2.16.トラップ


 あの戦いが終わってから俺は寝床を探して彷徨っていた。

 この辺りは木が細く、まだ若い葉が付いている。

 まだ五十年も生きてはいなさそうな木たちだ。

 ということは植林が行われているのかもしれない。


 人の里がこの辺にはあるかもしれないな。

 木を伐採しているということは……大工関係の仕事の人がいるのかな? 


 木を管理しているのであれば、運搬路とかも開拓されてそうなんだけどな。

 そう考えると人が住んでいる場所まで吹き飛ばされたのだろうか。

 あの野郎……まだ人間の姿になれないのにこんなところまで飛ばしてきやがって。


 しっかし……ここまで何もないとあれだな。

 いや何もないわけじゃないんだが……寝床となる場所が一切ない。


 あー……第一拠点が恋しい。

 結構頑張って掃除したもんな……リフォームもしたし。

 結構愛着あったんだけど……仕方ないか。


 あそこから随分遠くまで歩いてきたけど……コケすらない!

 悲しい!

 俺にはコケが必要なのに……。


 コケないかなぁ。

 あのふわっふわした感覚をもう一度味わいたい。

 いや、皆さんコケって汚い物じゃないんですよ?

 確かにドブとか沼にあるイメージがあるけど、ただ繁殖しやすい場所ってだけですからね。

 匂いとか全くないですから。


 ほら、日本庭園とかにもあるでしょ?

 コケが生えているお寺とか有名じゃないですか。

 汚い物じゃないんですよ。

 汚い物じゃないんだよ!


 すげぇ……俺、コケだけでここまで力説できるのかよ。

 まぁコケは最強だからね。

 寝床として。


 きょろきょろとしながらコケを探す。

 しかし探せど探せどコケは見つからなかった。

 だんだん疲れてしまい注意が散漫になっていて、一つのトラップに気が付かなかった。


 のぉおおおおおお!?


 そのトラップは網を使ったもので、仕掛けを踏んだと同時に自分の周囲を覆うようにして縄が俺を包み込んだ。

 そして宙づりにされてしまった。

 よくある典型的な罠ですね。


 いや……なんていうんですかね。

 ここまで典型的な罠にはまってしまって少し恥ずかしいというか誉というか。

 自慢話になりそうだよね。


 網目が細かくて俺では通れそうにないな。

 何とかして千切るか。

 これでいいかな、『剛牙顎』。


 剛牙顎を発動して縄を噛みちぎろうとする。

 これならどんな縄だろうと噛みちぎれるだろうと踏んだのだが……切れなかった。


 !? なんだと!?

 こ、こんの! ふん! ぬぬぬんー!


 え、まじで!? 何で作られてるのこれ!

 の、伸びるし柔らかいし……なにこれ!?

 ちょ、ちょちょちょっとまてよ~?


 何度も挑戦してみるのだが、全く切れる気配がない。

 感触としては切れないこんにゃくだ。

 剛牙額では切れない。

 確かにこの技能はかみ砕く方に長けている技能だからな。

 切るのには向いていないのかもしれない。


 ということで新しく手に入れた技能、大水流剣を使ってみることにした。

 技能説明に鋭いって書いてあるからこれなら切れるでしょう!

 はいっ、せーの。


 切れねぇ。

 なんでや! なんで切れないんや!

 なんかチェーンソーみたいに刃回ってんだぞ!? 回してんだぞ!

 てかすげぇなこの剣。

 切るっていうか削り切るって感じの剣だ。

 めちゃくちゃ痛そう。


 じゃなくて! 切れないんだって!

 『多連水槍』! ハイ切れない!

 『連水糸槍』! はーいお疲れさまでした!


 え、ちょっと待って詰んだくない?

 もう俺の技能で切断系の技能ないよ?

 うそやーん!

 誰かー! だーれか助けてくれーーー!



 ◆



 ―三時間後―


 誰も来ねぇ……。

 このまま忘れ去られてたら俺は餓死してしまう……。


 いやまだ死なないけどさ。

 蛇って一回食事したらそれなりに長く活動できるから問題はないはずだ。

 あのウズラの卵を食べる蛇……名前なんて言ったっけ?

 たしかあの蛇は一回卵食べたら一か月は何も食べないでも活動できるって聞いたことがある。

 他の蛇もそれなりに活動時間は長いんじゃないのかな?


 てかもう夕方ですよ。

 何回も試していますけど縄は一切切れません。

 何が使われるのこの縄。

 そう思って天の声に聞いたらすっごい意外な回答が返ってきた。


【蜘蛛の糸を使った縄。切れにくいが燃えやすい】


 蜘蛛ってどんな蜘蛛だよ。

 火炎系の技能を持っていない俺はもうどうすることもできなかった。

 暇すぎてずっとカミカミしているけどやっぱり切れない。

 これはもうこの罠を仕掛けたやつを待つしかないな。


 早く~だーれかきれくれ~。



 ◆



 ―翌朝―


 …………まじで?

 誰も来ないんだけど。

 もはやこの罠の存在忘れ去られてない?

 まぁ餌も何もない罠だから掛かること自体相当レアなんだろうけどさ。


 でも二日に一回くらいは見に来るでしょ?

 狩人かなんかでしょこんなことする奴。

 得物が死んでたら意味ないんだからちゃんと見に来なさいよ!


 でもここでの寝心地は悪くなかった。

 ハンモックに乗っている気分なので快適といえば快適だった。

 風通りが良すぎるのが問題だが。


 ガラガラガラ……。


 すると馬車のような音が聞こえてきた。

 そして何やら話し声も聞こえてくる。

 その音はだんだん近づいてきているようだった。


 ……この罠を仕掛けた奴らが見に来たか?

 やっと見に来たか?

 どうなんだ……?

 頼む! もう何でもいいから! 誰でもいいから下ろしてー!


 そして俺がかかっている罠の近くに馬車を止め、三人の男性が出てきた。

 人間だ。

 顔だちは日本人には程遠い。

 どちらかといえば西洋の人に近い。

 その人物たちの服装はみすぼらしく、腰に短剣を携えているくらいでこれといった防具は着ていないようだった。


「ーーーーーーーーーーーーーー!」

「ーーー!」

「ーー!! ーーーーー!」


 何やら俺を見て喜んでいるようだったが……言葉がわからない。

 まってこれ、人間になるためには一番必要な技能なのでは?

 天の声! 何とかしなさいよ!


【新しい特殊技能を取得しました】


 …………特殊技能!?


===============

 名前:応錬(おうれん)

 種族:土王蛇


 LⅤ :1/45

 HP :150/150

 MP :172/172

 攻撃力:124

 防御力:164

 魔法力:172

 俊敏 :54


 ―特殊技能―

 『天の声』『希少種の恩恵』『過去の言葉』


 ―技能―

 攻撃:『剛牙顎』『追跡』『猛毒牙』『連水糸槍』『多連水槍』『大水流剣』

 魔法:『操り霞』『無限水操』『泥人』『破壊土砂流』『破岩流』

 防御:『水結界』『水盾』『泥鎧』

 回復:『回復』

 罠術:『水捕縛』『偽装沼』

 特異:『発光』『土壌浄化』『土壌創造』

 自動:『悪天硬』『水泳』


 ―耐性―

 『眩み』『強酸』『爆破』『腐敗』『視界不良』『盲目』『毒』『気移り』『耐寒』

===============


===============

―過去の言葉―

 理解できない言葉を自らが知っている言語に変換する技能。

===============


 お、おおう。

 有難う御座います天の声様……これで俺は戦えます。


 技能を取得すると男たちの会話がわかるようになった。


「おいおい! これは金になるぜ!」

「だなぁ! おいさっさとおろそうぜ?」

「ちょっと待ってろ! 今檻持ってくるからよ!」


 …………あれ?

 ちょい待ってなんかこの雰囲気怪しくない?

 完全に俺売り飛ばす気ですやん。

 まぁ捕まえるんだったら普通それか食われるかのどっちかだからまだいいほうなのかな?


 あっらー豪華な檻持ってきちゃって。

 えぇ?

 なにそれにこの俺を閉じ込めようっていうの?

 あらあらちょっと冗談きっついわね。


 だがそんなものに簡単に入ると思うなよ!

 こっちも命かけてるからな!

 だがとりあえずこの罠を解いてくれない限りは脱出もできないからしばらくはおとなしくしておこう。


「ほら、これ」

「ああ」


 男たちは俺の近くに何かの香を焚き始めた。

 なんだこれと思っていると次第に眠たくなっていく。

 そこで気が付いたのだが、これはおそらく眠り薬みたいなものだ。

 俺はとっさに息を止めるが気が付くのが遅すぎた。

 すでに思考ができないほどに頭がぼーっとし始め、最後には深い眠りに落ちてしまったのだった。


 次に目を覚ました時には綺麗に檻に入れられていたのだった。


 くっそ。

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