9.20.救出作戦開始
日が落ちた。
周囲は暗くなったが、今日の月は明るい。
夜でもしっかりと周囲の景色が見て取れる。
鳳炎たちはマリアの予想していた通り、少し離れたところで訓練をしていたらしい。
リゼの戦闘経験が少ないので、鳳炎はそれを心配していたようだ。
技能を一通り使ってみてもらった結果、彼女は戦闘組に配属されることになった。
救出組は狭い場所での戦闘が予想されるので、範囲攻撃を多く持っているリゼでは周りに被害を及ぼしてしまう可能性があったのだ。
妥当な判断だと、誰もが鳳炎の提案に頷いた。
「っし……。準備はいいか?」
俺の言葉に全員が頷く。
既に準備は完了しており、あとはシャドーウルフの抜け道を使って簡易拠点へと到着した瞬間、作戦が開始される。
裏で手を引いている悪魔と、協会の連中がどれだけ出てくるかが心配ではあるが……敵対しない事だけを祈るしかない。
よし、再確認しよう。
まず救出組。
シャドーアイの三名、アレナ、ウチカゲ。
戦闘組。
俺、鳳炎、リゼ、マリア、雷弓の二人。
ウチカゲはあのローブ女に出会った瞬間、戦闘組にチェンジする予定だ。
マリアはアレナとの同行を基本とする。
接敵したら戦闘を全面的に担うことになっている。
救出組の護衛と思ってくれたらいいかな。
んで、索敵のできる俺とウチカゲが最前線で突っ走り、中衛に救出組、後衛に戦闘組が付いてくる陣形だ。
これで本当に大丈夫かどうか分からないが、もうここまで来たので行くしかない。
シャドーウルフは四匹しかいないので、二回に分けて全員を向こうに運ぶことになる。
ティアラにも手伝ってもらうぞ。
移動自体は一瞬なので俺たちはあっという間に簡易拠点へと移動することができた。
全員が武器を確かめる。
こういうのは大切だ。
いざという時に使い物にならないと意味がないからな。
まずはここからバルパン王国の城壁に向かわなければならない。
既に操り霞をその場に展開させているので、一番警備の少ない場所を狙う。
俺が先行し、侵入しやすい場所へと皆を案内した。
しばらく走ればすぐに目的地へと到着する。
ここからはアレナの出番だ。
「『重力操作』……」
小声で技能を口にする。
すると、その場にいた者の体がふわりと浮いた。
ウチカゲだけは自分で簡単に壁を越えられるので、先行して安全を確保してもらっている。
簡単に城壁を越えたあとは、クライス王子を発見した場所へと一直線で向かう。
常に操り霞を展開して周囲を警戒。
ウチカゲも同じように警戒してくれている。
「「!」」
前方にバルパン王国の兵士だと思われる気配を感じ取った。
一度足を止めて、後続にも手で合図を出して止まってもらう。
どうやらこちらには気付いていないようだが、できればこの道を通りたい。
それにここ以外の道は警備が少し多いようだ。
すると、ウチカゲが地面に手を置いた。
自分の影からドロリとした粘液質の黒い塊が腕を這い上がり、最後に丸くなってコロンと地面に落ちる。
兵士の方へと転がっていき、足にぶつかって停止した。
「お? なんだこ──」
バグッ。
黒い球は急に大口を開けて二人の兵士を丸のみにしてしまった。
魚が海水と一緒に獲物を捕らえる時と同じ様に、捕食速度は尋常ではない程に速い。
悲鳴を上げる暇すらなかったようだ。
闇媒体……かな。
あんな使い方もできるのか。
ていうか久しぶりに見たな。
戻ってきた黒い球を自分の影の中に戻したあと、ウチカゲは小さく頷いて立ち上がった。
手で問題ないと合図を出し、再び走り出す。
俺たちもそれに続いた。
……ずいぶん静かだな……。
操り霞で確認しているのだが、国民は家の中にいる。
夜であればそれが普通なのだが……なんか違和感が凄い。
だってこの先にクライス王子が捕まっているんだろう?
なのに兵士がこの道に一切いない。
いや……怪しすぎるよな。
「……ウチカゲ」
「はっ」
「なんか……おかしくないか」
「そう、ですね。ここだけ……なにも居ないので」
小声で話ながら、再び周囲を警戒する。
何もいないのであはるが……それが逆に不安を煽ってきた。
これは……どうしたらいいんだ。
このまま進んでいいのか?
誘導されてる気がしてならないのだが。
コーン。
コーン。
コーン。
奇妙な音が聞こえてきた。
全員が武器の柄に手を置き、戦闘態勢を取る。
だが俺とウチカゲだけは敵を探っていた。
……しかし、いない。
あの音は何だ?
鐘の音ではない……。
だがそれに近いものだったような気はするのだが、具体的には説明できなかった。
「……! 応錬様、これは何かの合図かもしれません」
「合図……! じゃあ……」
「もう既に敵の懐の中。行動される前にこちらの任務を完遂させましょう」
「分かった」
俺たちの存在はまだバレていないとは思うのだが、操り霞のような技能を持っている奴がいるかもしれない。
それを考えれば、気配がしなくても当然だし、俺が見つけられないのも当然。
もう何も信じられなくなってくるが……行くしかないな。
頷き合い、走り出す。
それに気付いた後続も同じように走り出そうとしたのだが、最後尾にいた鳳炎が何かを弾く。
ギィンッ!!
鉄がぶつかり合う甲高い音は、よく響く。
何事だ思って後ろを振り返ってみれば、鳳炎が槍を構えて敵を睨んでいた。
こちらからでは敵の姿が見えない。
だが鳳炎が教えてくれた。
「……悪魔……!!」
「……やっぱり来ちゃったのねぇ~」
闇夜に溶けるような黒い肌の女悪魔が、気だるげそうに、面倒くさそうにため息を吐いた。
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