7.34.アレナの新技


 全部で四階層あるこのダンジョンは、随分と広い。

 地下に行く階段や梯子がなかなか見つからないのだ。

 その為分かれ道なども多くあり、二階層に辿り着くまでに時間をかけすぎてしまった気がする。


 まぁそれもアレナが全部のマップを埋めたいということだったでの、時間がかかるのは仕方がない。

 このマップも何処かで売ったら高く売れるんだろうなぁ……。

 もう来ることもなさそうなダンジョンだし、売却してもいいかもしれないな。


「よしっ! 二階層完成! 応錬、三階層行くよ!」

『はいはい』


 既に三階層に行く為の階段は見つけているので、マップを頼りにしていけばすぐに行くことができる。

 正確なマップなので、間違えることはない。


 ということで早速三階層に降りてきたわけだが、ここも普通の洞窟と変わらないな。

 だがあれから一睡もせずにここまで来ることができている。

 攻略速度としては早い方だろうか?


 まだ眠たくならないし、時間的にはまだ夕刻くらいだろう。

 俺の腹時計当てにならないかもだけど。


 アレナの方を見てみるが、まだまだ余裕といった表情をしている。

 これならもう少し進んでも問題はなさそうだ。


『むっ……?』

「んーと……? どうしたの?」


 操り霞に人間の反応。

 すぐにアレナの前に尻尾を出して動きを止める。


 おかしな反応だったのでとりあえず止まってもらったのだ。

 武器を構えてはいるが、魔物とは対峙していない。

 周囲に魔物の反応がないのでそれは確かである。


 位置的には俺たちが絶対に通らなければならない曲がり角。

 そこに二人の人間が待ち構えている。

 こーれーはーもしや?


『俺たちを狙っているのか?』


 うん、その可能性の方が高そうだ。

 おそらく二人のうちどちらかが感知系技能を持っているのだろう。

 これは面倒くさい。


 俺はすぐにアレナにこのことを伝える為、無限水操で地面に今俺たちがいる場所のマップを作り出す。

 そして俺たちのことを狙っているであろう人間の位置を作り出し、俺たちの位置もマップ上に展開させた。


 しゃがんで俺の作った簡易マップを見たアレナは、少し考える素振りをして首を傾げる。


「……ここに魔物がいるの?」

『んー、これは説明が面倒くさいな……。人間だってどうやったら伝わる? 普通に等身大の人間作り出すか?』

「教えてくれてありがとう! じゃあ早速……」

『えっ?』


 ちょっと待ちなすって?

 違うんです、それ魔物じゃないんです!


 叫んでもその言葉が通じるはずもなく、アレナはフヨフヨと浮かんで待ち伏せをしているであろう人間の元へと向かって行ってしまった。

 俺もすぐに追いかけるが、こうして慌てているからこそ失敗する。

 追いかけようと力を入れた瞬間、弾丸のように飛んでいってしまい、壁に激突した。

 軌道修正ができるはずもなく、変な方向に飛んでいく。


『いでぁ!?』


 なんでこいつ無駄に足が速いんだよ!!

 それよりアレナは!?

 っておおおおい!

 もう対峙してるやんけ!


 操り霞で状況を探ったところ、既にアレナと人間は交戦していた。

 距離も結構近かったのだ。

 俺がまごついている間に接敵していてもおかしくはなかったが、これはマズい。


 今度は慎重に歩いて追いかける。

 歩くだけでも人間の全力疾走くらいの速度は出るので、これで十分だ。


『アレナ!? 大丈夫か!?』

「『重力操作』」

「「ぎゃああああああ!」」

『わーっつ』


 俺が駆けつけてみると、奇妙な攻撃がそこには広がっていた。

 冒険者らしき格好をしている待ち伏せをしていた人間は、アレナが所持していた手裏剣に追い回されている。

 手裏剣は軌道を何度も何度も変えては、冒険者に襲い掛かっていたのだ。


 見たところ、そんなに腕に自信がある奴らではないようで、飛び回る手裏剣に成す術もなく追い回されているだけだった。


「あ、応錬! 魔物じゃなかった!」

『うーん、知ってた』

「でも襲ってきたよ。こういう時どうすればいいの?」

『え、俺に聞かれても……』


 流石にダンジョン内でのいざこざについては聞いてなかったなぁ……。

 でも言ってしまえば、こいつらがやろうとしたことは犯罪でしょ?

 んじゃまぁ……。


『『空圧結界』』

「「ごっは!?」」


 突如として現れた結界に顔面から強打する二人。

 とりあえず閉じ込めることに成功したので……後は……。


 やっべこれからどうすればいいんだろう。

 連れて回るわけにもいかないし、地上に持っていくのも面倒だし……。

 このまま放置でもいいんだろうか?

 運が良ければ他の誰かが助けてくれるはずだけど……。


 いや、こいつらは犯罪を犯そうとした。

 まぁ俺の結界はこいつらじゃ解除できないだろうし、帰ってギルドに報告すれば問題ないだろう。

 本当は縛っておきたいけど、出られないのであれば同じことだな。


「おい! なんだこれ!」

「いってぇ……」

「んー……あ。えーっと、この人たちは、犯罪者です。助けないで、くーだーさーいっ。ペタッ」


 アレナが持っていたマップに使用する紙を一枚取り出し、そこに大きく文字を書いた。

 そして貼り付けようとしたが、糊も使っていないのですぐに剥がれてしまう。

 なので俺がもう一枚空圧結界を作り出し、挟み込むようにして維持させる。

 こうしておけば、仮に違う人が来てもこの文面を見てくれるだろう。


 ナイスだぞアレナ。

 じゃあ俺たちは先に進むとしますかね。


 ていうかこいつら低級冒険者を狙った盗賊だろ。

 怖いわー……。


「チッ、帰るぞ」

「だな」


 えっ?


 すると、二人は懐から魔石を取り出した。

 俺がそれに気が付いた時には、もう既にワープしてしまい、いなくなってしまった……。

 完全に失念していた。


「あ……」

『対策はしてたか……。俺たちが甘かったな……』


 てか大丈夫かよこれ。

 犯罪に悪用されてるじゃん……。

 これは帰ったら教会の連中にこのことを説明しておかないとな。


 というか、さっきのアレナの技能が気になるぞ?

 あれは何だったんだ……?


 俺は先ほど見たアレナの技を無限水操で模し、アレナに聞いてみる。

 すると俺の言いたいことはすぐにわかったようで、説明してくれた。


「さっきの? あれは重力操作だよ! なんかね、動かしたい方向に手裏剣が動いてくれる便利な技能なんだ~。生き物には使えないみたいだけど」

『……おっふ……。なんて恐ろしいものを……』


 重力操作に重加重加えたらとんでもない攻撃力になりそうだな……。

 というかあれか?

 重力の向きを変えられるっていうことなのだろうか?


 なんにせよ……貴方結構チート技能持ってますわよね??

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