8.7.必ず来る


 ラックに乗って鳳炎を捜索。

 すると鳳炎も俺たちを探していたらしく、上空を飛んでいたのですぐに見つけることができた。

 考えることは同じだなと思いながら、俺たちが泊っている屋敷まで飛んでいくことにする。


「前鬼の里はどうだった?」

「テンダと会って話を聞いたのだが復興のほとんどは終わり始めている。だが寄越せる兵士は二百が限度だそうだ。その代わりガロット王国に援軍要請を頼むように言っておいた」

「あ、そうか。お前向こうの王族とは面識ないもんな」


 完全に忘れてたわ。

 でもテンダに任せておけば、向こうも話を聞いてくれるだろう。

 うん、とりあえず兵力に関しては大丈夫そうだな。


「で、皆には伝えたのか?」

「これからだ」

「そうであるか」


 鳳炎が言っているのは悪魔のことだ。

 とりあえず模擬戦も終わって一段落付いたし、ゆっくり話し合ってこれからの事を決めなければならない。

 本当に、気が重いわ……。



 ◆



 俺たちは一室に集まってソファに腰かけていた。

 今この場にいるのは俺と鳳炎、アレナ、サテラ、そしてバラディムだ。

 目の前に紅茶や菓子が置かれているが、今から話すことを考えるとそれに手を付けることはなかなかできない。


 先ほどとは打って変わって暗い雰囲気を出す俺と鳳炎に、バラディムとサテラは少し不安そうである。


「応錬様、それに鳳炎殿……そろそろ、話していただけますかな?」

「では私が話そう。二人はサレッタナ王国が悪魔に襲われた話を知っているか?」

「はい。知っています。その直後に前鬼の里も襲われたと聞きました」

「前鬼の里は悪魔とは関係ないが……まぁその話はいい。悪魔が次に襲う場所が分かったのである。それがバミル領である」

「「!?」」


 鳳炎の発言に驚く二人。

 無理もない話ではあるが、これは事実なのでしっかりと聞いておいてもらいたい。


「な、何故……!」

「理由は分からない。だがサレッタナ王国襲撃の首謀者の一人、レクアムの研究室を見つけて調べたところ、次はここだという記述があった。そこにも何が目的でここを襲うのかは記されてはいなかったが、日時などもしっかりと記載されてある。襲撃日はあと二ヶ月もない」


 またでたらめを……とは思ったが、まぁ納得してくれている。

 何処でその情報を掴んだのかを聞かれる前に作っておいたんだな。

 まぁ神様に聞きましたなんて言えるわけもないし、信じもしないかもしれないからな。

 どちらかといえば現実味のある嘘で誤魔化しておいた方が信じてくれやすいだろう。


 それを聞いたバラディムは、頭を抱えて唸る。


「応錬様が……兵力のことを聞いたのはそれでしたか……」

「すまん。あの場所ではな……」

「いえ、賢明な判断です。しかし参りましたな……。あの時も言ったように、バミル領には二千の兵力もありません」

「……ん? ガロット王国の兵士が二千くらい復興支援の人員としてきているというわけではないのか?」

「はい。それ含め、バミル領全ての兵力を集めても二千には届きません」


 話を聞いてみれば、ガロット王国からの増援が約五百。

 これはほとんどが兵士であり、見回りなどは全てガロット王国の兵士に任せているのが現状。

 残りの約千五百は、バミル領の戦える者を兵士として数えた場合の最大戦力。

 加えて前線に立って戦うことができる兵士は五百人ほど。

 実際の戦力は千人といっても過言ではないらしい。


 復興途中で再建し始めたばかりのこの領地では、まともな兵士を鍛え上げることは難しい。

 街のことはガロット王国の兵士たちに任せていたので、内政を整えることに集中できたようだが……。

 まさか悪魔が攻めてくるなど思ってもみなかったことだろうからな。

 それは仕方がないか。


 何処かに攻め入るわけでもなければ、大軍の兵士から街を守る予定もなかったのだから、そうなるのは必然。

 街としての機能を充分に発揮できていない状況で戦力の補給などできるわけもない。


「私は道中前鬼の里に立ち寄り、援軍の要請をしておいた。鬼を二百人程連れて来てくれるそうだ」

「おお、そうですか!」

「加えてガロット王国にも援軍の要請を申請をしてもらっている。どれだけの兵力が援軍としてくるかは分からないが、応錬の名前を使ってくれるだろうから期待はして良いと思うぞ」


 おい、お前何勝手に俺の名前使ってくれてんねん。

 今回は事情が事情だからいいけど他の場所で使うなよ??


 鳳炎の話を聞いて、バラディムは喜んでいたが、サテラは少し難しい顔をしていた。

 何か気になることがあるのだろうか?


「サテラお姉ちゃん? 大丈夫?」

「え、あ。ごめんなさい。ちょっと思うところがありまして」

「それは何であるか?」

「鬼様のことについてです。この領地では異種族交流が全くと言っていいほどありません。増援として来ていただけるのは非常に心強いのですが、皆様が驚かれないかが心配で……」

「むっ……すまない。配慮が足らなかったな」

「あっやっ! いえいえ! 謝らないでください! 申し訳ありません!」


 パタパタと慌てているサテラは可愛らしい。

 っと、今はそんなこと考えている場合ではない……。


 そうか、そういう問題も考えておかなければならなかったな。

 俺たちにとって鬼は普通に友好関係にある奴らだったし、あんまり気にしていなかった。

 領民の理解を得てもらう必要がありそうだな。


「皆様には私から説明しておきますね! 大丈夫です、お任せください!」

「どうする? 避難できる人は避難してもらった方がいいんじゃないか?」

「かもしれません……。でも……多分そんな人はいないかと……」

「ああ、そうか」

「そうなのであるか?」


 それにはバラディムも頷いた。

 この中で唯一分かっていないのは鳳炎だけ。

 流石にこいつもこの辺のことまで知らないだろうからな。


 ここは一度完全に壊されてしまっている。

 だがこうして、また一からサテラが筆頭となって作りなおした故郷なのだ。


「二度も壊させません」


 サテラは力のこもった眼で、俺たちにそう言った。

 俺とアレナもそれに頷く。


「その通りですな。では私は動ける者を探しておきます。サテラ様は住民に鬼が来ることの理解と戦闘への準備を呼びかけてくださいませ!」

「分かりました」

「応錬、私はサテラお姉ちゃんと一緒に回ってくる!」

「分かった。俺たちも動くぞ」

「え、何をするのだ……?」

「敵が進軍してきそうな場所、探すんだよ。それに防壁も作らないとな」

「これは……大仕事になりそうであるなぁ……」

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