第五章 冬の怪物宴(モンスターフィースト)

5.1.作戦会議


 さて、やらなければならないことが沢山ある。

 まずは俺たちの役割を決めなければ。


 ここにいるのは俺と零漸、ウチカゲ、アレナ、鳳炎。

 まぁ霊帝のメンバーと、シャドーアイの二人だ。


 ギルドマスターであるマリアは、王にこの事を説明しに行く為に城へ向かってしまった。

 とりあえず俺たちだけで話をまとめなければならなさそうだ。


 冒険者たちの事はビッドに任せておけばいいだろう。

 今頃は下で冒険者をかき集めている事はずだ。

 マリアは城に行って騎士たちの援軍を要請しているだろうし、戦力としてはもう考えることはなさそうだな。

 後考えなければならないことは……。


「俺たちの動きだな」

「応錬様、こちらには零漸殿がおります。零漸殿の土地精霊で整備自体はすぐに完了するでしょう」

「任せろっす!」


 確かに整備だけはすぐに終わりそうだな。

 だが一体誰がそんなことをしやがったのだろうか。


 俺たちはとりあえずあのダンジョンを攻略はしたけど、全ての敵を倒しているかと聞かれるとそうではない。

 極力戦闘は避けてきたからな。

 時々でっかいボス的な奴は居たけど、それは全部倒しただろう。

 また鏡が出てこなければ、この三人が負けるはずはない。


 だがダンジョン攻略には少々時間がかかってしまった。

 三人がダンジョンに潜ってこちらに帰ってくるまでには、地上での戦闘は終わっている可能性が高い。

 なので、地上での戦いは俺と鳳炎だけで指揮を取っていなかければならないかもしれないな。


 とは言え……俺に部隊を指揮する能力なんてないぞ!?

 いや、別に俺がしなくてもいいのか……。

 ここにいるとなんでか知らないけど上の立場に居る人物と錯覚してしまうな……。


「ってそうだ、まだ被害は出てないのか?」

「え、あっ! はい! ギルドマスターが確認をした時は、まだ魔物は上に流れてはいなかった様です!」

「でも……早く行った方が良いよね……?」

「アレナの言う通りっすね。さっさと行かないと。被害が出てからじゃ遅いっす」

「私もそれが良いと思う。まだ店は開いているはずである。準備だけは怠るなよ?」

「分かってるっす」


 零漸とウチカゲとアレナは、準備を整えてすぐにギルドを出て行った。

 零漸には魔道具袋を渡しているので、荷物や素材の収集で困ることは無いだろう。

 めっちゃ便利だったからな、あの魔道具袋。


 次は俺たちの行動だ。

 実際俺は何をすればいいんだ?


 そんなことを考えていると、いきなり鳳炎が仕切り始めた。


「クライス、ティアラ。どちらかは偵察に行ってくれないか? 敵の戦力をしっかりと把握しておきたいのだ」

「わ、私が行きます!」

「ではティアラ、頼んだぞ。クライスはオーク討伐に向かった冒険者を調べてはくれないか? あれはたしか魔物の斥候だった可能性があるとして報告が上がっていたはずだ。それと何か関係があるかもしれなんからな」

「うっす!」


 指示を聞いた二人は、すぐに部屋から出て行ってしまう。


 な、なんだ鳳炎。

 お前結構馴染んでるじゃないか。

 このギルドに。


 伊達に長い事ここにいるわけじゃないらしいな。

 おかげさまで俺の仕事が減ったぞ。


 ていうか……オークが魔物の斥候じゃないかって奴、あれ俺が報告した奴だよな。

 あの受付嬢にはめっちゃ振り回されたけど。


「……で、俺は何すればいいの?」

「Cランク帯でギルドの事務仕事が出来るとも思ってないので、応錬は実際に戦場に出てもらう形になる」

「なんか癪に障るけど、とりあえず置いておこう。だが俺はマリアからここにいてくれって言われているぞ? 防衛とか言ってたけど」

「だから部隊の編成を今から考えるのだ」


 鳳炎はそう言うと、マリアの部屋をごそごそと漁り始め、大きな地図を出してきた。

 それはこのサレッタナ王国の全体図の様で、随分と事細かく書かれている物だ。

 地図を机の上に広げ、隅に重しを置いて幾つものコマを用意する。

 それをギルドがある場所と、南西に置いた。


 どうやらこれが俺たちの戦力や、部隊の編成を表しているコマらしい。

 冒険者、騎士、上級冒険者と様々な形のコマがあるようだ。

 敵として表すコマは印鑑みたいな楕円形らしい。


「応錬に説明するぞ。まずここが冒険者ギルド。そしてここが西の門である」


 西門から冒険者ギルドまでは少し距離があるようだ。

 ここを拠点にしていては駄目なので、鳳炎は西にある騎士団育成所を拠点にするとした。

 そこにコマを置き、南西に大量の敵コマをばら撒く。


「残念ながらこの国に南西の門は無い。なのでこちらから出兵する時は一番近い西の門から出ることになる。だが、未だ敵軍勢の数、距離、その種類すら分からない為……」


 鳳炎はそこまで言ってから、コマを動かし始める。

 騎士団のコマと上級冒険者のコマを城壁の外に出し、冒険者のコマを中に引き入れた。


「経験のある冒険者や騎士団は前に出し、経験のない冒険者は防衛に努める。だが物資を運ぶのは冒険者の仕事だ。前線の状況に応じて物資を運ぶ経路、必要であれば援軍なども出すように努める」

「だけど強い者ばかりを外に出していいのか? 少しは中に置いておかないとマズいんじゃ?」

「それは大丈夫だ。私と応錬がいるからな」


 随分と評価してくれているようだが……そんなに俺役に立たないかもしれないぞ……?

 なんせこんな大規模な戦闘初めてだからな……。

 俺一人でできる事なんてたかが知れていると思う。


 あ、でもマリアもいるから大丈夫か。

 それなら安心だ。


「……あ、そう言えば」

「なんだ?」

「この国って冒険者と騎士団の仲っていいのか? なーんか騎士団ってお堅いイメージあるから、自由に活動できる冒険者とは相性が悪そうだなって思ったんだけど」

「仲か。クッソ悪いぞ」

「……いいのか? 本当にそいつら一緒に前に出して良いのか!?」

「何を言っている。だから良いのではないか」


 いやお前が何言ってんねん。

 普通に考えて仲悪い奴らが手を取り合って敵を倒すとか無理だろ!

 戦闘でそんな感情出す奴使えないに決まってるぞ!


 だが、鳳炎はそれで良いと何度も頷いているように見える。

 マジで何故それで良いのかが分からん。 


「競い合うからな」

「…………」


 良い……のか……?

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