2.32.一夜
「見張りは四回に分けて交代する。振り分けはいつもの通りだが、三番目が担当の者はもう寝ておけ」
テンダは全員で三十二人の鬼たちを振り分けて担当を決めていく。
三十二人と言っても姫様と奥方は見張りをしないので見張りの担当をする者は合計で三十人である。
一番目に見張りをするのは六人。
二番目も七人で三番目が一番多い十人。
そして最後の見張りが七人である。
その中で三番目にテンダが、四番目にウチカゲが入るようだ。
俺はもちろん……寝させられるらしい。
確かに睡眠は必要だが……何もしないというのは元日本人としてむず痒い物がある。
なので操り霞を見張りの手薄な場所に仕掛けておくことにする。
本当なら広範囲に設置しておきたいのだが……それだとMPの消費が激しすぎてすぐにガス欠になってしまう。
今のMP量だと半径十メートルを一日維持しているだけで精一杯なのだ。
もっとMPの総量が上がってくれれば良いのだが……。
それかMP回復系技能が欲しい。
まだ夜は深くないので鬼たちは火を起こして今晩の夕食を作っている。
料理を担当していない鬼たちは残った魔獣を解体している。
んー……。
結構時間経ってるけど大丈夫かそれ。
だいぶ傷んでいると思うんだが……。
まぁ解体している時間なんてなかったしな。
米なんて持っていく時間もなかっただろうし……持ち運べても簡単な干し肉とか干飯くらいだ。
寝るところは薄い布を敷いた程度のものだ。
厚みのある布なんて移動の邪魔になるだけなので持ってきている者などは誰もいない。
勿論……姫様と奥方もその薄い布を地面に敷いて寝ることになる。
姫様は不機嫌だが……此処は堪えてほしい。
テンダ達も苦肉の策なのだろう。
「…………」
「ヒスイ。仕方がないでしょう? 今晩だけだから」
「…………」
「機嫌を治しなさいって……はぁ……」
ああ~駄目ですね。
めちゃくちゃむくれていらっしゃる。
シムの呼びかけ虚しくそっぽを向いてしまった。
ていうか俺的には魔獣の解体がとても気になるのだが……行かせてくださいよ姫様。
魔獣の解体とかそうそう見れるものじゃないんですから。
まぁ……抱きしめられていて逃げ出せないんですけどね。
あ~だーめだー抜け出せね~。
シムもお手上げ状態のようだ。
こうなってしまっては機嫌が直るのを待つほかなさそうだ。
女の子めんどくせー!
あーこれどうしましょうかね。
とりあえず夕食まで暇だな……。
「奥方様。姫様……?」
見張りの指揮をしていたテンダが戻ってきたようだ。
姫様に抱きしめられている俺を見て少し驚いているようだ。
こんななりでもとりあえず白蛇様だもんな。
崇めている対象がこんな事されていたらそりゃ驚きますよ。
怒ってはないけどテンダの顔が青くなっていってる。
「え……っと……」
おいおい頑張れ若大将。
もう少し威厳を保ってくれ~。
「ゆ、夕食の準備があと少しでできます。後程皆の所へおいでください」
「わかったわ。いいわねヒスイ?」
「…………」
「すぐに行くわ。テンダ」
「……では」
テンダは一礼をしてから皆の場所に戻って行ってしまった。
出来れば俺のことを指摘してほしかったのだが。
シムも何とか言ってくれよ!
俺は抱き枕じゃないぞおお!
抜け出そうとしても力が強すぎて一ミリも動けません。
なんてこったい。
シムが姫様を無理やり立たせて夕食を食べに皆の元へと向かう。
既に姫様のぬいぐるみと化している俺は抱かれたまま連れていかれることになった。
流石に他の鬼たちも引いている。
口々に「大丈夫なのかあれ……」だったり「祟られたりしないよな?」「巫女様だから大丈夫なのか? 失礼に当たらないか?」と言っているようだ。
だが俺には呪い系の技能はないのでとりあえず安心してほしい。
しかし姫様にはもう少し節度を持って接してほしいのだが……流石に絵文字じゃ伝えれないよな。
姫様とシムが来たことを確認した鬼たちは、作ったばかりの料理を持ってきてくれた。
流石に食器や料理道具だけはちゃんと持ってきてくれていたようだな。
大皿に肉と野菜。
そしてお椀にはスープが入っている。
この世界に来て初めてまともな料理を見た気がするな。
奴隷商人達に食べさせられていた肉はただ焼いただけだったからな。
この肉は何やらたれがかけられている。
普通においしそうだがこれ何の魔獣の肉?
「姫様、奥方様。こちらガピックのステーキです。少々歯ごたえがありますので細かくしてお食べになられてください」
ガピック? なんですかそれは。
あーでもステーキの分厚さからしてそれなりにデカそうな魔獣だな。
これ俺も食べさせていただけるのでしょうか……って思ってたら俺の分も来た。
やったー!
っく! 姫様?
マジでそろそろ放していただいてもよろしいですか?
食べれないんですけど。
えーっと……横に添えられている野菜は……キャベツっぽい野菜だな。
少しでも栄養バランスを整えようと野菜を出すのは良いことだ。
俺も食べたい。
味しないだろうけどあの触感は感じれるはずだ。
お椀に入っているスープは……お味噌汁ですか!?
見た目は完璧に味噌汁なんだけど……どうなんだこれ。
匂いがわからん。
あっ……俺の分無いのね……。
出された料理を食べたいので俺は首を伸ばすのだが……がっちり掴まれていてちょっとしか顔を伸ばすことが出来ない。
本当に……食べさせ頂けると嬉しいんですけどね!
姫様はそれに気が付いていないようだ。
逆にどうして気が付かないのか不思議でたまらない。
だが俺の行動に気が付いたシムが姫様に声をかけてくれたのでやっと解放された。
ナイスだシム。
姫様は名残惜しそうにしているが今は無視させていただこう。
俺は前に置かれたステーキにかぶりつく。
蛇だから味覚があまりない。
なので食レポは残念ながらできないが、やはり焼いた肉はなんだか触感が違う。
懐かしい感じだ。
剛牙顎を使わないと綺麗に噛み切れなかった。
結構硬い肉だ。
これは結構噛み千切るのも大変なのではないか?
って思ったけど鬼たち普通に食うじゃん。
顎の力も強いのね……。
めちゃくちゃおいしいのだろうけどやっぱり味覚があまりないので感動しないな。
とても残念だ……。
まぁ食べれたからいいけど。
【経験値を獲得しました。LVが30になりました】
あら美味しい。
結構強い魔獣なのかもね。
そういえば全然ステータス見てなかったな。
レベル上がってなかったし技能もあんまり使わなかったからなぁ。
久しぶりに見てみるか。
===============
名前:応錬(おうれん)
種族:ウドスネーク
LⅤ :30/50
HP :192/192
MP :275/275
攻撃力:203
防御力:252
魔法力:224
俊敏 :102
―特殊技能―
『天の声』『希少種の恩恵』『過去の言葉』
―技能―
攻撃:『剛牙顎』『狂酸毒牙』『連水糸槍』『多連水槍』『鋭水流剣』
魔法:『操り霞』『無限水操』『泥人』『破壊土砂流』『破岩流』
防御:『水結界』『水盾』『泥鎧』
回復:『大治癒』『広域治癒』『光合成』
罠術:『水捕縛』『偽装沼』
特異:『発光』『土地精霊』『清め浄化』
自動:『悪天硬』『水泳』『暗殺者』
―耐性―
『眩み』『強酸』『爆破』『腐敗』『視界不良』『盲目』『毒』『気移り』『耐寒』『呪い』『汚染』『感染』『病魔』『腐敗』『不浄』
===============
今日は暇そうだし……合成とかして暇つぶしててもいいかもしれないけど……やっぱそれは進化してからでいいよなぁ。
あと少しで進化できそうだし。
……もうちょっとお肉貰えないなかな。
一切れで結構レベル上がったからなぁ。
あのー……もうちょっといただけませんかね?
ねぇねぇ。姫様。奥方様。
もうちょいくれませんか?
「? どうされたのですか白蛇様」
姫様はすでに食事を終えていて、俺に気が付いてくれた。
食べるの早いね姫様。
いやそんなことより進化したいんでお肉いただけませんかね。
「あら。もうお食べになられたのですね。おかわりは要りますか?」
その通りです奥方様!
「白蛇様がおかわりを所望されているわ。まだお肉はあるかしら?」
「はい。勿論です。何枚くらい作りますか?」
「では三つ程度お願いね」
「承知いたしました」
あっれそんなにいいんですか!?
いや全然食べれる量なのだけれども、これ以上食べると明日の分がなくなりそうだな。
これ以上はやめておこうかな。
しばらくしたら焼かれたステーキが俺の前に置かれた。
なぜ四枚なのだ。
いやいただきますけども。
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