸槍』『泥人』『鋭水流剣』『水盾』『水結界』そして最後に『土地精霊』」
攻撃系技能でジグルの周囲を囲み、防御系技能で自身の身を守り、泥人で逃げ道を完全になくし、土地精霊で足場を悪くしたり、土で作った棘をジグルに向けて展開する。
攻撃系技能はどれも触れれさえすれば致命傷になりゆる攻撃ばかりだし、防御系技能は縦の能力こそ弱いけど遠距離攻撃にはほぼすべて対処できる。
これが俺の展開できる最強の矛と盾だ。
まだ攻撃系技能や魔法系技能で隠している物もあるが、あれはマジでやばいので、ここでは目に見えやすい物だけを展開してやることにする。
ジグルとイルーザ、そして他の三人も、ジグルの周囲に展開された武器を見て口を開けて驚いている。
誰の目から見ても、ジグルは完全に負けが確定しているのだ。
「さて、ジグル。お前はこれを見てもユリーより弱いと思うか?」
「……に、兄さんに勝てる人がいるように思えないんだけど……」
「よし」
理解してくれたようなので、俺は全ての技能を解除する。
あれだけ展開したが、MPは300程度しか減っていなかった。
進化してMPの総量が増えたため、一つ一つの消費が大きくても何とかなってしまうのが今の現状だ。
うむ。素晴らしい。
さて、ジグル達に実力を示したところで、俺はユリーにジグルのことを伝えに行くことにしたいのだが、まだ日は高いので宿に戻っていない可能性もある。
どこかで時間を潰しておいた方がいいだろう。
「ジグル。今日は何をする予定だ?」
「え、ギルドに行ってもう一回依頼を受けようと思ってたけど……」
「そうか……よし、俺もついていこうか」
「いいの!?」
「普段どういう風にして依頼をこなしているのか気になるしな。それに、俺も丁度Eランクだしその流れも確認したい」
「え!? 兄さんもEランクなの!?」
「まだパーティーを組んだばかりなんだ」
別にEランクが恥ずかしいとか俺は思わないし、こういうのは隠してもいつかバレる事だろうからこういう時に話しておいた方がいいだろう。
流石に驚かれたけど、まぁこういう見た目だしな。仕方ない。
イルーザにジグルとの同行の許可も取ったので、ミナとムー、そしてジンに挨拶をして俺とジグルは冒険者ギルドに向かうことになった。
その道中、ちょっと気になることがあったので、ジグルに質問を投げかける。
「ジグル。お前はどうしてそのロングソードを使おうと思ったんだ?」
「かっこよかったから」
「ああ……そう」
この歳の子供は見た目を重視するのだろうか?
まぁ、動きを見るに無理な行動はしていなかったようだし、問題は無いと思うが……剣が一つだけと言うのは少し問題だ。
こういう剣は非常に脆い。
折れることもあるだろうし、狭い場所では活躍することができない得物である。
流石に解体用ナイフくらいは持っているようだが、長物を得意とするのならばナイフでの戦いは不向きになるだろう。
「その剣を購入したのはどの店だ?」
「えっと……あそこ。ロング工房。主に長い剣を取り扱っているところだよ」
「ふむ……ま、そこでもいいか。いくぞ」
「? うん」
主に、という事なのであれば、普通の剣もいくつかあることだろう。
とりあえずジグルに一つくらい剣を買ってやることにする。
これだけだといざという時に戦えなくなる可能性があるからだ。
それに、これからユリーに頼みに行くんだから、それなりの装備を整えておいた方がいいだろう。
なんせあの性格だ。
先生気質ではないのは確かだし、教えるのも下手そうだからな。
出来るだけのことはここでやっておくのがいいだろう。
ロング工房の中に入ると、そこには槍やロングソード、他にも長弓やランスと言ったような武器が多くあった。
確かに長めの武器が多い店だ。
だがその中にも短い剣はあるようなので、その中からできるだけ良い物を選んで行くことにする。
「兄さん? 何か武器が欲しいの?」
「俺のじゃない。お前のだ」
「え!? 俺武器買えるようなお金持ってないよ!?」
「俺が持ってるから心配すんな」
「ええ! いやいいよ! 自分で買うから!」
ジグルは両手を置きく振って、俺がしようとしていることを止めようとしている。
だがしかし、武器が一つだけと言うのはよろしくない。
ここは無理にでも持ってもらったほうがいいので、俺はそれを無視して剣を選ぶ。
「これだな」
「聞いて!?」
俺が選んだのは片刃のハンティングソードだ。
ジグルのロングソードは背中に背負っているので、左腰は空いている。
なので邪魔になるようなことは無いだろう。
しかしちょっと値段が金貨二枚と高めだ。
まぁ、今の俺にははした金になっているような気がするのだが……。
金貨二枚くらいなら別に減っていても問題ないだろう。
ジグルにはまだ手が出ないようなものばかりだから、遠慮するのも無理はないが、武器は高くて良い物を持っていた方がいい。
これに自分の命を預けるのだ。
半端なものを選んでは逆に自分の身を危険にさらすことになってしまう。
恐らくだが、ジグルの持っているロングソードも、あまり良い物ではないだろう。
だが自分の得意な獲物は、自分で購入したほうがいい。
人に購入してもらったものと、自分で購入したものとでは価値観の差が出てきてしまうからだ。
と、いうことで俺は金貨二枚を払ってハンティングソードを購入し、それをジグルに無理やり手渡した。
「ジグル、これは冒険者になった祝いの品だと思っておけ」
「ええ……でも……」
「子供が遠慮なんてするな。これを買った意味は、先生になるユリーから聞くんだ。いいな?」
「わ、わかった。有難う」
ジグルは大切そうにその剣を腰に差した。
鞘には何かの動物の皮が巻かれているので、ジグルの装備を全体的に見てもその武器だけが浮いているということは無い。
どうやらジグルはその姿がしっくり来たようで、手を柄において自分の姿を満足そうに見ていた。
ここでの用件は終わったので、そろそろ本当に冒険者ギルドに行こうと外に出る。
その時、ジグルと同じ年齢の少年少女がこちらを指さして何やらひそひそと話しているのが見えた。
ジグルもそれを見つけたようで、その子達と目が合うと、その少年少女はこちらに向かって歩いてくる。
「ジグル、お前何してんだよ」
その中のリーダーらしき少年は随分と威圧的な声で話しかけてきた。
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