2,18.アレナ
アレナは俺が人の言葉が分かると知るや否や、とにかく質問に質問をぶつけまくってくる。
だが俺は首を縦に振るか、横振るしかできないので一方的な尋問になっていのだが、アレナはそれだけでも楽しそうだが。
「お家はあるの?」
「家族は居るの?」
「お友達は?」
「住んでた所ってどんなところ? あ、答えられないね……」
ごめんな?
何とかして俺も答えようとは思うんだが……喋ることは出来ないからな。
難しいんだこれが。
何とかならないものかね。
例えば無限水操で文字を……ってこの世界の文字知らんかったわ。
じゃあ絵文字か?
絵文字なら表情とか背景とかを表現できるからまだ会話は成立するんじゃないか?
物は試しだ、やってみよう。
俺は無限水操で水を出して形を作ってみる。
住んでいた場所って事だったから……滝と、滝壺と、俺の家を作ってみれば良いか。
初めての試みなので出来ないかもと思ってはいたが、案外何とかある物だ。
上手い具合に絵を作ることが出来た。
滝の部分は水の流れを表現しておく。
あと相手は子供だから、幼児向けの絵を書いてあげた。
さぁ……どうだ?
「……滝? あ、お家。もしかして滝のある場所にお家があったの?」
よし! 上手く伝わったようだ!
俺はコクコクと頷いて合っていると表現する。
アレナはその反応を見て笑顔になった。
初めて会話が成立したことが嬉しいのだろう。
「すごいすごい! 白蛇さんの事もっと教えて!」
とは言ってもな……俺から教えようとすると誤解される可能性もあるしな。
出来ればアレナから質問してくれると有難いなぁ。
あ、でもアレナのこの感じ……俺が質問するのを待ってるな?
えーーちょっとまってどうしようかな。
クエスチョンマークとかこの世界で通じるの?
どうなの?
うん。やっぱり文字は使わない方が良いな。
そうだ。
アレナの家はどうなってんだ?
てかどうして奴隷になんてなったんだ?
それが聞きたいな。
だが奴隷っていう絵文字は書けそうにないな。
じゃあアレナの家について聞いてみるか。
俺は水で指の形を作ってアレナを指す。
そうしてから水を変形させて家の形にする。
意味的には「君の家は?」という意味なのだが……伝わったか? これ。
「私? お家?」
そうそう。
貴方の家はー?
「私のお家?」
それです!
俺はまた頷いてそれで合っていると表現する。
アレナは嬉しそうになったが、すぐにシュンとしてしまった。
やはり何かあって奴隷になってしまったのだろうか?
「私の村あの人達は……奴隷商人の雇った人達に攫われた。私もその一人……ママとパパは私を逃がそうとして殺されちゃった……」
泣くことはなかったが、とても悲しそうな表情でゆっくりと話してくれた。
お、おいおいおい。
俺の考えが的中してしまったじゃないか。
だが奴隷商が冒険者を雇って人攫いをするんだな。
出来るだけ足が着かないようにするための方法なのか?
とは言っても周囲にはもう冒険者は居ないようだな。
操り霞を使用しているが人は先ほど見かけた三人と、馬車を動かしているであろう人しか居ないようだ。
馬車は合計五つ。
なので人数は八人居ることになる。
あと一つの馬車に十数人の人の気配がある。
これが多分アレナの里から連れてきた奴隷達だろう。
やっぱりアレナだけを逃がすって言うのは難しそうだな。
まずアレナが納得しないだろう。
俺も人を倒せるほど強力な魔法攻撃を覚えている訳じゃないから助け出すのも不可能だ。
ていうか初めっから嫌なこと聞いてしまったな。
だが謝ることも出来ないし……ああああもどかしい!
とりあえず顔文字だ!
こう言うときは顔文字で今の気持ちを伝えよう!
どんな顔文字を書くかって?
決まってるじゃないか「(´・ω・`)」だよ!
顔文字を書くとアレナはそれを見て固まってしまった。
だがそれも一瞬のことですぐに笑い始めた。
「あははははっ! なにそれ! 可愛い!」
そうだろうそうだろう?
今度は「(^ω^)」に顔文字を変更する。
アレナはそれを見てまた笑ってくれた。
うん。これならアレナにも俺の感情を表現できそうだ。
バリエーションが無いのが悔やまれるが追々作っていくとしよう。
兎にも角にも、先ほどの重い空気は嘘のように無くなった。
顔文字って偉大だ。
俺も今度から質問する内容は考えなければならないな。
だが……奴隷商人ね。
こんなことやっているのがバレたらただでは済まないだろうし、この案件は絶対に覚えておくことにしよう。
今頃はその領地を治めている人物たちが大騒ぎしているかもしれないがな。
「今度は私が質問するね」
お、順番に質問していく感じね。
いいぞ! 何でも聞いてくれたまえ!
「恋人の蛇さんはいるの?」
ブッフォ!
こ、子供のくせになんちゅーことを聞いてくるかな!
やっぱり貴方凄いね!
いつか大物になるわ!
てかいないわ!
嫌だわ蛇の恋人とか!
でもあれなのかな。
これくらいの歳になったらもう気にし始めるのだろうか。
男だった俺には分からないが。
とりあえず首を横に振っておこう。
「じゃあ次白蛇さんの番!」
随分楽しそうに聞くじゃないか……。
まぁ俺もこうして人と話せる機会があるとは思っていなかったし、アレナに出会えたことは嬉しいな。
で、俺の番か……。
何を聞こうかな-。
ダッダッダッダッ!
考えていると誰かがこの馬車の中に入ってきた。
誰だと思ったら俺を捕まえた男の一人だ。
凄い形相でこちらの方を睨んでいる。
「おい! 何を騒いでいる! 静かにしていろ!」
「ひっ」
そういってアレナの入っている檻を乱暴に蹴り始めた。
檻自体はさほど重くないようで蹴られれば簡単に動いてしまう。
そんな檻の中にいるアレナは体も小さいため抵抗することすら出来ない。
揺れに足を取られて転けてしまい、檻に肩をぶつけてしまった。
「今度騒いでみろ! この蛇に喰われて貰うからな!」
……俺?
ちょっと冗談キツいぜ。
男は言葉を言い切るとすぐに出て行ってしまった。
やっぱり見つかるのを恐れているようだな。
アレナはぶつけた肩を痛そうにさすっていた。
だが泣きはしなかった。
強い子だと思ったが、これも奴隷商達による調教で泣かなくなっただけだ。
普通なら大声で泣きわめいてもおかしくはない。
俺は男が出て行ったことを確認したあと、無限水操で少し大きめの水を作り出してアレナの肩につけてやる。
これで少しはましになるだろう。
アレナも俺の気遣いに気が付いたのか、こちらを向いて笑ってくれた。
「私を白蛇さんに食べさせちゃうんだって。可笑しいね」
声を殺してクスクスと笑い出す。
俺も笑顔の顔文字を隣で作り出して同じ表情を表現する。
今度からはもう少し気を付けて話をしないとな。
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