7.25.密会場所
男っぽい見た目の女で魔女の格好してる奴って言ったら、イルーザしか俺は思いつかない。
声を聴いてようやく女性だと理解できたからな。
ちょっとぶかぶかの帽子被っていたのが印象的だったけど。
だが……え?
どうしてあいつが魔水晶のことについて知っているんだ?
いやいや、全く分からん。
「それは本当か!? 誰だ!?」
「ちょ、ちょっと鳳炎!」
アレナとリゼが興奮して俺に問い詰める鳳炎を止める。
その意味に気が付いたのかパッと顔を上げて周囲を見てみると、数人の人物が不思議そうな表情でこちらを見ていた。
今の鳳炎、魔物である俺に話しかけているヤバい奴なんだよなぁ。
声が聞こえるのは俺たち転生者だけなんだから、もう少し注意してもらいたい……。
いやそうなるのは分かるけどね?
「ぐぬ……。まずはドルチェの所に行く方がよさそうだな」
「え、ええ。そうしましょう」
まぁ道案内は俺がするんですけどね。
とりあえずこれから先の会話はドルチェのいる場所で行うことにする。
これからも使うことがあるかもしれないので、俺が人間に戻ったらしっかりと話をしておくことにしよう。
そう言えば奴隷の話はどうなったのだろうか?
あれからは王族と奴隷長のドルチェに投げたまんまだったから話は聞いていない。
ついでに聞いてみるのもいいかもしれないな。
『こっちだ。ついてきてくれ』
まずはドルチェの所に案内しないとな。
◆
目立つような、目立たないような色合いのドーム型のテント。
そこに奴隷商のドルチェは拠点を構えている。
とりあえず三人には大きな声を出さないようにとだけ伝えて置き、中に入ったらあるであろう鈴を鳴らせと言っておく。
こうしないと中にいる奴隷や魔獣が少しの間暴れてしまうからな。
初めて奴隷商のテントに入る鳳炎とリゼは少しだけおどおどとしながら垂れ幕をくぐった。
さすがにどんな場所かということは想像がついている分、怖いのだろう。
だがアレナは周囲を見て興味深そうにしていた。
こいつは一度ここに連れてこられたらしいからな……。
「こ、これであるな……?」
机にぽつんと置いてあった鈴を手に取り、軽く鳴らしてみる。
すると心地の良い音色が響き渡った。
奥から微かにしていた鎖の音や唸り声もそれと同時に静かになっていく。
『グ……?』
「ど、どうした?」
『その鈴……の音か? 凄く眠くなる……』
「魔道具か……」
俺の種族は龍の成り損ないで、中途半端な存在だとは言われたが魔物は魔物。
こうした道具は効くようだ。
人間の姿でいる鳳炎とリゼには効かないようだな。
俺は顔を振って眠気を吹き飛ばす。
すると、奥からニコニコとした表情でドルチェが現れた。
だが鳳炎の姿を見て少し驚いたようだった。
「こ、これはこれは鳳炎殿……! あいや、お初にお目にかかります。私ここのオーナーをしております、ドルチェ・ナイラルと申します。ここでは従魔を使った移動手段を提供……して……お、り……」
ドルチェの言葉が次第に詰まっていく。
それは鳳炎が訝し気な表情をしていたり、変な蛇がいたからではない。
完全に言葉を途切れさせたドルチェはただ一点を向いている。
その目線は、アレナの方を向いていた。
「あ、アレナ……!?」
「へへ~。久しぶり!」
「おお、おお! アレナですか!?」
ドルチェはすぐにアレナの側に駆け寄り、目線を合わせて頭を撫でる。
アレナが一度ここにいたことは知っていたが、ここまで良好な関係だったとはな……。
さすが、ドルチェは子供の奴隷に対しては優しかったようだ。
「おお、随分立派になりましたな! あの白い頭のお客様は?」
「応錬のこと?」
「ああ、応錬殿というのですね」
あっれ、俺名前名乗ってなかったっけ……?
まじかごめん……。
「今はいないよ。でも応錬が助けてくれたの」
「あの時帰って来た時に気が付けばよかったですね。そうかそうか……!」
「あ、アレナちゃん? 大丈夫なの?」
「んー? なにがー?」
アレナが奴隷だったという事を知っているリゼは、少し心配そうにそう話しかけた。
この関係を見ていれば問題ないということは分かるけどな。
彼女としては心配なのだろう。
だがこいつは大丈夫だ。
それは俺が保証しよう。
「はははは、子供たちにはこうしてよく懐かれます。孤児院の経営もしておりますからね」
「……奴隷商なのにか?」
「知っておられましたか。まぁはい、何の罪もない子供が、奴隷に落ちるのは思うところがありまして。今では鳳炎殿のパーティーが王子にこの事を提言してくださり、孤児院への寄付や子供奴隷解放の活動も始まっているのです。奴隷は、罪を成した者だけが成るのが良いのです。まだ始まったばかりなので、問題は沢山あるのですがね」
ドルチェは頭を掻きながら、最後にそう言った。
とりあえず子供たちの問題は何とかなってきているらしい。
まだまだ時間がかかることだが、これを機により良いものになっていくことだろう。
「して、どういった御用ですかな?」
「あのね、ドルチェの持ってる静寂で、お話がしたいの」
「なるほど、密会でしたか。この場でよければすぐにでもお貸ししますが」
「頼めるか?」
「勿論でございます。それとですが……」
ドルチェはそう言い、俺の方を見る。
「これはお売りになるご予定で?」
『おい!!!!』
「ブフッ! い、いや! 売らないぞ! ふはははは!!」
流石に同情の目を向けてくれたアレナとリゼだった。
やめて悲しいから……。
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