3.63.Sランク冒険者の実力
ガタゴトと音を鳴らしながら馬車が移動していく。
今の所大した魔物も出てきていないので、比較的安全に進むことができていた。
魔物が出てきて一番気を付けなければならないことは、馬に攻撃を与えさせないことである。
馬がやられてしまえば逃げるどころか馬車を動かすことができなくなるため、必ず一人は馬の近くで魔物から馬を守らなければならない。
とは言ってもアレナの技能がとても優秀なので、馬が危険な目にあったことは今までに一度もない。
こちらに来る前に、動きを封じてしまうため防衛の必要がなかったのだ。
スターホースも今まで一度も身の危険を感じたことがないのを理解しているようで、自分を守ってくれているアレナによく懐いているようにも思える。
前鬼の里を出発してからずいぶん経つが、俺もアレナも魔物討伐は既に手慣れたものだ。
時折薬草を見かければ、そこに寄っていくつか摘んで帰ってくる。
これは俺もやっていることで、こうして回復ポーションの素材になる物を沢山回収することができていた。
図鑑もないのにどうやって薬草の種類を見分けているかと言うと……。
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―ヒポ草―
この世界に多く群生している薬草。
回復ポーションの素材となるが、国の周辺では乱獲が続いており、今では森の中まで進まないと十分な量の薬草を採取できなくなっているのが現状である。
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―ポズ草―
この世界に多く群生している毒草。
薬草であるヒポ草に非常によく似ているので間違われやすいが、少量であれば摂取しても問題はない。摂取したとしても腹を下すくらいで済む。
見分け方としては、茎の根元が紫色に変色しているので、それを目安に見分けると良い。
切り取ってしまうと非常に見分けがつきにくいが、光に当てると葉の裏が少し暗くなるので、それでも見分けることは可能である。
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天の声に、これが本当に薬草かどうかを確かめてもらっているので、間違いはない。
時々毒薬の元となる薬草も生えていたので驚いたが、これも天の声の説明で全て回避することができた。
今回ばかりは礼を言うぞ、天の声。
「応錬、摘んできたー」
「おし、じゃあそれも確認するから広げておいてくれ」
「はーい」
アレナに持ってきてくれた薬草を広げてもらい、それが本当にヒポ草かどうかを確認していく。
頭の中に同じ言葉が流れ続けるのが少し厄介だが、これも必要なことなのでちゃんとやっておかなければならない。
毒草を売りつけてしまったら詐欺もいい所だからな。
勿論ちゃんと確認はしてくれるだろうが、それでもこういったことは無いように心がけたい。
冒険者は他からの信用も大切だというし、はじめの一歩で躓くのはよろしくないだろう。
俺が全ての薬草を馬車の中で選別している中、隣とその正面に座って体を休めている二人が火花を散らすように睨み合っている。
「……」
「……兄貴」
「なんだ」
「なんで! なんでこいつがこの馬車に乗ってるんすか!」
「行先は同じなんだ。別に問題ないだろうが」
「かもしれないですけど! けどぉ……」
零漸の言いたいことはわかる。
あれだけ喧嘩しておきながら、同じ席に座るのが不満だという事もよくわかるが、これも今後のためにやっておきたいことなのだ。
こういう所で信用を得ていけばいいのだ。
零漸はまだそういうことに関しては感情で動いてしまう節があるようなので、あまり強くは言わない事にしてはいるのだが……こういうことにも冷静に対処できるようになってほしいものである。
零漸の名前も、そういう意味でも付けたからな。
だが、不満に思っているのは零漸だけではなく、ユリーも同じように思っているようで、常に口をとがらせて不機嫌そうな表情をしながら馬車の中で座っていた。
その隣にはローズもいる。
ローズは愛想笑いを浮かべて零漸の言葉を聞いていたが、いつまたユリーが怒りださないかハラハラしているようでもあった。
「お前も子供だな。大人になれ零漸」
「今年十八歳なんですけど」
「子供じゃねぇか!」
再確認したけど若いな零漸!
確かにその年齢でこじらせているような見た目しているだけはあると思うけど!
だがやはり十八歳は子供だ。
わからないこともや理不尽なことに幾度となくぶつかるだろうし、こういうことには感情的にならないようになってほしい物である。
「応錬ー! 魔物!」
「わかった、すぐに行こう」
アレナが魔物の接近を教えてくれたので、薬草を選別するのを中断して馬車の外に出ようとする。
が、出る前にローズに止められてしまった。
「応錬さん!」
「ん? なんだ?」
「私達に任せていただけませんでしょうか? ただでのさせてもらっているのも気が引けますので」
「それもそうか。じゃ、任せようかな」
「はい! ほら行くよユリー」
ローズは杖を持ち、ユリーは不機嫌そうに隣に置いてあった戦斧を担ぎながら馬車を降りた。
Sランク冒険者の戦いを見れるいい機会なので、俺も外に出て見学をさせてもらうことにすることにした。
零漸はついてこなかったが、まあ別に問題はないだろう。
外に出てどんな魔物が出てきたのかを確認してみると、そこには大きなバッタのような魔物が六匹ほど飛んできていた。
人ほどの大きさがあるため、その気持ち悪さが引き立ってしまっているのであまり直視はしたくないのだが……そんなことをしてこちらに矛先が向いてしまえば目も当てられないので、しっかりと動きを見ておく。
「ウチカゲ、あれなんだ?」
「バグレグアですね。木とかを好んで食べますので、この馬車を狙ってきたのでしょう」
こんな小さい加工された木材狙わなくたって、そこらへんに齧れる木はあるだろうに。
と思ったのだが、どうも生えている大きな木は食べることができないらしい。
というのも、バルレグアは木の皮だけは齧ることができないそうなのだ。
なぜ木は齧れるのに木の皮は齧れないのか不思議ではあったが、その辺にはあまり深く突っ込まないようにしておく。
普段は小枝とかを食べているらしいのだが、こういった加工された木材はバグレグアにとってはご馳走らしい。
「よーし、ユリーいつものお願いねー」
「はいはい」
二人は敵を視認すると、すぐに自分の持っている武器を構えた。
ユリーは戦斧を下段に構え、右足を軸にして少しだけ体を横に向ける。
「……『一閃斧』」
ユリーが戦斧を振り抜くと、その軌道上にいたバグレグアが両断された。
どうやら俺の技能、天割と同じように斬撃を飛ばすことのできる技能なのだろう。
なぜあれを零漸と戦っている時に使用しなかったのかはわからないが……まあ、あれを使用しても零漸には届かなかっただろう。
ユリーはそのまま三回斧を振り回し、的確にバグレグアを討伐していった。
両断されたバグレクアは痙攣しながら息絶えたようだ。
虫とはいえ流石に両断されてしまえば、生命力の高さも意味をなさないのだろう。
「ふん! こんなものね! 後はよろしく!」
「えー……ここまでやったなら全部やってよー」
「あんたもあいつらに力見せたいんでしょ? ほらさっさとやる!」
「バレてた……」
自分から志願して討伐を請け負ったんだ。バレるに決まっているだろう。
しかし自分から志願してくれたのはありがたい。
ローズは魔術師っぽいし、魔術を使ってくれるかもしれない。
イルーザに技能と魔術の違いを教えてもらいはしたが、結局のところ学べる機会は今までに一度もなかった。
魔術と言っても技能に使う魔力をどうやって変換したらいいかもわからないし、見たことすらない。
前鬼の里で学ぶことができればいいかなと思っていはいたのだが、鬼達は魔術よりも接近攻撃や技能を扱う方に長けているため、そもそも教えれる鬼がいなかったのだ。
技能とは違う魔術には興味があるし、今持っている技能がもっと強くなるかもしれない。
まだ魔術とやらは見ていないが、ローズがそれを使ってくれることに期待しつつ、その戦闘風景を見させていただこうと思う。
「『水弾』、『ライフルウォータ』」
懐かしい技能の名前が出てきた。
周囲に小さな水の玉が出現し、ローズが次にライフルウォータと詠唱すると、その形が丸い水弾ではなく、銃弾のような形に変形した。
その変形したライフル水弾をバグレグアに向けて発射する。
その弾速は目で追うことはできず、気が付いたら水が消えていて、気が付けばバグレグアが倒れていた。
「ふーむ、あれなら俺も出来そうだな」
「……もう驚きませんからね」
「ん? なんか変なこと言ったか?」
目に見えない速度で発射できるかどうかはわからないが、イメージとしては簡単そうだ。
もしかして火薬の入っている部分に空気圧縮で空気を貯めておけば、エアガンのように水弾を発射できるのではないだろうか?
まあ言うは易し行うは難し。
イメージは整っていても出来るかどうかはわからないからな。
あとでローズに教えてもらうことにしよう。
「よし! じゃあ剥ぎ取りますか」
「アレナ手伝うー!」
「バグレグアは目玉が高価なの。傷つけないようにしてちょうだいね?」
「はーい!」
三人はバグレグアの解体作業に入っていった。
剥ぎ取りには時間がかかるので、俺達の場合は零漸の爆拳で燃やしてから行くのだが、今回はあの二人が狩ったのでやりたいようにさせておくとしよう。
「ここはあの三人に任せておいてもよさそうですね」
「そうだな。しかしSランク冒険者ってあんなもんなのか?」
「声が大きいですよ応錬様。普通斬撃を飛ばすなんてできないんですから、ユリー殿はとても良い腕を持っていると思います。俺は魔術に関しては疎いのでローズ殿がどれくらいすごいのかはわかりかねますが」
ふむ。となるとまず人間の常識を勉強しなければならなさそうだな。
道中で話を聞かせてもらうことにしよう。
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