6.33.問題発生
俺たちは現世に帰って来た。
歓声を浴びながら、ラックは地面に降り立った。
その後にウチカゲとアレナも門から出てくる。
それを確認したシムは、ほっとした表情をしてようやく門を閉じた。
「母様ー!!」
「はいはい。全く……」
姫様は俺を連れてシムに抱き着きに行く。
何故俺までと思ったが、まぁ今回は抵抗するのはよしておこう。
二人は泣いていない。
姫様が笑顔で再会を喜び合っている所を見て、全員がほっとしているようにも思える。
ラックの方を見てみると、ライキが鬼たちによって丁寧に降ろされていた。
どうやら技能の反動でまともに立てないらしい。
一人の鬼の肩を借りて、ようやく立てている状態だ。
休んで回復すればいいのだけど……。
もうライキも歳だろうし、無茶するのは良くない。
でも、ライキが来てくれたから今回はあいつに止めを刺すことが出来た。
そこは素直に感謝しておかなければならないな。
「ライキ様大丈夫ですか?」
「ほほほほ、こりゃしばらく動けんわい」
「誰か荷車を用意してくれー!」
お爺ちゃん荷車に乗せるんだ……。
結構扱い雑いんですね。
でも鬼だからなぁ……そう言うのも許されるのか。
ライキはそのままラックに背を預けて休んでいる。
やっぱりラックって意外と良い奴だよなぁ。
悪戯して遊んでたみたいだけど、多分あれ狭い場所に閉じ込められて長い事空を飛べなかったからストレスがたまってたから、意地悪してただけなんだろうね。
帰ったらローズに教えておこう。
待遇改善をしてもらうのだ。
「あの……」
「なーにー?」
「何でもないです……」
アレナはウチカゲに連れて帰ってもらってから、すぐに子供鳳炎を捕まえて遊んでいた。
一日しか楽しめないので、思う存分弄り倒したいのだろう。
鳳炎に限ってはもう諦めてるな……。
ていうか俺たち、よく一時間で帰ってくることができたな。
できるかどうかわからなかったけど、まぁ良かった。
皆帰ってこれたし、もう何も言うことは無い。
そこで、テンダが片手を掲げて声を上げる。
「皆の者!!」
その声を聞いて、歓声がだんだんと静かになる。
完全に周囲が静かになり、テンダに目線が集まったのを確認した後、また叫ぶ。
「鬼共よ! よくぞ生きていてくれた! 怪我人は多いが、死人はおらぬ! この戦いで誰一人として死人が出なかったことを、俺は嬉しく思う! そして、ガロット王国兵士たちよ……! 事態を察知して来てくれたこと……感謝する! 荒れてしまったこの里に物資を持ち込んでくれた。それにどれ程助けられた事か!」
テンダの演説を、全員が真剣に聞いている。
当たり前のことをしたと言わんばかりの面構えに、テンダは胸が熱くなる。
しかしそれを表に出すことはない。
「そして! 姫様を助け出すことが出来た! 応錬様が姫様を助け出すのを手伝ってくださったのだ! 良き日である! 我らは戦に勝てたのだ! これは戦場に赴いた俺たちだけに称賛されるものではない。生きていてくれたお前たちも、称賛に値する! 我らは勝ったのだ! 悪鬼に! それも強大な敵に!」
テンダはそこで両手をパンと合わせる。
それだけで空気が震動し、その場にいた全員の体の奥に衝撃が伝わった。
「今こそ
『『『『『『『おおーーーー!!!!』』』』』』』
『『『おおおおーーーー!!!!』』』
全員が思い思いに叫び声を上げる。
統一感は無いが、その勝鬨を上げる声はガロット王国にまで響く物であったように思えた。
凄まじい轟音だ。
これには流石のガロット王国の兵士たちも耳を塞いでいる。
だが……全員が楽しそうだ。
耳を塞ぎながらも、声を上げている者もいる。
全員が鼓舞されているようにも思えた。
うるせぇー。
でもめっちゃいいなぁ、こういうの。
やっぱ戦いの後はこういうの欲しいよね。
ガロット王国では無かったからな。
歓声が轟く中、テンダはそれに負けない声でまた叫ぶ。
「今日は宴だ! ある物全て持って来い!」
『『『応!!』』』
それからの行動は速かった。
鬼たちはすぐに散り散りになって準備をし始めていく。
流石鬼……宴のことに関しては本気ですね。
よし、俺も宴に混じりたいし、そろそろ戻ろうかな。
……。
あれ?
……え、っと……あれ、おかしいですね。
人間の姿に戻ることが出来ない。
いや、俺の場合人間の姿に擬態することができませんと言った方が良いのかもしれないが……。
え、ちょっと待って?
どうして何も起こらないのですか?
MP100使おうとしてるけど、全然減ってくれない……。
おい、おいおいおい!
おう久しぶりだな天の声!
ちょっと今の状況教えてもらってもよろしいですかねぇ!?
【元の姿で固定しました。人間の姿になりたい場合は、進化してください】
わぁあっつ?
ごめん、今君が何言ってるのかよく分からない。
もう少し噛み砕いて教えていただけないでしょうか?
【龍の成り損ないは、中途半端な存在です】
辛辣だねぇ??
天の声……もとい辞書のくせにめっちゃ言うじゃんこの野郎。
てかお前が選んだ進化先だろうが。
何してくれてんだよ。
【よって、存在が個として確立するまで人間の姿になることはできません】
ざっけんじゃねぇぞこらああああ!!!!!!
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