2.17.男たちの正体


 目が覚めた俺は見知らぬ場所にいた。

 周囲には檻が沢山ある。

 動物などが入れられているようだが……一体何なのだろうか。


 動物園?

 んな馬鹿な。


 ガタガタと外から音が鳴っているし、床も揺れている。

 どうやら何かに乗っているようだ。

 先ほど見た馬車にでも乗せられているのだろうか?

 テントのような幕がドーム状になっていて雨風を防いでいるようで、外が見えない。


 だが乗り心地はそう悪い物ではない。

 久しぶりに揺れという物を体験できたので眠くなってくる。

 さっきも寝ていたのでもう眠くはないが……。


 唯一不満があるとすれば……俺が牢に入れられているところだろうか。

 蛇用の牢なのか細かく鉄が編み込まれていて、口の先っちょしか出すことができない。


 残念ながら脱出する方法はなさそうだ。

 俺の技能ではこの鉄は破れそうにないしな。


 他の牢には何がいるのだろうか。

 牢というより動物が入っているから檻と言ったほうがいいかな?

 見渡してみると様々な動物がいた。


 前に戦ったアザワラチ、飛びモグラ、そして俺を遠くまで運びそうになった大鳥。

 他にも見たことのない生物が沢山いる。

 だが異常に大人しい。

 人に捕まればそれなりに暴れるはずなのだが……もしかして嗅がされた香に何か仕掛けがあるのかもしれない。

 てなると俺自身も何かされているのではないだろうか?


 そう思って体中を見て回るが特に何ともなっていない。

 異常はなさそうだ。

 技能も問題なく使えるし脱出する時も問題なさそうだな。


 だがこの状況って結構まずくないですか?

 俺何処に運ばれてるんだろう。

 絶対売り飛ばされる。

 どこかに売り飛ばされるんだ……!


 クソウ。

 生き物を道具にして金を稼ぐだなんて……なんて野郎だ!

 人間になったとしてもこういう奴らには近寄らないようにしておこうかな。

 もっといい人に会いたい。


 つーかなんもすることねー。

 どうしよう……。

 なんか動きがあったら脱出できるだろうし、それまでは目を離してはいけない気がするけど……無理だよなぁ。

 寝る!

 考えていても仕方がないので、俺は寝て時間を潰すことにした。



 ◆



 ―数時間後―


 目が覚めてしまった。

 馬車の中なので周囲の明かりで今夜なのか、朝なのかどうかが判別できない。

 困った空間だ。

 潜水艦の中かっての。


 バサッ。

 コツコツ……。


 誰かが入ってきたぞ?

 あ、あの男どもだ。何持ってんだ?

 ナイフ? と……こいつらにやる食事かな?


 男たちはその辺にいる動物に餌をやり始めた。

 量は動物によって変えているらしい。

 俺には結構な量の生肉が渡された。


「おい、こいつには薬入れてねぇだろうな?」

「当り前じゃねぇか。希少種だぞ? 変に薬なんか与えて具合悪くなっちまったら値が落ちるだろ?」

「いや、だったらいいんだ。疑ってすまなかった」

「ま、金になる蛇だしな。心配になるのもわかるけど安心しろよ。そんな変なことはしねぇから」

「おう」


 なるほど……。

 こいつらは薬入りの肉を食わせているからこんなに静かなんだな。

 でも俺には変な肉は食わせないと。

 まぁ蛇だし声もほとんど出さないだろうしな。


 それに希少種か……それだけで金になるなんてすげえな。

 俺とりあえず土王蛇なんですけど。

 貴方たち知ってて捕まえてますか?


 男たちは動物たちに餌をやり終えると、すぐに出て行ってしまった。

 とりあえず生きていくためには食べなければならないので俺も食べさせていただく。

 なんの肉だろう……。


【経験値を獲得しました。LVが4になりました】


 まぁ……こんなもんだよな。

 でも経験値は手に入るな!

 じゃあこれで進化することが出来ればこの檻すらもぶっ壊せる技能が手に入るかもしれない!


 次の進化は種族変更進化だ。

 強い技能が必ず手に入るはず……!

 だけど…………しばらく牢や生活ですか……クッソ暇そう。


「おい! さっさと歩け!」

「──っ!」


 おん?

 なんか外から不穏な空気が……どうなってんだ?


 耳を立てていると、突然この部屋に何かが転がってきた。

 それはとてもか弱そうな少女で、みすぼらしい服を着ていた。

 体中傷だらけで泥まみれ。

 さらには首に枷が付いている。

 この姿を見ただけでも碌な扱いを受けていないということが分かった。


 少女は先ほどの男に引っ張られてこの部屋の大きな牢に入れられてしまう。


「ったく手間かけさせやがって……」


 騒ぎを聞きつけたもう一人の男が、慌てた様子でこの部屋に入ってきた。


「おいおい、そんなに大きな音を立てて大丈夫か?」

「見られないことが大前提だ。向こうは奴隷でいっぱいだからな。これ以上は向こうに乗せれないから子供だけこっちに移した」

「ああ、なるほどね。確かに今回は積み込みすぎたな。次からはちょっと少なくしないとな」

「だな。反省反省」


 こ、こいつら奴隷商か!

 こうして隠れながらやってるってことは……正式な依頼とかではなさそうだな。

 密輸とかその類か……?


 だが……奴隷か……。

 ついに出て来たな。

 この世界に奴隷制度があるかもしれないとは思っていたが、実在するというのは見るまで信じないつもりだったけど……男たちの話でも奴隷という単語が出てきた。

 間違いなくこの世界には奴隷制度があるのだろう。


 だが奴隷制度があるのになんでこいつらは隠れながら奴隷を運搬しているんだ?

 国から国に移動させるときにはお金がかかるから、こうして隠れていたりするのか?

 ってよくよく考えてみれば、そんなことよりやばい理由があるんだよな。


 何処かから奴隷として他種族を拉致してきた可能性だ。

 これだけはどの国からも法として認められていそうな法律ではなさそうだしな。

 奴隷という物が普通に生活していてどういう風に作られていくのか、この世界を知らない俺では見当もつかない。


 だがそれだけでは足りないのかもしれないな。

 労働力が。


 だからこうして辺境の地に住んでいる他種族を拉致してきているのでは?

 というのが俺の考えだ。

 仮説だから正解かどうかはわからないんだけどな。


 男達は少女の檻に鍵をしてから出ていった。

 少女を見てみるが……本当に酷い傷だ。

 治してやりたいが俺の技能では治すことはできないだろう。

 自分用だしな……。


 少女は体についている重たそうな首輪と足枷を引きずって牢屋の隅っこのほうに移動する。

 壁が近いほうがまだ安心するのだろう。


 何とかしてやりたいけど……それも無理だ。

 まず首輪や足枷など外せるはずもない。

 逃げ出せたとしても、子供の足ではすぐに追いつかれて捕まってしまうのがオチだろう。


 そもそも俺が出られねぇから人を助けるんなんてできるはずがないんだけどな……悲しい。


 どうやら少女は普通の人間のようだ。

 黒い髪と黒い瞳は日本人を思い出させるが、顔だちは貴族の姫様だ。


 よくもまぁこんな可愛らしい子に首輪や足枷を付けて暴力なんて振るえるものだな!

 あの奴隷商絶対に許さん!


 マジで人間側につくときは人を見極めたほうがよさそうだな……。

 失敗すると碌な目に合わなさそうだぞ。

 ていうか大丈夫か?


 そう思って顔をできる限り近づけようとしたのだが……。


「ひっ! 来ないで!」


 あ、すいません……。

 俺でっかい蛇だもんな……そりゃ怖いよね。


 でも白蛇だよ!

 縁起よさそうな色してるでしょーっつっても声も出せないし、日本じゃないしそういう感覚ないよね……。


 俺はすごすごと下がる。

 蜷局を巻いて顔だけ少女のほうに向けておく。


「見ないで!」


 ごめんなさい……。


 蜷局の中に頭を突っ込んだ。

 なんだこれ、はたから見ると結構かわいいんじゃないのか。

 でも見ないでって言われたし、こうでもしないと俺の視界は広いままだからな。

 まぁ目で見えなくても操り霞を使用して周囲はすべて把握できているから問題はないのだけど。


 おや? 少女がずっとこっちを見てるな。

 怖いからかな……?

 まーそうだよな~怖いよな……だってでっかい蛇だぜ?

 俺だって小学生の頃にこんな大蛇見つけたら全力で逃げるもん。


「…………言葉がわかるの?」


 がばっと顔をあげて少女を見る。

 少女はいきなり動いた蛇を見て驚いてしまったようだが、それも一瞬のことですぐに顔をこちらに向けた。


「み、右向いて?」


 言われたとおりに右を向く。


「上を向いてみて?」


 上を向く。


「パクパク」


 口をパクパクさせてみる。

 てか少女がパクパクとか言うと可愛らしいな。

 子供だから許すけど大人が同じことを言ってらちょっとドン引きする。

 少女は俺が完璧に人の言葉を理解する蛇だと認識したようで、こちらに近づいてきてくれた。

 何とか警戒心を解くことに成功したようだ。ほとんどまぐれだけど。


 しかしこの子も勇敢だな。

 いや、怖いもの知らずとでも言おうか。

 てかさっきの行動だけで言葉がわかる蛇かもしれないってよくわかったな。

 大人なら絶対にそうはならないはずだ。

 この子結構柔軟性があるんじゃない?


「すごい……お名前ある?」


 これには全力で頷いておく。

 俺には応錬という名前があるのだ。

 流石にペット感覚で名前を付けられたくはない。


「そう……でも流石に聞けないね。私はアレナ。よろしくね」


 この子……いろんな意味ですごいな。

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