2.19.サテラお姉ちゃん

 俺とアレナは夜遅くまで語り合った。

 俺が質問するときは一種のナゾナゾをしている気分だったが、アレナ的にはとても面白かったようだ。

 まぁ出来る事で会話をしているのだし、多少の問題は仕方が無いだろう。


 だがアレナのことは大体理解することが出来た。

 まず第一にアレナは『ヒューマン』という種族らしい。

 まぁそのままの意味で人だな。


 この世界ではこの『ヒューマン』という種族が多いようだった。

 だが裕福な層もあれば貧困層もあるようで、アレナはその間に当たるヒューマンだった。


 村では畑仕事して何とか生活を保ってきたが、領主が奴隷商人の依頼を断ったため、奴隷商人が人を雇って里の人々を攫ったらしい。

 もちろんここまで難しい話をアレナが出来るはずもないので、俺は何とかアレナの持つ情報だけを頼りにここまで推測を立てることに成功したのだ。


 ぶっちゃけ滅茶苦茶苦労した。

 アレナの言葉からは「領主様」、「いい人」、「奴隷商人来たけど帰った」などと言った断片的な情報しか得られなかったのだから。


 アレナの話しからして領主はいい人だったと言うことが伺えた。

 多分奴隷商人がやってきたのはこの村から奴隷を出せという申し出に違いない。

 それを領主は断ったので、一度奴隷商人は帰ることにしたが、諦めることはせずに強行な手段を用いた。

 と言うことだろう。


 多分合ってるだろ。

 俺の勘がそう告げている。

 だがそこまでする物なのか?

 まぁ奴隷は金のかからない労働力だしな。

 そういった面では奴隷を欲す人たちも少なくはないのだろう。


 あとアレナから聞けたことと言えば、両親をすでに失っていること。

 家族もばらばらになってしまったこと。

 それとアレナには両親と二つ上のサテラという姉が居るらしい。

 両親を失い、唯一の心のよりどころである姉からも引き離され、暫くはふさぎ込んでいた様だ。


 だがアレナの姉、サテラはこの馬車には同乗していないらしい。

 アレナは前に、奴隷達が押し込められている馬車に乗せられていたが、人数がオーバーしてしまったためこちらに一人だけ移動された。

 なので捕まった里の人達の顔は覚えているらしい。


 しかし、その中にサテラの姿はなかったと言う。


 ではサテラは何処へ?

 推測できるサテラの行方は数個ある。


 一つは自力で逃げ出すことが出来た場合だ。

 無抵抗でただ捕まるわけにはいかないだろうし、逃げ出すことが出来た村人も勿論いるはずだ。

 その中にサテラがいる可能性は十分にある。

 と思ったのだが……。


「お姉ちゃんは私と一緒に捕まった」


 ……と言うことらしい。

 残念だがこの推測は間違いであるらしい。


 もう一つの推測は、先ほどの件を踏まえて考えてある。

 それが他の人に助けられた場合だ。

 村の人も子供が連れ去られそうになっている所を見て黙っているはずがない。

 助けられた可能性も十分にある。


 アレナとサテラは捕まってすぐに引き離されたらしい。

 なので何処かで助けられて、生き延びているかも知れない。


 で、三つ目の推測なのだが……これは一番最悪なケースだ。

 それは……他の奴隷商人に連れ去られた場合。

 襲ってきた奴隷商人と冒険者はまず、まともに生活をやりくりしている人ではないだろう。

 襲ってきた奴隷商人たちは一団体ではないかも知れない。


 里の人を攫って奴隷にする計画があったのならば、奴隷商人たちは必ず食いつくのではないだろうか?

 この世界にどれくらい奴隷商人が居るかは分からないが、世界中に奴隷制度が設けられているのであれば、必ず複数の奴隷商人が居るはずだ。


 そうなるとサテラの安否は勿論、行方すらも分からなくなってしまうだろう。


 んー俺としては助けてあげたいな。

 だってこいつら奴隷商人がやってる事って多分違法な行動でしょ?

 だったら縛り上げなければ。


「ねぇ白蛇さん」


 はい、何でしょうかお嬢さん。


「お姉ちゃん助けること出来る?」


 ……今の俺では無理だな……。

 俺は首を振って無理だと言った。


「やっぱり難しいの?」


 俺はそれにも首を振る。

 「今は」出来ないだけであって進化すれば、助け出す可能性がある。

 だがアレナは俺の考えていることが分からないようだ。

 なので水で絵を描いて説明する。


 自分の姿を象って牢屋の中に閉じ込める。

 その後にバッテン印を書いて「今の俺では牢からも出られない」と表現する。

 その後に俺がご飯を食べる様子を描き出す。

 そして進化して強くなり、牢を壊してお姉ちゃんを探しに行く様子を書いた。

 結構幼児向けの絵で描いたが……分かってくれただろうか。


「……かごから出られない? でも、ご飯を食べると大きくなって……出られる。この子はお姉ちゃん?」


 ほぼあってる!

 完璧にはやはり伝わらないがこれだけ伝わったら問題ないだろう。


 俺は頷いて合っていると表現する。


「お、お姉ちゃん探してくれるの?」


 それにも頷く。

 流石に放っては置けないしな。

 だが俺がもう少し強くなってから出ないと探しに行けないのが問題だが。


「白蛇さん。私のことは良いから、お姉ちゃんのこと探し出して助けてあげて」


 え、いやそれは……できればアレナも助けたいんだけど……。

 てかこれが年端もいかない女の子が言う台詞か!?

 俺は自己犠牲を許したくはないぞ!?


 だがアレナはそんな俺をよそに言葉を続ける。


「私は多分……サレッタナって言う国に連れて行かれてると思う。まえに馬車で二週間の道のりだって里の人が言ってたの。私の居る場所が分かってるなら……何も分かってないお姉ちゃんをまず助けて欲しいの」


 え、この子頭の回転良すぎない?

 それに普通ならまず自分が助かろうとするのが自然なのだがな。

 アレナは自分の事よりも姉の心配が出来るのか……凄いな。


 だがアレナの言う通り、行く場所が分かっているなら助けに行こうと思えばすぐに行ける。

 一方サテラは何処に居るかも、何処に行ったのかも分かっていない。

 サテラを探すのは簡単ではないはずだ。

 もしかしたらアレナは、今助かってもサテラを探すことは出来ないと理解しているのかも知れないな。


 それに今アレナを助けたとしても、俺は世話出来ないだろうし……アレナも一人で生きていくのは難しいはずだ。

 だったら……不服ではあるがしばらくの間、奴隷商人の元で生活しいていた方が、命の安全は保証できる。

 酷いことはされるだろうが殺すことはないだろう。


 俺は考えた結果、今は頷くしかないという結論に至った。

 アレナは嬉しそうだったが……俺としてはとても心苦しい。

 だがアレナが覚悟して俺に提案した事だ。無下にはできない。


「ありがとう、白蛇さん」


 …………物は試しだ。

 やってみよう。

 俺はひらがなで応練と書いてみる。


「……? これなあに? 文字?」


 やっぱり駄目か……まぁ無理だよな。

 この世界で日本の言葉が通じるはず無いもんなー。


「もしかして……これ白蛇さんの名前?」


 そうです!! そうなんです!!

 よく分かったな!


「読めない……」


 ですよねー……知ってた。

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