3.18.子供たち


 イルーザが倒れてしまったのでとりあえず適当に二階に運んで寝させておく。

 技能を見ただけで気絶するとか一体どうなってんだこいつ。

 シレっと女性の部屋に入ったけど、俺は無性なので何の感情も芽生えませんでした。

 悲しい。


 その後、下に降りて子供たちの様子を見る。

 全員顔色もよく寝息も深い。

 本当に問題はなさそうだ。

 だが脱水症状だけは残ってしまっているようだな……。

 綺麗な水を準備しおくとしよう。


「ウチカゲ、サテラをここに連れてきてくれないか? 多分移動は明日になってしまいそうだからな」

「では荷物も全て持ってきますね」

「頼む」


 アレナを救出できたのでしばらくの間サレッタナ王国に用はない。

 とりあえずガロット王国に帰ることを優先しようではないか。

 もっともここに滞在し続けるのはまずい。

 いつレクアムが嗅ぎつけて俺たちを襲ってくるのかもわからない状況ではゆっくり休むこともできないからな。

 ゆっくりできるのは今晩くらいだろう。


 因みに先ほどウチカゲに『清め浄化』のことを聞いたのだが、あれもとんでもない代物だった。

 清め浄化は全ての呪術技能に対抗しうる能力を持ち合わせた技能なのだそうだ。

 呪術にも種類が沢山あるのだが、基本的なものは呪い、疫病、病魔、腐敗、汚染、不浄と言ったものが基本となるらしい。


 呪術は人体に影響を及ぼすものが殆どで、呪術を治すには『浄化』という技能でゆっくり治していかなければならないのだとか。

 それも相手の呪術が強力であれば意味をなさず、結局呪術に耐えれずに死んでいく者も多いのだという。

 他にも呪術を治す手立てはあるが、それは呪術者を殺害する事。

 だが呪術者は遠隔で呪術を使うことが多いので、それはなかなかできないのだという。

 呪術者に近づく前に呪術をかけられてしまえば、結局意味がないのだ。


 だが呪術を一瞬で治し、体の悪い所も治してくれるのが浄化の上位互換である『清め浄化』なのだそうだ。

 それに戦闘中でも呪術を全て跳ね除ける力を持っているらしい。

 戦争時、呪術者たちは執拗に『清め浄化』を扱えるものを狙って行ったのだとか……。

 まぁ、天敵から始末するのは当然だな。


 という事で、この技能も見つかったら国が動くレベルらしいので半永久的に封印することになりました。

 悲しい。


 さて。また一つ技能を封印したところで今後の動きを考えていこう。

 子供たちはイルーザに任せる。

 それ以外に当てがない。

 まぁイルーザなら大丈夫だろ。

 ここ、お店だし。なんか儲かってそうだし。


 でもただ任せるだけなのは流石にイルーザも怒るだろうから、俺が残している金額全てを置いて行くことにする。

 金貨が十八枚、銀貨が百五十枚、銅貨が三百枚だ。

 これでこの子たちをしばらく養えるくらいはあるだろう。

 俺たちはウチカゲの持っているもう半分の金だけでやって行けそうだしな。

 アレナとサテラだけは俺たちが連れていく。

 あと四人は任せるつもりだ。


 とりあえず明日の朝一でサレッタナ王国を去ることは決まっている。

 その後はとりあえずガロット王国に帰って事をすべて終わらせておこう。

 しかしサレッタナ王国の祭りに参加できないのは残念だな。

 まぁ、また来年来ればいいか。


 というか、アレナをガロット王国に連れて帰った後の事は一切考えていなかったな。

 とりあえず一回前鬼の里に戻ってやるか。

 姫様の顔も見たいし。

 まだ一ヵ月程度しか経ってないんだけど……姫様が泣いている姿が目に浮かぶ。

 帰ったら帰ったで泣くんじゃないか?

 あ、そういえば俺人間の姿だったわ。

 気が付いてくれるかな?


「むー……」

「お、起きたか」


 一人の男の子が目を覚ました。俺はすぐに水を出してその子に飲ませる。

 やはり喉が渇いているのか、おかわりを所望してきた。

 俺はもう一度コップに水を入れて手渡してあげる。


「ありがとう」

「はい、どういたしまして」

「……ここは?」

「ここはイルーザ魔道具店。呪いのかかっていた君たちに部屋を貸してくれた人の家だよ。その人はいま寝ているんだけどね」


 男の子は周囲をキョロキョロしながら不安そうな顔をしている。

 まぁ急にこんなところに連れてこられたら不安にもなるか。

 そらそうだ。

 まだ分別のつく年じゃないのだから。


「君、名前は?」

「ジン」

「よし、ジンはどうしてあんな所にいたんだ?」

「……わからない。気が付いたら臭い牢屋にいた」


 ふむ。受け答えははっきりしている。

 呪いの影響で頭がおかしくなったとかはないようだ。

 とりあえずは一安心だな。


 ただあそこに来るまでの記憶がないのか。

 その後の事はどうだろう?


「じゃあ、あそこで何をされたんだ?」

「よく覚えてないけど……変な人が僕に手をかざしてぶつぶつ何かを言ってた。そしたら急に体が寒くなってきて……気が付いたら寝ちゃってた」


 手をかざさなければ呪術は使えないのか?

 多分それが呪術の発動条件なのだろう。


 で、体が寒くなる……か。

 強制的に眠らせてたのかもしれないな。

 だがあばらが浮き出していたのが気になる。

 でも子供たちからでは、その情報を得ることはできなさそうだ。

 魔術に強そうなイルーザにもわからなかったんだ。

 俺がわかるはずもない。


「そうか……ありがとう」

「「む~……」」

「お、どんどん起きてきたな」


 起きてきた子供たちに水を配っていく。

 ガブガブと水を飲んで行く為俺のMPの残量が心配になってきそうだ。

 今日だけで結構酷使したからな……それも仕方がない。

 けど待って……本当にMP無くなりそう!


 子供たちの名前を起きていった順に聞いていった。

 まずジンは男の子だ。

 次に起きたのは女の子二人。

 名前をミナとムーと言うそうだ。

 そして次に起きた男の子がジグルと言うらしい。


 ジグルが十一歳で最年長、ミナとムーが十歳で同い年。

 ジンが九歳で最年少だそうだ。

 うん。全員かわいいね。

 奴隷だったからか子供らしい元気さはない。

 誰もが静かにしている。


 全員の自己紹介が終わったあと、最後の一人が目を覚ました。

 アレナは目をこすりながら周囲を見渡して俺と目が合った。


「よう。アレナ」

「……だぁれ? どうして私の名前を知っているの?」

「やっぱわかんねぇよな」


 MPが少ないので小さい物しか作れないが……手の平の上でアレナの教えてくれた宝石を作り出す。

 それを見て何か考えているようだったが、思い当たる節があったようだ。


「……白蛇……さん?」

「おう。助けに来てやったぜ。本当は牢の中で言うのが正解なんだけどな。随分と遅くなってすまなっ……!?」


 突然アレナが飛びついてきた。

 突然のことで体勢を崩してしまったが何とか持ちこたえる。

 アレナの背中を軽く叩いてどうしたのかと聞こうとした時、すすり泣く声が聞こえた。


 俺は声かけるのをやめ、そっと背中に手を回して、何度かポンポンと叩いてやる。

 安心したのか、それとも俺に会えて嬉しいのかはわからないが、その後アレナは大きな声で泣き始めた。

 こういう時、どうしたらいいのかはわからなかったけど、とりあえずずっと背中をさすっておいてあげる。

 それからしばらくはこうしてあげる事になった。

 牢で再会を喜べなかったので、ここで再会を喜んでおこう。

 俺はもう一度アレナを軽く抱きしめた。



 ◆



 Side―??―


 今が何時かもわからない。

 ただわかることは夜だという事だ。

 熊を食ってからどれくらい経っただろうか……あれから何も食べてない。

 食べた物はドングリくらいだ。

 味はしないから美味しくはないけど、とりあえず腹には入れられた。

 下さなかったし、まぁ食べれるものだったのだろう。


 しかし本当に人に会わない。

 馬車の跡を見つけたりはしたがその馬車は何処にもない。

 馬車の跡を追いかけていけば町か村に辿り着くのではないかと思ってずっと歩いてきた。

 我ながらいいアイデアだと思う。


「は~。だーれかー。いーませーんか~~」


 そう叫んでみるけど誰も答えてくれない。

 夜だし。

 誰もいないし。

 焚火を見つけようかとも思ったけど見つかんない。

 だって夜だもん。

 煙なんて見えない。


 ていうか、森の中を歩きすぎて皮の服ももうボロボロだ。

 やっぱりちゃんとなめさないといいものにはならないよなー。

 って誰かが言ってた気がする。


 なめさないとってどういう意味だ?

 皮を……なめす……なめす……。

 何処かの方言だなきっと。

 俺にはわからない。


 ていうかもう空が明るくなってきたよー。

 今日も人に会えないのかぁ……。

 悲しいなぁ。

 本当にお腹空いた!

 服もボロボロ!

 早く文明人になりたいよー!


 心の中でそう叫んでもだーれも答えてくれない。

 この血の匂いのせいか、魔物が一切寄らなくなってしまったので狩りができなくなった。

 自給自足ができないだなんて……もう生きていけないかもしれない。

 俺、狩りの才能ないわ……本当にないわ……。


 流石に歩くのも疲れたので小高い丘の上でちょっと休憩することにした。

 朝焼けが綺麗だ。

 何をするわけでもなくぼーっとしている間にも朝日はどんどん昇っていく。

 完全に遭難している俺はこれからどうしようかとずっと考えていた。


 遭難してからずっと太陽の昇る方角に歩いては来たが……当てもなく歩き続けるのは本当にしんどいし無謀なことだとわかった。

 技能のおかげで長生きできているが、これがなければとっくのとうに死んでいるだろう。


 大きなため息をついて体育座りで太陽を眺める。

 人が恋しい。

 寂しい。


 そう思った時、遠くの方に何かが見えた。

 畑だ。

 あれは畑だった。


 がばっと立ち上がってその方角を目を凝らしてみてみる。

 すると建物が見えた。

 そしてその奥には目を凝らさずとも見える大きな大きな城が建っていたのだ。


「はぁああああ……! 城だ! 人がいるぞ! やったぁあああ!!」


 先ほどの疲れは何処へやら……。

 俺は全力疾走でその城に向かったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る