4.2.薬草納品依頼
話を聞いてみれば、それはなんとも阿呆らしい話であった。
薬草を扱っている店は、どうやら素材を安く買って売るときに高く売るという、わかりやすい商売方法を実施しているようだった。
だがそれは、素材を持ってきてくれる相手に安い報酬金を手渡していることになるのだ。
人の命を助けることになる薬草の価値を何かと間違えているのではないだろうか。
商売としてはそれで確立するのだろうが、自分たちの場所で集めているならともかく、他の人、冒険者に集めてもらっているのであればそれなりの報酬を用意してあげなければいけないだろう。
その報酬が安ければ、まず依頼を受けようと思う冒険者も少なくなるに決まっている。
それをギルドのせいにする店側の人は一体何を考えているのだろうか。
「なんだそりゃ。人の命を助けるためのポーションの素材をそんな安くして良いわけないだろ……。ギルドとかで報酬金を固定できたりしないのか?」
「金額を固定すると冒険者は依頼を受けてくれやすくはなるのですが……その分また店側がポーションの金額を変えるんです。なので結局、お金がちょっと動く程度で、根本的な解決にはならないのです……」
「大丈夫かよそれ……」
依頼の報酬金の金額を上げて固定すると、それに応じてポーションや薬品が高額になる。
だがそれでも薬屋やポーション屋が商売を続けれる理由は勿論あるのだ。
冒険者の中には回復系技能を持っていない人物がいるはずである。
回復技能の『回復』は、自分の受けた攻撃を回復する代わりにMPの消費が激しいし、それがいくら冒険者の必須技能だと言っても、それに過信するのはよろしくないことだ。
なので、回復薬と言う物はどんなランク帯であっても必要なものなのだ。
高くても買わなければ、万が一に備えることはできないし、そんな不安を抱えながら戦いたくもないだろう。
最も、怪我をしないのが一番良いのだが……
「応錬、持ってきた」
「お、ありがとうな」
そうこうしている内に、アレナがポズ草の納品依頼書を持ってきてくれた。
その数なんと十三枚。
こんなにも毒草を求めている人物は多いのかと少し驚きながら、先ほどと同じように紙の上に納品に必要な数のポズ草を置いて丸め、受付嬢に渡していく。
「ヒポ草だけではなくポズ草まで……一体どこで?」
「ガロット王国からサレッタナ王国に来る道中、暇だったから回収して回ってただけだ」
「あの……もしかして根こそぎ……?」
「んなわけないだろ。ちゃんと若い芽は残してるよ」
根こそぎ採取してしまったら、また違う場所に探しに行かなければならないし、根絶の原因になってしまうのだ。
俺がそんなことをするわけがない。
しかしこの受付嬢……。
ヒポ草の納品時に続き、ポズ草の納品時もほとんど薬草の種類を確認せずにぽいぽいと納品箱に薬草を入れて書類を書いているようだが、大丈夫なのだろうか?
もしヒポ草にポズ草が混じっていたら大惨事になると思うのだが……。
「なあ。仕分けに自信がないわけじゃないが、ちゃんと確認しなくていいのか? 混じってるかもしれねぇぞ?」
「あ、大丈夫です。私、鑑定技能持ってますので」
「……余計なお世話だったな」
どうやら天の声と似たような技能をこの受付嬢は所持しているようだ。
俺のようにじっと見ているわけではなく、パッと見ているだけなので相当早く鑑定しているのだろう。
ポズ草を全部納品したのだが、やはりこちらも余ってしまった。
毒草だがこれは買い取ってくれるのだろうか?
「この余りは買い取ってくれるのか?」
「勿論可能ですよ。残りはいくつありますか?」
「えーと、四十本だ」
「では一本銅貨五枚で買い取らせていただきます」
「全部で銀貨二枚か。これも安いな……これなら依頼として受けたほうが良さそうだな。やめた」
「わかりました。気が変わりましたらこちらまでまたお願いします」
どうにも安すぎるような気がする。
毒草だから仕方がないのかもしれないが……ぼったくられているのではないだろうかと少し心配になってくるので取引はやめることにした。
こちとら四人分の生活費を稼ぎ続けなければならないので、そんな安い金で今持っている素材を手放すわけにはいかないのだ。
レッドボアを売ったお金があると言っても、これは武器を買うために持っておきたい。
ていうか初依頼の報酬が銀貨四枚と銀銭三枚である。
これでは、今泊っている宿の一泊分しか稼げていないことになる……。
食費を考えれば、もう手元には銅銭くらいしか残らないのではないだろうか?
つーか新米冒険者どうやって生活してんだよ!? 大丈夫!? ちゃんとご飯食べてる!?
「えーと、ではギルドカードをお渡しください」
「ん? おう」
「そこのお嬢さんもパーティーメンバーですか?」
「そうです」
「ではあなたもギルドカードをお渡しください」
受付嬢にそう促され、俺とアレナはギルドカードを提出する。
それを受け取った受付嬢は、カウンターの後ろにあるカードを通すような機械を設定し、二回スキャンをした。
その後、何かの書類を書いてから、俺たちにギルドカードを返してくれた。
「……ん? Eランク?」
「アレナもそうなってる」
E-ランクをすっ飛ばしてEランクに昇格していた。
ウチカゲが飛び級はほとんどありえないと言っていたので、このランクの昇格には心底驚いていたのだが……受付嬢はそれがどうしたとでも言わんばかりの笑顔を向けていた。
「飛び級したのか?」
「いえいえ、それだけの数の依頼をこなされたのですから、これで問題ないんですよ。昇格試験はEランクからDランクに上がるときにありますので、今はこれで問題ありません」
まあ、あれだけの依頼を一発で片づけたのであれば、この結果も納得するというものである。
低ランク帯では数をこなせばこなすほど、早くランクが上がるようだし、今後も早く終わりそうな依頼を率先して受けていこうと思う。
あと一つランクが上がれば討伐依頼を受けることができるはずである。
俺たちはこんなこまごました依頼は似合わないので、早々にランクを上げていきたい所だが……ウチカゲと零漸を置いて行ってしまった。
こういう場合はどうなるのだろうか。
「あと二人パーティーメンバーがいるんだが……この場合はどうなる?」
「貴方同伴の元、違う依頼を達成してこちらにギルドカードを見せていただければ、同じように昇格することができます。なので依頼達成のご報告は全員でいらしてくれた方がいいですよ」
「今度から気を付けるとしよう」
こういうことには割と寛容なようだ。
これであれば、あの二人を置いて俺たちだけランクが上がってしまうなどと言ったことは起きないだろう。
しかし……先程別れた零漸とウチカゲは、他の依頼を見ていたはずだが一向にこちらに来る気配がない。
一体何をしているのだろうかと思い、二人のいる場所を見てみると、あの野郎Sランクボードの前に立ってやがった。
とりあえず受付嬢にまた来ると言ってその場を離れて、零漸のいる場所に向かうことにする。
まだ受けれもしないのに何故そんなところに立っているのだと注意しようと思ったが、零漸とウチカゲの見ているボードに指名手配されている人物の絵が貼り付けられていることに気が付いて言葉を無理やり飲み込んだ。
その似顔絵は一度見たことがある。
絵を見たことがあるのではなく、その人物を一度だけ見たことがあるのだ。
そこに描かれていた人物は、俺が戦って死にかけ、奴隷たちを実験台に使用していたレクアム・ソームマルトだった。
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