5.30.Side-零漸-魔水晶捜索


「零漸殿! どうですか!?」

「まだっす! でもあっちっすよ!」

「了解です!」

「おっけーい!」


 ダンジョンの中で魔水晶をずっと捜索していると、なんとなく場所が分かるようになってきた。

 だから俺は今迷わずに魔水晶の埋めてある場所を見つけることができるっす!


 これは土地精霊の技能なんすかね?

 それか大地の加護っすか?

 その辺はちょっとわからないっすけど、これで大幅に捜索時間を短縮することが出来るっすよー!


 でもダンジョンの中での魔水晶捜索は本当に骨が折れたっす……。

 アレナのマップのお陰で最短距離で行けたっすからね。

 とは言ってもあの広さのダンジョンをこの三日間で調べつくすのは本当に疲れたっす。

 途中で足の感覚が無くなった時は本当にどうしようかと思ったっすけどね。


 敵が一回も出てこなかったことが唯一の救いだったっすね。

 本当に何も出てこなかったっすから、ちょっと不気味だったっす。


「! あったっす!」

「離れます!」


 ウチカゲはアレナを担いで一瞬で距離を取る。

 俺は周囲に人がいないかどうかを確認した後、すぐに握りこぶしを作って地面に叩きつけた。


「『爆拳』!」


 地面を殴った瞬間、爆発が起きて地面が抉り取られる。

 土が宙に舞う中、一つの綺麗な丸い水晶がぽーんと放り出された。

 それをキャッチして、また違う技能を呟く。


「『魔力吸収』」


 この魔水晶にはムカデが入っていたが、俺が魔力吸収を使ったと同時に萎んで死んでしまった。

 魔水晶は綺麗な水色から、だんだん色あせて普通のガラス玉になる。


 魔水晶は魔力を籠められている物っす。

 地の声がそう言っていたので間違いないはず!

 だから俺はこれに魔力吸収を使えばMPを回復できるのではないかと考えたっすけど、その読みは当たっていたみたいっす!


 土地精霊で探すとMPをどんどん消耗してしまうっすから、効率が悪かったんすよね!

 でもこれに変えてから地面を動かす必要もなくなったし、MPも回復できるようになったので効率がグンと上がったっす。

 流石に土地精霊の連発は走るよりもきつかったっすから、正直本気で助かったっす……。


 魔水晶が灰色になった事を確認したので、それをすぐに投げ捨てて割る。

 これは壊しておいた方が良い物っす。

 ちょっと危ないけど、これは処理は早くしておいた方が良いっすからね。


「零漸殿! 次は何処ですか!」

「こっから右に行ったとこ……ってウチカゲ! 後ろ!!」

「っ!」


 家の影からムカデが出てきた。

 その口は真っ赤に染まっている。


 影から出てきたから全然気が付かなかったっす!


「『重加重』」


 ベチン!

 という音と共に、ムカデが地面に押し付けられる。

 それを確認したウチカゲは、ムカデの頭を思いっきり蹴飛ばした。


 頭は何の抵抗もなく千切れて吹き飛んでいき、ムカデの動きが止まる。

 それと同時にアレナの重加重も切れた様だ。


「大丈夫っすか!」

「すいません、油断していました……」

「ウチカゲが察知できないなんて珍しいっすね」

「これだけうるさいと分かりにくいんです……。すいません」


 かくいう俺も油断してたっす。

 今まではダンジョンの中にいたけど魔物は出てこなかったっすからね。

 ここでは違うっていうのを再確認出来っす!


 でも……これ結構やばいんじゃないっすか?

 あちこちで悲鳴やら爆音やらが響いてて救出どころの騒ぎじゃないっす。

 皆混乱してるし、冒険者の呼びかけにも応えてくれていないっすよ……。


 周囲を見てみれば、街はボロボロだ。

 あのムカデは大きさこそ違うが最低でも二メートル程の大きさはある。

 大きいものになれば五メートルを越えているだろう。

 それが街の中で湧いて周囲の人間を見つけてはくらいついて行くのだ。


 大きい魔物に対抗できる冒険者がどれだけいるか分からないし、ここにいる人たちは殆どが非戦闘員。

 逃げることしかできない人が殆どだ。


「ウチカゲにはムカデの駆除をお願いしたいっす!」

「任されました!」

「アレナはー!?」

「ウチカゲについて行って欲しいっす! ウチカゲの速度に耐えれるのはアレナだけっすからね!」

「わかった!」


 二人は俺と行動するより人を助ける方がいいっすよね!

 ウチカゲは機動力があるから沢山のムカデを屠ることができるはずっす。

 アレナの技能は遠距離っすから、二人のコンビネーションで立ち回ってくれたらほぼ確実に対峙したムカデは殺すことができるっすからね!


 アレナはウチカゲの肩に乗って、それを確認したと同時に消えてしまう。


 見えない程の速度で動くのだから、敵は何もわからない内に死ぬはずっす。

 幸いムカデ自体はそんなに強くないっすから、冒険者でも何とかなるっすよね!


「うわああああ!」

「子供っすか!? それはほっとけないっすー!」


 魔水晶のある方向は真逆だが、人命救助も大切っす!

 見捨ててこっち優先とか寝つきが悪すぎるっすからね!

 ……目覚めだったっけ……?


 子供は近くにいたのですぐに見つけることができた。

 どうやらムカデ二匹から逃げているらしい。

 それくらいであれば簡単に対処できるっす!


 子供とムカデの間に割り込んで、ムカデ一匹を爆拳で吹き飛ばす。

 もう一匹は丁度射線上にいたはずなので、これで一緒に吹き飛んでくれているはず。

 そう思って構えを解いた瞬間、爆拳の煙で見えなかった脇からムカデの胴体が走っていっているのが見えた。


「んえ!? 回避したっすかぁ!?」


 あんなに速く動くとか聞いてないっす!!

 知らないっす!!

 これじゃ……間に合わないっすね!


 ムカデは今にでも子供に嚙み付こうとしている。

 もう間に合わないと、子供も諦めたのか、次に来る衝撃に備えて目を瞑ってしまう。

 キュッと頭を抱えて丸くなったが……次に来た衝撃は噛みつかれた時の痛みではなく、突風だった。


「んんんんっ!? なんすかなんすか!」


 これは俺のじゃないっす!

 誰かが助けてくれたんすかね?

 それならそれでよかったっす!

 とりあえず子供に身代わりかけておいたっすけど、意味なくなっちゃったっすねぇ。


 でも誰っすかね?

 お礼だけでも言っておかなければ!


 そう思って魔法らしき物が飛んできた方向を見てみると、そこには三人の子供を引き連れた女性が立っていた。

 魔女っぽい帽子はサイズがあっていないのか、少しぶかぶかで手で押さえて目が隠れない様に支えている。


「もー何なのよー……。魔法なんて久しぶりに撃ったわ……」

「先生すごーい!」

「は、早くあの子を!」

「そうだった!」

「ああ、ああ! ちょっと待ちなさいって! 子供だけで行くんじゃありません! 危ないんだからー!」


 女性と子供三人は、俺を無視して子供の方に走って行ってしまった。

 こういう時はどうすればいいのだろう。

 ちょっと考えてから出てきた言葉は……。


「え、俺……無視っすか……」


 これだった。

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