9.19.情報共有
気配を殺しながら俺とウチカゲはバルパン王国を出た。
誰にも気付かれなかったことに安心しながら、シャドーアイがいる場所へと向かう。
その間に、歩きながら考えた。
今回はどうやって動いたものかと。
気配の追跡はクライス王子が見つかったことにより中断された。
その結果零漸の居場所を把握することができなかったのだ。
あいつの周囲にいるであろう敵を確認できれば、救出作戦時に役に立つかもしれなかったが……。
まぁ人質の近くに零漸を置いておくわけがないか。
んー、もう少し無理してでも零漸を探し出して、敵側の拠点を見つけ出しておくべきだったかな……。
でも零漸や敵が集まってこなければ、クライス王子を救出すること自体は簡単だろう。
早期救出を目的として動くとしますかね。
あとは零漸の奴隷紋をどうするか……か。
戦闘奴隷は主人に歯向かうことがないようになっているらしい。
主人を見つけ出して契約を解除させるか、殺すかすれば契約は白紙に戻るのだとか。
だが俺たちは零漸を従わせている主人を知らない。
悪魔を捕まえて聞きだせば答えてくれるだろうか……。
……これは零漸と敵対する前にクライス王子を何とかしたいな。
この事も含めてあいつらと話をしてみることにしよう。
シャドーアイが簡易拠点を作っていた場所まで戻ってみると、彼らはまだ作業をしていた。
ティアラが影の中に手を突っ込み、何かを弄っている。
他二人は魔力を注いでいるのか、彼女の背中に手を当てていた。
「帰ったぞ~」
「え、もう帰ってきたんですか!?」
「結構長いこと仕事したぞ?」
「長丁場になると思っていたんですけどね……。こっちはもう少しで開通しそうです。もうしばらくお待ちください」
「分かった」
じゃあそれまで少し休んでおくとするか。
その辺の岩に背を預ける。
気を抜くと疲れがどっと出たような気がした。
まぁ動いている途中でも結構疲れてるなぁとは思ってたけどさ……。
あんまり気を抜きすぎると良くないね。
ウチカゲは地面に座り、武器を手入れしはじめた。
作戦前なので、俺も武器の調整をしっかりとしておこう。
「……」
「……応錬様、どうされました?」
「いや、この白龍前なんだけどさ。なんでこの名前になったんだろうって思って」
「何が銘を決めるのかも分かりませんしね」
「そうなんだよなー」
こいつにはずいぶん世話になっているけど、肝心の名前の理由がまったく分からないんだよね。
刀身が黒いし、脇差だし、それらしい名前となっているんだ。
影に潜む大蛇。
いざとなったらしっかり助けてくれそうな名だな。
んで、白龍前……。
あんまり考えたことはなかったけど、もしかして白龍ってのは俺のことか?
俺のために作られたから?
でも前っていうのはどんな意味があるんだろう。
前に進めとか?
俺にそれ言うー?
手入れをしながら考えていたが、やはり分からない。
ていうか日本刀手入れしながら考え事なんてするもんじゃねぇ!!
あぶねえ!!
「繋がりましたよー!」
「おっ」
「向かいましょうか。報告をしなければなりません」
「ああ」
ビッドに呼ばれ、俺たちは立ち上がってシャドーアイの近くに寄る。
一見何も変わっていない。
だがシャドーウルフの抜け道はしっかりと向こうに繋がっているのだろう。
影からひょっこりシャドーウルフが顔を出す。
これだけ見ていると普通にかわいい。
よーしよしよし。
「ほんと、なんで応錬さんそんなに懐かれてるんですか……」
「んなこと言われてもなぁー……。よーしよしよしよし」
「フルルルッ」
撫でるのもこれくらいにして行きますか。
ティアラが再びシャドーウルフを召喚してくれる。
その子たちに跨り、また影の中に入っていった。
今度は息を止めて。
だがその必要はないくらい、すぐに地上へと俺たちは顔を出すことになった。
行きは結構時間かかったと思ったんだけどな……。
あの抜け道、時空歪んでるのか?
いや、今回の場合は歪めたのかな。
前を見てみると、俺たちに気付いたマリアが少し驚いていた。
「は、早かったわね……。いや、予想はしてたけど」
「お前らは何してたんだ?」
「ウォーミングアップ」
「え」
バギバギバキバキバキッ!!
木を大型クレーンか何かでへし折るような音が聞こえた。
なんでこんな所でそんな音が鳴り響いているんだ!?
バッと音のした方向を見てみれば、アレナがローズに何かを教わりながら木を浮遊させて変形させている。
何してんねん。
「……あれが魔術か?」
「そう……らしいわ。あんな技能見たことないわよ……」
「重力っていうか念力なんだが」
あんなのと戦いたくないんですけど……。
でも持続力はあまりないみたいだな。
浮遊していた木がドシンと地面に落ちた。
アレナは肩で息をしているようだ。
相当集中しなければならないのだろう。
「はぁ……はぁ……」
「これだけできれば上出来ですね。でもまだ戦闘には使えないかも」
「な、なんで?」
「だってすぐに息切れしちゃうし、多分動いている敵を捕まえるのは難しいんじゃないですか?」
「う……うん……」
ローズの指摘は的確だったようだ。
あれだけ強くなる技能なのだから、扱いも難しくなるのだろう。
そこで二人もこちらに気付いた。
修行は一時中断ということになったようで、こちらに歩いてくる。
「早かったですね」
「ウチカゲのお陰でな。鳳炎とリゼ……あとユリーは?」
「さぁ? 多分何処かでウォーミングアップしてるんじゃないかしら」
「それならいいが」
「で、どうだったの?」
「全員揃っていないけど、まぁいいか。えっとだな……」
それから俺は向こうで集めてきた情報をその場にいた全員に伝えた。
零漸がバルパン王国に滞在していること。
教会の関係者が敵に回っている可能性があること。
そしてクライス王子が捕らえられている場所のこと。
教会の話が出たところで、マリアとローズは難しい顔をした。
「集めてきた情報はこんなところだ」
「零漸君はいたの?」
「見つけられませんでした。探してもよかったのかもしれませんが、クライス王子の方が優先度が高いですから、まずはその報告をしなければと思い戻ってきたのです」
「なるほどね。……はぁー……教会かぁ……」
「や、やっぱり面倒な相手なのか?」
「そりゃそうよ。何を信仰しているかは知らないけど、信者ってのは厄介極まりないわ。彼らにとっては司祭の言葉は神の言葉と同義、って感じだしね」
「げぇー……」
場所にもよるんだろうけど、バルパン王国はそういうのが多いらしい。
やっぱり面倒くさいな……。
零漸を助け出そうとしたら教会と喧嘩することになっちゃう可能性があるのか。
何とかならないの?
そう聞いてみると、ローズが答えてくれた。
「普通であれば難しいでしょうね。でも悪魔が裏で手引きしている場合、さすがに教会側も悪魔の力を借りているとは言い出せないでしょうから……」
「その場合、敵は少ない?」
「どうでしょう……悪魔の出方によるでしょうね。姿を現さないのであれば、教会全体が敵に回るでしょう」
「表に出張ってくる可能性ってあるかぁ?」
「んー……」
あいつらの場合、人間がやりましたっていう感じで罪をなすりつけそうなんだよな。
自分たちは直接関与せず、裏で操る感じ……。
サレッタナ王国でもそうだったしな。
途中までは。
「……敵は多い、と思っていた方がいいでしょう。一触即発の状況なのですから、バルパン王国も戦闘態勢を整えているに違いありません」
「それもそうかー」
「それでもやることは変わらないわ。ようは見つからなければいいのよ」
「フラグ」
回収するなよマジで。
フリじゃねぇからな!!
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