4.41.鳳炎の実力
ギルドを出て数時間……。
ダトワームが徘徊しているといわれている場所まで辿り着くことができた。
鳳炎は魔物の知識が非常に豊富だったため、特段下調べなどは必要なかったのだ。
一体何処でそんな情報をかき集めてきたのか……。
聞いてみれば全て空の声に聞いた物らしい。
しばらくは図書館に籠って、空の声に質問攻めをしていたのだとか。
おかげで魔物の知識が非常に豊富となり、Aランク冒険者まで登り詰めれたという。
技能はチートだし、敵の情報を持っているか持っていないかで戦い方を変えるので、しっかりと弱点を見極める必要があったらしい。
鳳炎は見かけによらず勉強熱心だという事が知れた話であった。
「で、ダトワームの生態はどんなのなんだ?」
「あいつは火を非常に嫌うのだ。暖かい場所も嫌う。だから地面の奥深くにいることが多いのだが、水を求めて湿気の多い場所まで出てくる事がある。基本はそこを狙うのだ」
ダトワームの狩り方は基本的に待ち伏せ。
出てくるまで待つというのが基本スタイルらしい。
一日に何度かはその場所に出てくるらしいので、見つけること自体は難しいわけではないのだが、それなりの攻撃力のある攻撃で地面を叩かないとびくともしないのだとか。
まぁ、あれだけ体デカいんだし、当然といえば当然だ。
体も非常に硬いという事は、過去に牢をぶち壊したので実証済みである。
くそ痛かったな。
で、ダトワームが出てくるところを見極めるのは……。
「簡単なこと。大きな穴があるからそれを探せばいい。それか地面の盛り上がりだ。それを辿れば出てくるところがわかる」
とのことだ。
しかし、今考えてみれば、ダトワームは土地の栄養を回復させる能力があったはずである。
それを簡単に殺してもいいのかと思ったが……。
深い森などにダトワームが生息してその土地の栄養を回復させてしまうと、植物が良く育つようになり、それを食べに魔物が来る。
自然が豊かになり過ぎて、魔物の食べるものが増えてしまうと、その分魔物も増えてしまうので、時々間引いてやらないと厄災が起こる可能性があるのだという。
なので、あまり冒険者が立ち入らないような森で、ダトワームを見つけた場合は、すぐにでも討伐してしまったほうがいいのだとか。
ちゃんとした討伐理由がわかったところで、その大きな穴を探すことにした。
「じゃあそこは俺の出番だな」
操り霞を広範囲に展開し、地形を探ってみる。
この場所は森であったり平原になったりと入れ替わっているような妙な地形である。
まずは湿気の多そうな水場を探していると、すぐに見つかり、そこからは川になっているようだ。
その周囲を入念に捜索してみると、大きな地面の盛り上がりを見つけることができた。
少し辿ってみると、水辺の近くに大きな穴があった。
恐らくこれが、ダトワームが地上に出入りしている穴なのだろう。
「見つけたぞ。あっちだ」
「ほぉ……。その感知能力は素晴らしいな。私は空を飛んで探すので時間がかかるのだ」
「この技能には助けられてばかりだがな」
本当にいい技能である。
チートとまではいかないが、隙間さえあれば見ることのできる技能は素晴らしい。
俺の自慢の技能の一つだ。
場所もわかったので、俺たちはゆっくりとその場所へと歩いていく。
その道中……何やら鳳炎が俺たちをチラチラと見始めて、そわそわとしている。
何か聞きたいことがあるようだ。
「どうかしたっすか?」
「……ん。いや、大したことではないのだが……気になることがな」
「なんだ。言ってみろ」
鳳炎は口に手を当てて、聞きにくそうに……だが思い切って言った。
「……二人はつくものついてんの?」
その言葉を言った鳳炎は神妙な顔つきで俺たちにそう問うた。
俺はその言葉の意味を即座に理解し、固まった。
「……お前もか……」
「応錬もか!!」
俺と鳳炎はそれからがっしりと手を掴み合う。
俺だけではなかった、とでも言いたげに、鳳炎はうんうんと頷いている。
しばらく感傷に浸った後、俺と鳳炎は零漸を見据える。
「……え? 二人ないんすか? ……え?」
「「この裏切り者が!!!!」」
ものがある零漸に俺たちは大声で抗議した。
余りにも理不尽ではないか。
「何故貴様はあるのだあああ!」
「逆になんでないんすか!? 男っすよね!?」
「僕は人の姿になってから無性だよくそがぁああ!」
鳳炎が乱れている。
まぁわからんでもないが、なぜそこまで……。
「貴様にはわからないだろう! 三大欲求の一つが封印されることの悲しみが!」
「分かんないっすよ!」
「私は様々な娼館の前を歩いてきたが! 何も感じることがなぁい! あまりにも寂しすぎる!」
「知らんがな!」
鳳炎は零漸の肩を掴んで乱暴に揺すっている。
同じ立場の俺が言うのもなんだが、そこまで取り乱すことなのだろうか……。
俺は別になくても普通に生活できてるから良いのだけども……。
だんだん八つ当たりされている零漸がかわいそうに思えてきたぞ。
しかし何故だ?
何故、俺と鳳炎にはなくて、零漸にはあるのだろうか。
種族の問題……?
いや、でも俺も元は蛇だった。
雄、雌はあるはずだし……いやでも蛇の時に人の姿になったからなぁ……。
「で! 逆になんでないんすか!」
「知らん! だが空の声に聴いた! お前は不死だから消したってなぁああああ!」
「うわぁ……」
「ま、まじか……。俺もそんな感じなの?」
……ここははっきりさせておこう。
久しぶりだな天の声。
何故俺が無性なのか教えてくれ。
【最終進化先が龍だからです】
……もうちょい詳しく。
【龍はこの世界にいません。なのでつがいができません。そのため必要ありません】
そっち系かよ!
【なので消しました】
聞いてないわ!!!!
てか俺以外龍いないの!?
まぁドラゴンとかとは違うだろうけど……。
え? 天の声はなんで俺を龍にしようとしてるの?
この世界のマジの異形にしようとしてない?
ドラゴンはいても龍はいないんでしょ?
俺龍になったらどうなっちまうんんだ……?
俺が悶々と考え事をしている間……鳳炎は一人でキレていた。
「なんで貴様だけぇええ!」
「うっせぇっす!」
「この怒り! ダトワームに向けさせてもらうぞくそがああああ!」
そういった所で、鳳炎は自前の槍を地面に突き立てる。
「『炎操』『フレイムボム』」
地面の中に炎が入り込んでいき、まるでマグマが噴き出そうとしているような光景が作り出された。
炎の罅だ。
暫く炎を地面の中に潜り込ませていると、地面の中で爆発が起き始める。
何の耐性もない俺は、地震が起きたかのような感覚に陥ってしまい、体勢を崩さんとよろよろとバランスを取る。
零漸は……地震という耐性があるので不動だ。
「おおい! ちょっとやり過ぎだろ! まだ目的地にもついてねぇのに!」
「関係ない! 近くにいれば出てくるはずである!」
「んな大雑把な!」
爆発の地響きの中、より一層大きな地響きが伝わってきた。
俺は立っていることが出来なくなり、ついに地面に膝をついてその揺れに耐える。
と、次の瞬間。
ぼごぉ! と大きな音を立てて地面が反り返った。
「ギュウウウウウウ」
その場所からはダトワームが飛び出してきた。
鳳炎が地面に炎を送ったため、その熱さに驚いて出てきたのだろう。
「つーか声きっも!!!!」
「っしゃああ! ぶっ殺す!」
鳳炎は槍を地面から抜き放って全速力でかけていく。
その先ではダトワームが熱さに驚いてびったんばったんと暴れまくっているのだが……あのままではどの道鳳炎が吹き飛ばされてしまいそうだ。
「おい! 考えなしに進むなって!」
「問題ない! 『ファイヤーアロー』一点集中!」
走りながら槍を一度振り回すと、その場に炎の塊が出現した。
それらは分裂し、炎の矢になって、矢じりはダトワームに全て向けられている。
「放てぇい!」
炎の矢は一斉にダトワームめがけて飛んでいく。
だが、矢と矢の感覚が非常に狭く密集しており、見方によれば大きな槌のようにも見えなくはない。
それがダトワームに直撃する。
「ギュウウウウウウウウウウ!!?」
鳳炎の絶炎の効果が発揮し、ぬめりのあった体に火が付いた。
ダトワームは慌てて体についた火を消そうとするが、その火は既に体中に広がってしまっており、なかなか消すことができないでいた。
しかしダトワームの生命力は強い。
これしきの事では動きを鈍らせることもできないようだった。
「まだまだ! 『絶炎火柱』!」
今度は持っていた槍を地面に叩きつける。
すると、ダトワームの暴れているところから大きな火柱が上がった。
「あっつぅ!?」
「おいおい……マジか……」
俺はその威力をみて口を閉じることが出来なかった。
流石火を扱うだけのことはあって、その威力は申し分ない。
火柱が消えると、その中からは真っ黒こげになったダトワームの死骸が転がっていた。
酷い匂いがこちらまで漂ってくる。
「お、お疲れさん」
俺は鳳炎に声をかけるが、鳳炎はその場から動かない。
はて、どうしたのだろうかと思っていると、鳳炎が片膝をついてひどく疲れた様子でこちらを見た。
「……すいません……MP切れです……」
「「燃費悪いなお前!」」
俺たちのツッコミを最後に、この依頼は達成されたのだった。
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