9.18.気配の追跡


 零漸がこのバルパン王国にいるということが分かった瞬間、警戒度が一気に上昇した。

 他にも仲間がいるだろうし、油断できない状況が続く。


 俺とウチカゲは気配を次々に潰していき、今下町をすべて調べつくしたところだ。

 時間としてはさほどかからなかったが、今は息抜きが必要だった。


「だぁー! 疲れた!」

「何時間も同じ作業をしていますからね」

「ちょっと休憩しよう……」


 その提案に小さく頷いたウチカゲは、壁に背を預けた。

 いくら気配を消しているとはいえ、隠密行動となると気を遣ってしまうのだ。

 それが数時間続き、更には下町全体を調べつくすのに歩き回った。

 疲れてしまうのも当然のことである。


 今は路地裏らしき所にいた。

 この辺は誰も通らないらしく、操り霞で確認してみても誰も居ない。

 猫も居なさそうだ。


 さて、あとは貴族街……。

 他にも城があるけど、あの辺は最後でいいだろう。

 警備も凄いだろうしね。


「ふーむ、やっぱり敵は貴族か」

「みたいですね。……で、悪魔が今回の事件を手引きしているんですよね」

「ああ。リゼがそう言っていた」

「はぁ……。分からない事ばかりですね。なぜ戦争を起こさせようとするのか……。いや、もう悪魔は敵ではないということが分かっているのですから、悪魔の敵を今は見つけなければならない……ですか」

「それができたら苦労しないんだけどな」


 一体何と戦っているんだあいつらは。

 伝えたら殺される呪いとか怖すぎだろ。

 何をしたらそんな呪いをかけられるんだよ……。


 ま、なんにせよ零漸を利用したのは許さん。

 その辺だけはしっかりと怒らなければな。


「……ウチカゲは今の状況、どう思う?」

「そうですね……。悪魔がやろうとしていることは決して許されるものではありません。ですがそうする理由は言えない。彼らが伝えることを禁止されているのであれば、とんでもなく遠まわしにものを言わなければならないのではないでしょうか。分からない程に……」

「呪いの発動条件に引っ掛からないようにするためか」

「はい」


 そうなると今後は悪魔の言葉を聞いて本当の意味を導き出さなければならなさそうだな。

 ……鳳炎はそれに気付いていたのか?

 あいつなら奥底に眠っている言葉の意味を理解することもできるかもしれないが……。

 んん、分からん。


 一つため息を吐いた後、立ち上がる。

 休憩もこれくらいでいいだろう。


「ま、考えても今は分からん。悪魔を見つけたら捕まえて話を聞いてみることにするか。何か分かるかもしれない」

「ですね。では……」


 ウチカゲが集中し、気配を追跡する。

 近くにあるのは二つ。

 暗殺者を発動させて自分の気配を消し、歩いていく。

 俺も同じように暗殺者を使用してウチカゲについていった。


 本当にこの技能は便利だ。

 誰かとすれ違っても本当にばれない。

 いつの間にか熟練度も上がっていたみたいだしな。


 そこでウチカゲが一つの建物を指さす。

 大きな屋敷だ。

 俺は頷いてその中を操り霞で確認してみる。


 使用人や貴族などが数名屋敷の中で動いていた。

 一階、二階は特に何もなかったが、探っている内に地下室を見つけることができた。

 すぐに確認してみたが、どうやらここは宝物庫のようだ。

 ここも空振り。

 俺は首を横に振った。


 それに小さく頷いたウチカゲはその近くにあった建物を指さす。

 巨大な教会だ。

 なぜ零漸が教会に立ち寄っていたのかは分からないが、敵側にそういう奴らが混じっていたら面倒だなと心の中で呟く。


 展開していた操り霞を移動させて教会の中を探る。

 数多くの椅子、石像にシャンデリア、更に巨大な鐘などがある教会らしいデザインの建物の中には、誰も居なかった。


 今回も空振りだ。

 首を横に振ってウチカゲに伝える。


「……気配が濃いです。ここに長く滞在していたのだと思われます」

「てことは……」

「教会の人間もグルの可能性がありますね」


 いやぁだなぁ……。

 権力の塊じゃんあんなの……。

 国とは違う別の力を持っているだろうし、信者と戦うとか面倒くさいし、やりたくもない。

 ううん、一気に面倒くささが……。

 なんて奴らに利用されてるんだ零漸。


 いや、悪魔が教会の人間も利用してるって考えた方がいいか。

 使いやすいのは使うだろうしね。

 どうやって利用しているかは分からないけど、一気に敵が増えた感じがするな。

 これは戻ったら報告しておくか……。


「!!」


 ウチカゲがバッと振り返る。

 口元に人差し指を置いているので、静かにしろと言っているのが分かった。


 すぐに暗殺者を使用して気配を殺す。

 なんだと思って操り霞を展開させてみるが、周囲には気になる影はいない。

 だがウチカゲは一つの方角を指差した。


 そこはこれまた大きな屋敷だ。

 すぐに操り霞を展開させて、その中を探った。


 数十人の兵士らしき人間が部屋という部屋で見張りを行っている。

 何かあると思って屋敷全体を操り霞で覆う。

 数名の貴族らしき服装を着た人物が、何かを話し合っていた。

 動きから見るにあまり良い雰囲気ではなさそうだが、そいつらのことはどうでもいい。


 他に何かないか、俺はくまなく捜索する。


「っ!」


 二階に、縛り付けられた子供の姿があった。

 シルエットだけでしか分からないので、それが本当にクライス王子なのかは分からない。

 しかしこの雰囲気は、状況から察するに、あの子供がクライス王子である可能性は十分に高かった。

 それを確認した俺は小さく頷く。


 クライス王子の気配。

 それに加えて操り霞で子供がいると確認してもらった。

 間違いない。

 あれは絶対にクライス王子だと、ウチカゲは確信して頷く。


「帰りましょう」

「ああ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る